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久しぶりの実家

 思えば、あの日――王宮にいきなり連れ出されたので私物はほとんど家に置いてきていました。

 着替えなどの生活必需品を少々持ってきただけだったのです。


「結界を張る作業も一段落ついたんだ。実家の私物とやらを取りに行けば良い。十日以上も休ませずにいて済まなかった」


 休みの日を十日以上も与えなかったと謝罪するエリック。

 生真面目な彼はとんでもない失態を犯したというような顔をしていましたので、こちらが逆に恐縮してしまいました。


「だけど、あまり家に長居はしない方が良いかもね」

「長居をしない方が良い……? それはまた、どうしてですか?」

「だって、君……嫌われてるだろ? 母親と妹に」

「エリック様……、答えにくいことを仰せにならないでください……」


 長居はするなと言われ、もしかしたら寂しいからだとか嘯くのかと思っていましたら――はっきりと私が義母と妹に嫌われていると仰せになられて呆気に取られてしまいます。


 それは、まぁ……本当のことなのですが、こうもはっきりと言われるとは――。

 

 エリックが真顔なので何だか笑ってしまいそうになりました。


「もし気まずいなら僕が一緒に行っても良いが……」


「いえ、心配には及びません。慣れていますから」


 エリックは護衛の中でも特に信頼のおける人間を従者としてつけて、王室の馬車を出してくれました。護衛である私に護衛は必要ないと申しましたが、そうもいかないみたいです。


 というわけで、私を嫌っているであろう家族がいる実家に私は久しぶりに戻ってみたのです――。


「レイアお姉様ぁ、王宮から戻って来られましたのね。お可哀想に、エリック様から愛想をたったの十日で尽かされるなんて……。でも、わたくしは違いますわ。レイアお姉様の良いところをいっぱい知っておりますもの」


 家に帰ると、目を輝かせた妹のジルに抱きつかれました。

 どうやら私が王宮で粗相をして追い出されたと思ったみたいです。

 

 ――何だかとても喜んでいますが、そんなに私が王宮に住んでいることが嫌だったのでしょうか。


「ただいま、ジル。フィリップ様とのことは残念でしたね。大丈夫ですか?」


 先日のフィリップとの言動から彼とジルは婚約破棄しています。

 彼女は公爵家の嫡男である彼のことを格好いいと私の婚約中には常々言っておりましたから、婚約破棄を突きつけられてショックを受けていると思いましたが元気そうですね――。


「フィリップ様のことですかぁ……? 特に何もありませんけどぉ。何のお話ですの?」


「えっ? フィリップ様とあなたの婚約が破棄されたと聞きましたが……」


 キョトンとした表情で首を傾げるジルを見て私は自分が見当違いなことを尋ねているような気になりました。

 先日、フィリップがジルと婚約破棄したという話は出鱈目だったのでしょうか? そのようには見えませんでしたけど……。


「ジルベルト公爵に泣きつかれたのですよ。ジルのような良い子と婚約破棄など世間に知れたら、我が家の恥だと。婚約破棄の件はなかったことにして欲しいと。まったく、あの方は何を考えているのでしょう? 可愛いジルを面倒くさいなどと暴言を浴びせて……!」


「お母様、わたくしは気にしていませんの。フィリップ様も色々とストレスが溜まっていたのでしょう。許して差し上げますわぁ」


 まさか、あれだけ大騒ぎして私によりを戻そうとされたフィリップは再びジルの婚約者になったということですか。


 ジルベルト公爵がフィリップの行動が目に余るとして泣きついたという経緯みたいですけど、ちょっと驚きました……。


 フィリップは納得してるのでしょうか……?


 私は気にしませんし、ジルが良いというのなら構いませんが……。

 

「それにしても、あなた――自慢げに王宮へと行った割には随分と早く戻ってきたのですね。当然ですよ。あなた如きが王妃になるなどおこがましい」


「お母様、可哀想なお姉様を責めるのは止めてくださいまし。殿下に嫌われてショックを受けているに決まっていますから。ごめんなさい。わたくしが先に嫁いで、お姉様が行き遅れるという結果になってしまって……」


 私が出戻ってきたと勘違いして、嬉しさを隠そうとしない義母のエカチェリーナといつになく饒舌になっている妹のジル。

 

 戻ってきた理由を話せば面倒なことになりそうですが、言わないわけにはいきませんよね――。


「あの、直ぐに王宮に戻ります。私物を取りに来ただけですから」


「「はぁ……?」」   


 綺麗にハモりました。

 エカチェリーナはイライラを全面に出して、ジルはあからさまに失望した表情で、私の顔を見ます。


「ま、ま、まったく! あなたという人はどこまで性悪で悪辣なのでしょうか!」

「ひ、酷いですわ、お姉様……! わたくしがお可哀想にと慰めている様子を心の中で嘲笑っていたなんて……! あんまりです!」


 そして二人は口々に私のことを罵ります。それはもう、言いたい放題でした。

 

 ――この状況って私が悪いのでしょうか?


 勝手に王太子殿下に嫌われて出戻ってきた哀れな女だと想像して馬鹿にするような態度を取る方が悪辣だと思うのですが……。


 エリックの仰るとおり、早く私は退散したほうが良いみたいです……。


「お姉様はわたくしの憧れている王太子様と……。それと比べて私の相手は――はぁ……」


 フィリップが近くで見ていたらまた婚約破棄とか口にされそうなことを溜息混じりで言葉にするジル。

 

 次第に溜息はすすり泣く声に変わり、義母のエカチェリーナがジルを虐めるなと怒り出したので、私は手早く大事なものをカバンに詰めて家を出ました。

 

 ですが、あの様子だとジルとフィリップはひと悶着ありそうですが、大丈夫でしょうか――。

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