初めての見守り
窓際の席からは、目当ての道路が見下ろせた。ここなら楽に監視できそうだ。
計画には満足しつつ、半ば手慰め気分で目の前のメニューへ取り掛かる。……ヤバい、マジの溜息がでた。
何の変哲もない『マク道』の朝飯セット――深海魚サンド、腐らない揚げ芋、値段の割に量は多いホットコーヒー――で前世の俺なら大満足だ。
でも、姫子さんのところへ居候し始めてから、口が驕ってしまっている。
大山田家の朝食は米と決められ、一汁一菜に香の物と質素なものの、家族を思って朝食当番は工夫を凝らしあう。
いうならば食卓を通じた幸福に満たされている。本当の究極で至高だ。……マジに帰りたくなってきた。
そして朝も早くから大事な家族との団欒を放り出し、何をしているかと思えば『リア充が初めて経験する戦闘の見守り』だ。
……俺はガチの変態か! ああ、帰りてぇ……。
そんな風に待機していたら、やっと主の姿が見えてきた。
……今日も眉を隠す前髪は絶好調だ。
どうしてなんだ、それ? 眉を見られたら負けとか、そういう特殊なルールでレスリングでもするのか?
俺は絶対に公人叔父さんとか呼ばないからな、見境なしの多々股男め!
どうせ今日だって絶対無敵な主人公の異能で、何とかするに違いない。もう帰っちまおうかな……。
などと煮えているうちに、反対側からも本日のエネミーがやってきた。
……凄い。ここからでも分かる。絶対に関わり合いになっちゃいけないタイプの人だ。
ところどころ破けたスーツ姿は、なによりも異常さを際立たせていた。……イマジナリーフレンドとも大声で会話してるし。
主の凄いところは、良くも悪くも見境がないところか。
普通なら見えない御友人と怒鳴り合ってる方がいたら、道を譲る。
しかし、我らが主人公こと主公人は「そっとしておこう」とか「どうでもいい」などと思うだけなのだ!
……ちばらぎ市の救世主だからいい様なものの、本質的にはガチの問題児じゃなかろうか?
もちろん無事に?戦闘は開始された!
「どうして俺の話を聞いてくれないんだぁッ! こんなにも真剣なのにぃッ! お前も、私を拒絶するのかぁッ!」
「またホモの変質者がッ!? もしや俺はモテるタイプなのかッ!? そっちの世界ではッ!?」
主は納得しかねているけれど、見えてる地雷を避けない方が悪い。どう考えても自業自得だ。
あと! ホモとか関係ないだろう! なにかコンプレックスでもあるのか!?
「俺はお前にぃッ! 異なる世界の秘密を教えたいだけだぁッ!」
……変だな。
俺にも狂人がホモに思えてきた。ゲームでは意味不明なことを叫びながら襲い掛かってくるだけだったのに!?
そして本気になったらしく異能を発現――なんとローブ姿の霊体を出現させる。
「こ、こいつも幽霊を!? 流行っているのか、最近!?」
応じて主も異能を発現させ……――
どうして霊体を出し切らず、服みたいに来てるんだ?
それじゃ主自身と変わらないというか……普通の人には見えない服を着てるだけなんじゃ? お前の能力はパワードスーツじゃないぞ!?
「俺はッ! 自分の純潔を守るッ! 必要なら拳を使ってでもッ!」
「逆らわず、俺に従えッ! 導かれろッ!」
失策に気付かないまま主は戦い続けるけれど、当然に苦戦した。最強無敵の異能力も、使い手が分かってなければ全然だ。
「視えるぞッ! お前の未来がッ!」
叫びながら狂った男の霊体は、手に持った水晶玉で躍り掛かる! ……って、それ武器なのかよ!?
そして判った! 主の奴――
生命のじゃなくて、貞操の危機で覚醒したから、完全じゃないのかも!?