Episode 4.叔母と丘の上におでかけです。
「アルシェ様?おはようございます。」
――チュ…ッ…。
え?!
リスティス叔母様から起きがけに頬へキスをされ、私は驚いて眠気も吹き飛びました。
頭の中はパニックですが、平静を装う事に私は必死でした。
側から見れば…私はただの人間の五歳の女児ですが、転生前の記憶と意識を有している私は違います。
リスティス叔母様のこの行為に対して、邪な考えが色々と浮かんできてしまいます。
「おはよう?リスティスおばさま。わたしのほっぺ、キスした?」
とりあえず五歳の女児らしい質問をするように心がけました。
本当であれば、色々問い正したいところですが、グッと我慢です。
「アルシェ様はなかなかお目覚めになられませんので、童話のお姫様のように…キスをしたら眠りから覚めるかなと思いまして。」
リスティス叔母様の私を見る目が凄く愛おしいものを見る目をしていて、元悪魔のこの私でも恐怖を感じるくらいです。
「わたし、おひめさま?」
もう、五歳児になりきって現実逃避したい気分でした。
「いいえ…。わ…私の…い…愛おしい”悪魔“様でございます!!」
遂に…リスティス叔母様はこんな形で自白する形になりましたが、私が一人の少女になった時彼女に襲われるんじゃないかと今から危惧しています。
「リスティスおばさま、あくまだいすき?」
もうついでなので、核心に迫る質問をリスティス叔母様にしてみました。
「はい…。“悪魔”が大好きです…。」
「じゃあ、わたしきらい?」
リスティス叔母様には、少し意地悪な質問だったでしょうか。
「いいえ?この世で一番大好きですよ?昨晩より…私の身も心も…アルシェ様のモノでございますので。」
リスティス叔母様の身も心も私のモノって…なんかもう響きが凄くイケナイ感じがするのは、私だけでしょうか。
「じゃあ…。」
少しだけ意地悪してみようと思います。
こんないたいけな五歳女児を邪な目で見ている、リスティス叔母様が悪いのです。
「はい…。」
少しソワソワしながらも不安げな表情をしています。
「リスティスおばさま…。」
「はいっ!!」
よく、考えてみてください…。
私は…昨日五歳の誕生日を迎えたばかりの、見かけはごく普通の女児なのです。
リスティス叔母様は、一体何を期待しているのでしょうか…。
「まほう、つかいたい!」
「あ、え?!…は…はい!」
私の二十という魔力量で、どれくらいの魔法が使えるのか試してみたかったのです。
ですが、しどろもどろなリスティス叔母様の反応には、流石の私も驚きました。
一体、私に何て声をかけられることを期待していたのでしょうか…。
――――
「ほら、もう少しで良い場所に着きますからね?アルシェ様。」
リスティス叔母様に手を引かれ、家の裏門を出てからかなりの時間が経ったような気がします。
後ろを振くと、私の家がかなり小さく見えるくらい遠い場所まで来ているようでした。
「まだつかない?」
家の裏庭を抜け、林の中を抜け、小高い丘をひたすら登ってきましたが、丘の頂上まであと少しのところまで来ていました。
ですが、まだこの先へと進んで行くのでは?と、私でも段々と不安になってきたので、とりあえず質問してみる事にしたのです。
「あと…もうすぐそこですので。アルシェ様?頑張りましょうね!」
出かける支度をしていた時、リスティス叔母様は外で遊ぶ時に良く着る服を私に着せてくれました。
少し厚手の織物で、蒼い濃い目の染料を使っているようで、虫も寄りにくいみたいです。
靴は脛くらいまである厚手の革製の物を選んで履かせてくれました。
革で擦れて足が痛くならないように、靴を履く前に柔らかい繊維の布で足を幾重にも包んでくれました。
色々気遣いが凄くて優しくて、私の本当のお母様みたいです。
ですが…リスティス叔母様は昨夜から様子がおかしくなりました。
夜中に寝静まった後…私の隣でリスティス叔母様の喘ぐ声が聞こえました。
それまでは一度も私の居る所では、そんな声を出した事は無かったと思います。
「ほら!アルシェ様、着きましたよ?」
リスティス叔母様に手を引かれ歩きながら色々と考えていたら、いつの間にか丘の頂上に着いてしまいました。
「わぁ!!ここ、なにするの?」
私は間髪入れず、この後の予定について質問してみる事にしました。
「ここでアルシェ様の仰っていた、魔法を使って遊びましょうか?」
周りを見渡すと、私達の居る周囲の草むらの影などにスライムのような生き物が数体潜んでいたのです。
まさかとは思いますが、これらのスライム目掛けて魔法を使わせるつもりなのでしょうか…。
「どうやって、あそぶ?」
「少しお待ちくださいね?私…用を足してきますね?」
リスティス叔母様はそう言うと、私の見ている前で着ていた服を脱ぎ、裸になりました。
この世界では、女性は大人になると精細で肌触りの良い生地の丈の長いドレスのような服を着ることが多いのですが、屋外で用を足す想定はされていないので、汚れないように服を脱がなければならないのです。
「すみません。少し行ってきますね。」
そう言うと、リスティス叔母様は裸で少し草高い茂みへ駆けて行きました。
――――
少し待ちましたが、一向にリスティス叔母様は戻って来ませんでした。
私は心配になり、リスティス叔母様が駆けて行った草高い茂みの方へ足を運んでみる事にしました。
そちらの方角に耳を済ますと、何か声が聞こえてきたので急いで向かいました。
そこで見たのは、リスティス叔母様がスライムのような生物とお楽しみの真っ最中で…とても衝撃的でした。
「あ…アルシェ様…?!す…すぐにっ、先程の所へぇぇぇぇっ…参りますので。お…お戻りくださいぃぃぃっ!!」
凄く手慣れた様子でしたので…リスティス叔母様はここに来てはこんな事しているのかもしれません。
とりあえず、私はさっき居た場所まで戻って待つ事にしました。
それから間も無くして、何事もなかったようにリスティス叔母様が戻って来ました。
身体を良く見ても何も付着しておりませんでしたので、恐らく魔法か何かで身体を清めてから来たのでしょう。
「スライム、おともだち?」
「あのスライムさんは、最近仲良くさせて頂いているお友達なのです。先程も二人で遊んでいたのですよ?」
まさかリスティス叔母様が、魔物のスライムと心通わせていたとは思いもしませんでした。
確かに…色んな意味で楽しまれておいででしたね…。
この世界にも、スライムがいる事が分かったのは一つ収穫でしたが、と言う事は…ゴブリンやオーク等の異形な存在もいるのかも知れません。
「スライムさん、なまえ?」
そう頭の中では考えつつ、五歳女児になり切るのは大変な事です。
「あのスライムさんのお名前ですか?私が名付けたのですが、“ユーレ”と言います。」
なるほど。
リスティス叔母様を、ユーレと呼ばれるあのスライムが襲わない理由は三つ考えられます。
一つ目は、名前を付けられて“名前付き”の魔物にランクが上がり知性がついたから。
二つ目は、リスティス叔母様とお楽しみの回数を重ねていくうち、恋愛感情を抱いてしまった。
三つ目は、名付け親としての恩義から。
少し、人間と魔物の交際について興味が湧いてしまいました。
「ユーレさああああああああん!!」
私は五歳女児、私は五歳女児、私は五歳女児。
そう頭の中で繰り返しながら、先程リスティス叔母様がお楽しみになられていた、草高い茂みへ一直線に走って行きました。
――ガサッ!
草高い茂みを掻き分けると、そこに居たのは…四肢のようなものと頭部のようなものがある…スライムの肉体をした存在でした。
「オマエハ?」
――――
この話の主な登場人物
――――
名前 :アルシェ=デルジェイム
年齢 :5歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :なし
魔力量:20
魔法 :未知の魔法
スキル:未知のスキル
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ボブ(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人、魔法騎士アルディスの末裔。
異世界転生者。
元災厄レベルの悪魔。
――――
名前 :リスティス=リーズランデ
年齢 :28歳
性別 :女
種族 :人間
職業 :アルシェの乳母兼護衛
魔力量:284
魔法 :中級魔法全般
スキル:剣士スキル全般
肌 :肌色(ブルベ系)
髪 :ロング(黒色)
目 :焦茶
その他:七英雄の一人“悪魔”のアーシェの末裔。
元国の騎士団所属の魔法剣士。
アルシェの叔母(母の妹)。
グラマラス&スレンダー。
アルシェ崇拝者。
ユーレは親密な友達。
――――
名前 :ユーレ
年齢 :不明
性別 :無性
種族 :スライム(のはず)
職業 :不明
魔力量:不明
魔法 :不明
スキル:不明
肌 :水色
髪 :長髪のような形
目 :◉
その他:リスティスが名付け親の”名付き“。
頭や髪や四肢のようなものがある。
――――