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Episode 1.異世界へ転生したみたいです。



 「おぎゃああああ!!おぎゃああああ!!」


 ここは何処なのだろうか…。


 声も出せそうになく、ただ泣き叫ぶしか出来なさそうだ。


 ぼんやりと私の近くに人のような形は確認できる。


 だけど…ハッキリとはこの目では見る事が出来ないようだ。


 周りから何やら声のようなものが聞こえてくるが、私の知っている言葉ではないようで聞き取る事が叶わなかった。


 恐らく、私は今…産まれたばかりの赤子なのだろう。



 ――――



 今の私には、どうする事も叶わないようだ。


 出来そうな事といえば、泣くくらいだ。


 まぁ、こう言う時は冷静に私の置かれている状況について、整理してみようと思う。


 この赤子の姿になる前…。


 私の名前は、アヴィレネーナ=デイズフィアと周りには言っていたが、本名ではない。

 ここ数百年くらい名乗っている名前だ。


 二つ名で“災厄の小悪魔”と呼ばれ、気まぐれで街や村を一瞬でクレーターに変えてしまう位の女の悪魔だった。


 肌は透き通るように白く、背は女としては高く、頭には山羊のような黒い角と、紅い瞳に、黒い髪、背中には黒い翼が生え、細く長い尻尾も生えていた。


 歳は…正確な歳は誰にも教えていないし、今だってハッキリとは教えたくはないけど…まぁ、千年以上は楽に生きてきたかな。


 さて…私の以前の姿についてはこれくらいにしておこう。



 ――――



 どうしてこんな事態に陥ったのか…。


 私は、近くの人里の村に人間に化けて、食料を買い物をしている最中の事だった。


 「災厄の小悪魔!!」


 そう、私の背後から叫び声が聞こえたのだ。


 その声のする方に顔を向けた瞬間だった。


 「なっ?!」


 気づくと、私は勇者風の装備をした男の一行と共に森の中に転移させられていた。


 「私は、もうそなた達人間とはやり合う気は全く無いのだが…。」


 私は人間との戦いに明け暮れていた数百年間の生活に疲れ果て、この数十年の間は人間に化け隠遁生活を送っていた。


 その間、人間と悪魔の共存・共生の道の可能性について考え、色々と実行にうつしている最中であった。


 「嘘をつくな!!最近だって、お前は近くのイーソンズ村を襲った!!」


 「は…?!」


 どうやら…同じ悪魔の中に、私の名前や姿を騙る不届者がいたようだ。


 「証拠だってあるぞ?今、お前はクィルズ王国から討伐依頼が出ているんだ!!」


 クィルズ王国とは…私が隠遁していた村や、私が襲ったと言われるイーソンズ村等や、周辺都市を治めている国家の名前だ。


 目の前に対峙している勇者風の一行は、恐らくだがクィルズ王国から直接依頼を受けているかもしれない。


 「では…私は投降することにしよう。私を連れて行ってくれ。無意味な殺生は…そうだな?数十年としておらんからな…。」


 私が本気を出して戦ってしまえば、この勇者風の一行達は一秒とて耐えられないだろう。


 「なんでだ?」


 私の投降する旨の言葉に対して、勇者風の一行の勇者風の装備の男はそう返してきた。


 「私は、過去の過ちに数十年前に気付き、お前達人間との共存・共生を模索してきた。私がこの姿で居るのもその表れだからな。」


 「そうなのか?!だが、そう入ってもだ。お前は今、イーソンズ村壊滅の嫌疑をかけられて討伐対象になっているんだぞ?」


 「なら、お前の手で一思いに私を殺せばいい。」


 私は長く生きすぎた故に、悪魔の勢力側に知らぬうちに敵を作ってしまっていたのかもしれない。


 ならば、悠久の時を生きてきた私だが、その命一つで人間も悪魔も双方で丸く収まるのならば…安いものだ。


 「いや…。お前の目を見て分かった。凄く澄んだ紅い瞳をしている。直近で大量の人間を殺めたような者の目ではない。」


 この勇者風の男…ホンモノの勇者なのかもしれないが、別にそこまで知りたいと言う興味はまでは私には無かった。


 「お前を首都まで連行する。さぁ、これを首に着けろ。」


 そう言うと、私の首に勇者風の男は首輪の様な物を取り付けたのだ。


 すると…その瞬間私の身体の力がスッと抜けてしまった。



 ――――



 そこまではハッキリと覚えているが、あとは…。


 勇者風の一行の勇者風の男に私は…首輪に繋がれた鎖を引かれ首都までの道のりをひたすら歩かされていた。


 そうだ、その最中の事だった。


 私を引き連れて首都への旅路を急ぐ勇者風の一行の前に、昔の私の格好を真似した女の悪魔が立ち塞がったのだ。


 「おい、お前!!勇者一行だろう?」


 女の悪魔は勇者風の一行にそう言ってきた。


 「よく分からないが、だとしたら何と言うのだ?」


 「お前達の命もここまでよ!!」


 そう言うと、女の悪魔は人間には分からない言葉で、大型魔法を口ずさみ始めたのだ。


 「勇者!!逃げて!!」


 私はそう叫ぶと、勇者達の前に躍り出たのだが、その瞬間…大型魔法が女の悪魔によって勇者一行に向かい放たれた。


 「すまない!!」


 そうだ、思い出した。


 私は…首に着けられた首輪のせいで全く力を出す事が出来なくなっていたが、勇者一行が瞬間移動するくらいの時間は稼げると思い、咄嗟に前に躍り出たのだった。


 女の悪魔が勇者一行の向けて放った、渾身の一撃は虚しくも私に直撃する事になった。


 流石の私でも力を抑えられていては大型魔法の前にはどうにもならず…数秒は持ち堪えたのだが結局は消し飛んで、人間を庇い長い生涯に幕を閉じた。



 ――――



 そう言えば…身体が消えていく最中に、私は幻覚のような夢のような光景を見たのだ。


 「アヴィレネーナ。貴女は…未来ある私の可愛い子供達の為に、悪魔の身でありながら自らの命と引き換えに盾となってくれましたね。ありがとう。私から一つお礼をさせて下さい。」


 そう…神々しい清らかな存在が私の目の前に現れ、礼を述べてくれたのだ。


 そこからの記憶は全く無い…。



 ――――



 もしこれが、あの時の礼と言うならば…感謝しなくてはならないが、一体ここは何処なのだろう。


 私の居た世界なのだろうか…?


 産まれたばかりの私が言うのはおかしいと思うが、前の世界の言葉とは全く違う気がする。


 一つ分かるのは、私の身体は人間で…女だと言う事くらいだろうか。


 手の色…えっと…白くない…?!


 ピンクや黄色が混ざった白と言ったところか。


 とりあえず…この人間と思われる女の身体で、私は何が出来て何が出来ないのか、成長しながら少しずつ知っていこうかと思う。


 それにしても…私の周りには大きな人間がいっぱいだな。


 産まれたばかりで視力が悪いので…よく見えないのもイライラする。


 「オギャアアアア!!オギャアアアア!!」


 とりあえず、声を出して泣くとスッキリするな…。


 ストレス溜めないように、泣いてスッキリさせるのも悪く無いかもしれない。


 何だか…眠く…。



 ――――



 眠ってしまったのか…私。


 さっきは産まれたばかりの裸だったようだが、今は何かに身体が包まれている。


 しかも、私の周りにはせり立つような壁みたいなもので四方を囲まれている。


 よし…また泣いてみるか。


 「オギャア!オギャア!オギャア!」


 泣くと直ぐに人影が現れたのだが、その人影は黒い長い髪をしていてとても優しい声だ。


 まぁ、何を言っているのかは分からないのだが…私に向け同じ言葉を繰り返し言っているようだ。


 同じ言葉?もしかすると…この世界での私の名前を呼んでいるのかもしれない。


 人影は…しなやかで柔らかい指先で私をそっと包む。


 すると、私の身体が宙に浮き始め、圧迫感のあったせり立つ壁の空間から抜け出す事に成功した。


 ふぅ…恐らく人間の子育てに使う揺り籠というモノだろうか。


 生憎、前の世界では私は悪魔として生を受け、地面の上に転がされてぞんざいに扱われ育てられた記憶しかない。


 何だ?!この柔らかい感触は…?


 考え事をしていたらいつの間にか…私は胸元に抱かれていた。


 しかも目の前には…衣類がはだけたわわな胸が露わになっていた。


 私の顔に自分の顔を近づけ、目を見ながら優しい声をかけるこの人間の女は…この状況からしてこの世界の私の母親なのだろう。


 すると母親の後ろから他の人影が近づいてきた。


 声が低い…恐らく私の父親なのだろう。


 なぜか…今までに味わったことのない、とても幸せな気分だ。


 転生したこの世界で…目の前にいる二人の愛をしっかりと受けて育ってみようかなと思う。


 折角掴んだ人間としての新たな人生なのだから。


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