Episode 44.私と彼女の棲む世界は違うのです。
食堂でアーシェの手作りのお弁当を食べていると、フィーナの手が私の太ももの内側まで伸びてきました。
「やめてよ!!集中出来ないから!!」
「ねぇ?アルシェ?そろそろ私も…リスティスさんみたいにして欲しいな…?」
最近、以前にも増してフィーナの私への愛の傾向が強くなってきておりました。
少し前までは…長めの口付けをしてあげれば満足してくれたのですが、最近男と女の身体の作りと…愛の営みについての講義を受けてから…フィーナは満足しなくなりました。
恐らく…あの講義の後、フィーナの事なので書籍等を入手して色々調べたのでしょう。
普段、講義中は適当に話を聞いているフィーナが…あの講義だけは、顔を耳まで真っ赤にしながら熱心に講師の話に耳を傾けていたからです。
「フィーナ?私達、女の子…同士だよ?」
「良いのよ!そう言う愛もあるって本に書いてあったもの?」
「あら?フィーナさんもアルシェ様の事お求めに?」
私とフィーナの話を黙って聞いていたアーシェが口を挟みました。
「フィーナさん“も”って何よ??」
「私は…毎晩アルシェ様から愛を頂いておりますから?」
「はぁぁぁぁっ?!な…何で!!あなた、不純よ不純!!子孫に手を出して良いわけ??」
元の私アヴィレネーナの養子兼弟子兼彼女だったアーシェが、この話黙って聞いていられる筈もない事は分かって居たのですが…アーシェの件は元の私が蒔いた種なので止める術が無い事も事実でした。
「言っておきますが、私からではございません。アルシェ様自ら私を求められたのですよ?」
「ねぇ…?アルシェ??私も…アーシェさんみたくしてよ…?ダメかな…?うぅぅぅ…。」
アーシェからのダメ押しにフィーナは、消えそうな声で涙を堪えながら私に伝えると、泣き出してしまいました。
「はぁ…。フィーナ?そんな期待しないでよ?いい??」
「うん…。」
泣きじゃくるフィーナを私はそう言って宥める事しか、思いつきませんでした。
――――
フィーナは私に抱き付いたまま暫く経って泣き止んだように見えました。
ですが、食堂の外が騒がしいのは全く止みませんでした。
「お弁当食べ終わったし、フィーナ?見に行きたいんでしょ?」
「うん…。」
私はフィーナの手を引くと食堂の外に出ようとしましたが、凄い人だかりで前に進めそうにありませんでした。
「フィーナ?どうしよっか?」
「アルシェと一緒に居れればいい。」
私は先程までお弁当を食べていた席の方を見ました。
すると、アーシェがお昼のお弁当の片付けをまだしているのが見えました。
「アーシェの手伝いして、一度部屋戻ろっか?」
「うん…。」
私とフィーナはアーシェの元へと駆け寄ると、片付けの手伝いを始めました。
「あら?食堂の外の騒ぎを見に行かれたのでは?」
「恐らく、騒ぎの原因何となく察しがついたから、行かなくてもいいかなって。」
私がシェザルネ達にかけた支配魔法が主因だと直ぐに分かりましたが、彼女達にはいい薬だったと思います。
「では、早くお片付けして、お部屋でゆっくりしましょうね?」
「はーい!」
流石に三人で片付けをするとあっという間に、お昼の用具を持ち運びする為の大きめの革製カバンに仕舞うことが出来ました。
「皆んなでお片付けするとこんなにも早いのですね?ありがとうございます。」
「いつも…ヴィレーナやアーシェに任せっきりで、やって貰っていたけど…大変なんだね。」
元の世界では、アヴァルウやアーシェが小さい頃は私が食事の支度等全てしていたけれど、二人が大きくなってからはアーシェが私の世話をしてくれていました。
アーシェが居なくなってからの三百年は…一人きりの生活でしたが、何も食べなくても平気な身体でしたので…誰かが来た際だけ振る舞うような生活でしたので、家事をしたと言う記憶も殆ど残っておりませんでした。
「アルシェ様に分かって頂けただけで…私は幸せですよ?」
「そこ…いちゃつくのダメ!!」
私とアーシェのほんわかする会話に嫉妬したフィーナが割って入り込んで来ました。
「じゃあ、一度戻ろ?『空間転送』!!」
――ボンッ!!
目の前に門が現れました。
「では、フィーナさん?先行きましょ?」
そう言うとアーシェはフィーナの手を引き門の中へ消えて行きました。
それを見届けると、私も門の中へと入りました。
――スタッ…
門から出た先は勿論ですが、寮の私の部屋にある私の寝室でした。
――パサッ…
「あ…アルシェ?!な、な、何してるの!?」
「フィーナは…私と、楽しみたいんだよね?そう…望んで泣いたんだよね??」
私は泣くフィーナに返事をした時、覚悟を決めておりました。
ところが、肝心のフィーナを見ると…私の気を惹きたくて口から出まかせで言ってしまったという、後悔の表情を浮かべておりました。
「あら?フィーナさん、アルシェ様のお誘いを断るおつもりなのかしら??」
先程からの一連の流れを見ていたアーシェは、煮え切らない態度のフィーナを煽り始めてしまいました。
「ん?なんか聞こえない??」
とりあえず一度この場をリセットしようと、隣のレーユの部屋から聞こえてくる声について話を振りました。
「もう!!リスティスは…誰でも良いのでしょうか…。」
「まぁ…さ?レーユはユーレの分裂体だから…ね?」
フィーナは顔が真っ赤にしながら声の聞こえる壁に耳を当てておりました。
この中で…男性との経験が無いのはフィーナだけでした。
とは言っても今の身体では、私もフィーナと同じです。
「す…凄い…。は、激しすぎない…?ねぇ??」
「フィーナ?リスティス叔母様は最近まで…商売として悪魔や小鬼や太鬼も相手に一日中していたこともあるみたいから、これぐらい平気なのかもね?」
「え…い…いま、アルシェなんて??」
私の衝撃的なリスティスの暴露話にフィーナは…動揺を隠せない様子でした。
「リスティス叔母様はね?一度に五人の悪魔と楽しんだ事もあるみたいよ?」
「ご…ご…にん?!だって…いち…に…!?足りないじゃない!!アルシェ嘘つくのも大概にしてよね??」
私の言っている事が、純情すぎるフィーナにとっては理解の範疇を超えているようで、嘘話に聞こえるようでした。
まぁ…知らなくても生きてはいけるので、それはそれで幸せな事なのかもしれません。
「じゃあ…フィーナも、今から私としてみる?」
「むり…むり…むり…。」
そう言いながらフィーナは首を小刻みに横に振っております。
「折角…アルシェ様から直々のお誘いを断るなんて…どこのお馬鹿さんかしらね?アルシェ様…?私でしたらいつでもお相手差し上げられますので…お声掛け下さい。」
「あ…あ…。」
フィーナは、恐怖のあまり身体をガクガクと震わせておりました。
「…産みます!!…」
隣の部屋からリスティスの声が一部分だけ大きな声で聞こえてきました。
まぁ、何がレーユとリスティスの間で起こったかは、後でゆっくりとレーユの記憶を読み取るとします。
ただ、リスティスからしたらレーユもユーレも同じ扱いなのかもしれません。
「いま…産むって、リスティスさん言ったよね!?」
「リスティスったら、レーユと子作りでも始めたんじゃないかしら?」
確かに先程よりも更に声と音が激しく聞こえてくるようになって来ました。
――ドサッ!!
「いやっ!!アルシェ…離して…!!」
「じゃあさ…フィーナ?こう言うのはどう?『変身』!!」
私はフィーナの上に馬乗りになり両手をベッドに押さえながら『変身』と唱えました。




