Episode 36.叔母の為、家族の為の決断です。
「あ。」
ヴィレースと手を繋ぎ『空間転移』を行おうとしたのですが、見事に失敗しました。
「え?どう言う事でしょうか?」
あの時、ヴィレースは居なかったので…この失敗した意味が分かる訳がありません。
「私の転生した身体、人間もどきだろ?産まれた世界と繋がる魔界の管轄する領域までしか、どうやら行けないようなのだ。すっかり忘れておったわ。」
「ええええ!!すぐお祖父様呼んで参りますので。」
――ビュンッ!
恐らく…ヴィレースはクロヴィスの元へ空間転移して行きました。
「さてと…。ん?何だい?お前さん達。私に用でもあるのかい?」
とりあえず暇つぶしに何か無いかと考えていたら、先程のヤズィルの眷属二名が私の目の前までやって来ました。
「なぁ…?お姉ちゃん。凄くそそる良い身体してるじゃ無いか?ヤズィル様とは知り合いなのかい?」
――ガシッ!!
「なっ…?!おいおい…こんな場所で何する気だい?」
ヤズィルの眷属のもう一人が…話している間に私の背後を取っており両腕を掴まれると…後ろ手に組まれてしまいました。
「お姉ちゃんは、あんな場所にこんな格好して来たんだぜ?」
昔からこの格好…と言うか…クロヴィスの趣味で大人の身体になった際に似合うからと着せられて…そのまま変えておりませんでした。
――スッ…
「おやおや?!お前たち、一体何をして居るんだい!?」
「クロヴィス様、良い女見つけたんです!!」
クロヴィスは腕を組んでうんうんと頷いて聞いていました。
「それはそうに決まってるだろう?私が孤児だったのを見つけ、私が自ら兄妹のように育て、私が愛し娶った女だぞ??」
「え…。え…。」
そう言いながら、強く掴んでいた私の腕を離しました。
「お前たち、主人のヤズィルから聞いてはいないのか?お前達が手篭めにしようと思ったその女はな?アヴィレネーナ=ディズフィアと言ってな?この私の次に強かったのだぞ??」
アヴィレネーナの名前は…後世で私にあやかって付けられて居るので、名前を全部言わないとここ百年くらいで産まれた悪魔は分からないと言えば分からないのかもしれません。
ディズフィアは元々は…クロヴィスの純血悪魔の一族の苗字なので、ディズフィアと付くだけで普通の悪魔は縮み上がる程です。
「い…今は、く…空位の…じょ…じょ…序列三位の…災厄の小悪魔…。」
「なぁ?お前さん達、本当に…ヤズィルに言っておけ。あの小屋は今この刻を以って、クロヴィスの名に於いて潰すから金輪際、リスティスに近寄るなと。」
私がそうヤズィルの眷属に言い放った時、クロヴィスは目をパチパチしておりましたが、私が抱きつくとクロヴィスの態度は一変しました。
「え?!なんだい?なんだい?アヴィレちゃんの言う事ならボクは大賛成さ!!と…言う事だ、お前たちは早急に立ち去るが良いぞ?私の機嫌が良いうちに、な?」
「はいいいいっ!!」
ヤズィルの眷属達は逃げるように帰って行きました。
――――
「ところでだ…。アヴィレちゃん?何で…こんな急に潰すとか思いついたんだい?」
「あれでも、リスティスは二児の母親なのだぞ?分かるか??私がお前さんの子供放置して、他の男の所に入り浸っているとか平気なのかい??」
クロヴィスは暫くの間、首を大きく横に振り続けておりました。
「分かれば良いんだよ?分かれば。あとな?リスティスがあの小屋に入り浸っているせいで、私の母親とアーシェンテアが代わりをしておってな!!あり得んだろ?」
クロヴィスは暫くの間、首を大きく縦に振り続けておりました。
「お祖父様?お祖母様の前では…威厳は存在しないのですか?」
「ああ!!ボクはアヴィレちゃんの前では威厳なんて虚しいくらいの言いなりさ!!君だってそうなんだろう?ヴィレース??」
見透かしたように孫娘に話を振るあたり…流石クロヴィス、抜け目ありません。
「な…なぜお祖父様それを…?!」
「だってだよ?君はボクの可愛い孫娘なんだよ?」
クロヴィスはニヤリと笑いました…。
「はい…確かに…。私は…人間のお姿をしたお祖母様を恋愛対象として捉えてしまっております…。」
「お…?!お…おい…ヴィレース?君がなかなか跡継ぎを連れてこないのは…そういう事…なのか!?」
ヴィレースはコクりと首を縦に振って見せました。
「ま…まぁ…それも君の生きる道だからな?うん…。」
こんな話をしながらも私とクロヴィスは抱き締め合っていたのですが、ヴィレースに言葉を返す際…クロヴィスは少し私の身体を強めに抱き寄せる感覚がしました。
――スタッ…
「お取り込み中申し訳ございません!!ハァハァ…。」
ヤズィルが息を切らせながら急に空間転移して、クロヴィスの元にやって参りました。
「何だい?さっきさぁ…この場所で私の可愛い元ツガイにお前のところの眷属がさ、両腕を後ろに掴んで強引な真似してたのをたまたま見かけてね??それがボク、凄く頭にきちゃってさ?だから、そんな物達が集まるようなあんな店、潰した方がいいと思ってさ?どうせ、ボクが建てさせた店だから、今から潰すことに決めたんだ!!」
「まさか…アイツらめ…。アヴィレネーナ様にそんな愚行を…。」
クロヴィスは魔力解放を行なっており…周囲はただならぬ雰囲気になりました。
「都合の悪い話は、お前の眷属は言って無かったのかい?どうなのかな?」
「店をクロヴィス様が潰すと脅されたとしか…。」
クロヴィスは私の手を優しく解き、頭をポンポンとしてニコッと笑って私の元を離れました。
――ビュンッ!
すると私達の前にいたヴィレースに、クロヴィスは目で合図をしたかと思うと、ヴィレースの姿は消えました。
次の瞬間…“リズの部屋”のみが障壁で覆われました。
ヤズィルの方に目をやると、クロヴィスに肩をポンと叩かれ手を置かれていました。
「眷属は始末しとけ?いいな?」
「それは断ります」
――ズッ…。
ヤズィルが言い終わるのを待ってたかのように、ヤズィルの身体は跡形も無く消えてしまいました。
「あの子には可哀想だけど…仕方ないよね?アヴィレちゃん??」
「そうだな。あんな良い女…他には居らんのにな?私の助言も聞かなかったからのぅ?ヤズィルという奴は。」
呆気なく序列九位が消え失せ、恐らくヤズィルの消滅が確認できれば、序列十位が九位へと繰り上がるのでしょう。
「そう言えばさ?アヴィレちゃん。僕らの可愛い孫娘さ…実は序列十一位なんだよ??」
実はヤズィルを消すまでの理由は特に無かったけど…クロヴィスは私が居る手前、いい格好見せたかったのでしょうか…。
「おぉ!!ヴィレースが序列十位に上がれるかもしれないのだな??」
ここで私が喜ばなければ、ヤズィルの死は犬死に?…いや?無駄死に?に間違いなくなると思い、大人な対応をしておきました。
――――
ヴィレースが障壁を張った“リズの部屋”の外は…案の定、大変な騒ぎとなっておりました。
――ギィィィィッ…
「何だい何だい?皆んなで大騒ぎしちゃってみっともないなぁ?」
クロヴィスが小屋の中からそう言いながら姿を見せると、今までの騒ぎが嘘のように静まり返りました。
――バタンッ!!
私はというと、この直前にクロヴィスと小屋の中に空間転移で入ったのですが、既にリスティスはヴィレースによって捕えられており、太鬼二体は床に転がって息絶えておりました。
「あなた達、誰ですか!!何故…こんな酷いことするんですか??」
「誰とか言う前に…夫や二人の子供は放置しておきながら、大層なご身分になられたものですね…?リスティス叔母様。」
「アルシェ…?!」




