Episode 42.分裂したスライムは叔母を求めているのです。
「はぁ…。」
アーシェとヴィレースが交代した日の夜、久しぶりにアーシェと枕を並べて寝たのですが、私の身体が成長してきたからなのか…ベッドが少しだけ狭く感じながら眠りについたのを、ため息をつきながら思い出しておりました。
魔界序列二位のクロヴィスが魔人により倒された日から、一月程経ちましたが、最上級悪魔で序列四位のルジェンドフ達の動きは…気持ち悪い位に陰を潜めて居るのです。
「アルシェ様?」
「アルシェ様??」
レーユが二度も声をかけて居たのですが、ルジェンドフ達が何を企んでいるのか油断も出来ない状況が続き、考え事をする時が増えてきておりました。
「あ!!ゴメンね?レーユ。どうしたの?」
「あまり根を詰め過ぎないようにして下さいね?彼らに対抗出来るのはアルシェ様くらいしか居ないのですから。」
レーユは私を気遣っての言葉掛けのようでした。
そこまで根を詰めているつもりは無かったのですが、夜一緒に寝て居ないレーユが気付く位ですので、よっぽどの事だと思います。
「レーユ、ありがとうね?そう言えばさ…レーユは、リスティス叔母様が居なくて寂しくない?」
レーユは私に首を横に大きく振って見せました。
「アルシェ様が段々と…リスティスに似て来ましたので。あと…アヴィレネーナ様もいらっしゃいますし、あのお身体は格別です。」
「そんなに似てるかな…?格別ってさ…。やっぱり、最初に融合した後…私にかけた言葉はユーレの本音だったの?」
レーユは躊躇う事はせず首を縦に振りました。
先程の通り、魔人による事象が全く起きて居ない為、融合の練習だけは怠る事なく毎日続けてきました。
「アルシェ様のお身体もとても良いのですが…本当にアヴィレネーナ様のお身体はずっと纏わりついていたい位ですよ?」
「え、その事…ずっと黙ってたの?私に練習しようって言ってたのは…身体が目的だったってこと?!」
「はい。ダメでしょうか…?」
ここまで私に対して直球的に込み入った話をしてくるのは…クロヴィス、ヴィルジェス以来…三人目です。
「遊びなの?遊びじゃないの?どっち??」
「そうでは無くて…。僕はただ、アヴィレネーナ様のお身体の感触を楽しみたいのです。ダメでしょうか…?」
ユーレも…こう言った考えを持ち合わせているのでしょうか。
それとも、レーユだけに芽生えた事なのでしょうか…。
「ねぇ?レーユだけ?身体に触れるのが好きなのは?ユーレも同じなの?」
「アヴィレネーナ様と融合した際、ユーレがアヴィレネーナ様のお身体を気に入ってからなので、同じですね。ただ、対象がアヴィレネーナ様に限定されますので…。リスティスに対しては、好きと言う感情ですのでまた違うのです。」
そう言えば…リスティス叔母様の夫でアルリスやアヴィルグの父親と言う事もありましたが、魔界にリスティスを救出に出向く際…ユーレの事は何も警戒せずに、身体を見えなくする事ができると言う理由で身体を覆ってきたのでした。
「変な事…しないよね?」
リスティスに長年懐いてきたとは言え…元は魔物です。
「アヴィレネーナ様のお身体でしたら…もしかしたら間違いを起こしてしまうかも知れません。アルシェ様のお身体へは絶対に有り得ませんので大丈夫です。」
思い起こせば…レーユはユーレから分裂した際に私が”名付け“をしたのですが、通常ではあり得ない程の進化を遂げました。
これはあくまで仮定なのですが…融合時にユーレが私の魔力の濃い場所を吸っていたとしか思えないのです。
これも仮定にはなるのですが、前述の通りだとすると、ユーレとリスティスも融合出来るのではと密かに期待をしております。
「変身している間なら…余程のことしない限り、大丈夫だから。」
自分でも、レーユに対し何を言ってしまっているのか良く分からなくなっておりました。
――――
「アルシェ?今日はお昼ご飯どこで食べる?」
「いつもの食堂で良くない?」
級友のフィーナに教室でお昼についての話をされました。
実を言うと…先程の話は朝、登校する前のひと時の出来事でした。
「また食堂ですか?アルシェ様お好きですね。」
「もう!アーシェ様は少し…黙って頂けますか?」
フィーナはアーシェの夫の妹の子孫の為、話に割り込まれても、あまり強くは言えていないのはいつもの事です。
そんなことよりも…身体を這い回る感触が気持ち悪くてなかなか慣れないのです。
そう、レーユが私の服代わりになって守ると言い出したので、試しに今日一日だけ纏って生活してみる事にしたのです。
レーユの擬態はと言うと、流石に…私の魔力を吸い強く進化を遂げている為、見た目・感触共に全く分からないです。
ただし…レーユが触れている側は…あからさまにスライムが全身を這っている感触しかしないのです。
しかも、レーユはアルシェ様には興味がないと自信有り気に言っていた筈なのですが…レーユが私の大事な場所を覆い触れる感じが時間を重ねる事におかしくなってきておりました。
「ゴメンね?少しお手洗い行ってきてもいい?」
「私も行く!!」
「では…私も。」
そう言ってフィーナとアーシェもお手洗いについてきてしまいました。
――ガチャッ…
その二人には構わず私は一目散に個室へと入り、鍵を掛けました。
「『防音障壁』!!」
レーユとの会話を周りに聞かれたく無くて自分の周りに外からは音が聞こえない障壁を張りました。
「ねぇ?レーユ?何か…私の身体への触れ方おかしくない??本当に…変なことしちゃダメだからね??」
「何だか…アルシェ様に触れていると、リスティスの身体に思えてきてしまい…。」
三百年前にアーシェが眠りに着く前にかけた呪いのせいで、リーズランデ家の女子はほぼアーシェ似なのです。
今はアーシェも目覚め呪いは解かれたのですが、アーシェ、レスティアお母様、リスティス叔母様、それに大人の身体になりかけの私、が並ぶと髪型以外で判別が難しいのです。
ですので、レーユの言う事は理解出来なくも無いのですが…私に欲情されても困ってしまいます。
「リスティス叔母様とは最近逢えてないの?」
「はい。アルシェ様とほぼご一緒しておりますので…。」
レーユが暴走しそうになっているのは…どうやら私にも原因があるようです。
「あ!レーユ?良い事思いついた!!」
「何でしょうか…。」
私に何を言われるかレーユは小さな声で返事をしました。
「私の受講中、リスティス叔母様の所行っておいでよ?ユーレはヴィルディスお父様の所だから居ないし?」
「それは…大丈夫なのでしょうか?」
リスティス叔母様はレーユの事はユーレの分裂体としか思ってない筈です。
ですが、レーユが進化する前にユーレとリスティス叔母様は部屋を後にしたので、レーユの今の姿は見ていない筈です。
「リスティス叔母様のことさ?私に…重ねるくらいに大好きなら…さ?奪っちゃえば?」
「はい!!そうします。では…今からリスティスの所に行ってきても宜しいですか?」
そう言うと、レーユは私の身体から剥がれはじめました。
――チュプン…。
音を立てて床へとレーユの身体が流れ落ちてゆき、私の目の前にはクロヴィスが人間に化けていた際の姿、クローズ似の執事風の出立の男性が現れました。
「はぁ…アルシェ様…。どう見てもリスティスに見えてしまいます…。では、少し…失礼します!」
――ビュンッ…
レーユがいつ覚えたか空間転移を使い、目の前から飛び立ちました。
「さて…。」
――ガチャッ
――ギィィィィッ…
私は個室から扉を開けて、お手洗いの洗面台へ向かおうとしました。




