神様は意地悪ですわ(ジル視点)
「はぁ……、やはり、神様というのは意地悪ですわ……」
この世の中は理不尽です。
わたくしは、品行方正に努めて真面目に毎日を生きていますのに、欲しかったものは全てお姉様が持っていかれます。
聖女になりたいと目指したときもそうです。
お姉様はわたくしよりも先回りして魔法学の先生たちから沢山の指導を受け――不合格だったわたくしを嘲笑うかのようにあっさりと王室から聖女として認められたのでした。
そして、今回は憧れていたエリック王太子殿下まで――。
「ジル、どうしたんだ? 先程からため息ばかりではないか」
公爵家の嫡男であるフィリップ様。
とっても良い人で、わたくしの悩みを親身になって聞いてくれました。
何度か相談を聞いてくれた後に、どうしてなのかよく分かりませんがお姉様と婚約破棄されてわたくしに求婚されます。
その時は嬉しかったのですが――お姉様がエリック様と共に王宮に行かれてからというもの、全てが色褪せて見えるようになりました。
「フィリップ様……、どうしてエリック様にレイアお姉様がわたくしを虐めているなどという出鱈目を話したのですか? そのせいでレイアお姉様はエリック様と共に王宮に――」
「いや、ジルがレイアに虐められているって俺に訴えたじゃないか。聖女をしているけど、性格が悪いとも。だから、俺は殿下にそれを教えたのだ。殿下は正義感が強いから絶対にレイアを糾弾すると思ったからな」
フィリップはまるでわたくしがレイアお姉様に虐められていると吹聴している嫌な女みたいな言い回しをされます。
ただ、お姉様に比べてわたくしが駄目で運もないという話を聞いて欲しかっただけですのに。
「それでは、フィリップ様はエリック様とレイアお姉様を引き合わせたのはわたくしのせいだと仰るのですかぁ? ぐすっ……」
「はぁ? な、泣いているのか!? な、何故!?」
フィリップ様さえ変なことをエリック様に吹き込まなければ、レイアお姉様が王宮でエリック様と暮らすなんていうことにならず、わたくしも劣等感に苛まれることはなかったですのに……。
「ぐすっ……、ぐすっ……、そもそもぉ、フィリップ様がお姉様と婚約破棄などされなければ宜しかったのですぅ。お姉様がお可哀相だと思わなかったのですかぁ……?」
「ちょ、ちょっと待て! 君は俺が求婚したとき、涙を流して喜んだじゃないか!」
「お、大きな声は怖いですのぉ……! だって喜ばないとフィリップ様に悪いじゃないですかぁ……! ぐすっ……、ぐすっ……」
フィリップ様は声を急に荒げたので、わたくしの心臓はビクッとなって鼓動が早くなります。
こんなに怖い方だと思いませんでした……。
もっとお優しい方だと思っていましたのに……。
「そうですよね。わたくしみたいな聖女にもなれない無能で駄目な女よりもレイアお姉様の方がエリック様にはお似合いに決まっています。ううっ……、ですがそれを想像するだけで胸が苦しいですわぁ……」
「おいおい、まさか……。ジル、君は俺よりもエリック殿下の方が好きなのか!?」
また、フィリップ様はわたくしに意地悪をします。
そんなこと答えられるはずないじゃないですか。
わたくしがその質問の答えを口にするとフィリップ様が傷付きますし、場合によっては怒りだすかもしれません。
ですからわたくしは黙っているしか出来ませんでした……。
「…………」
「黙っているってことは、そうなんだな。確かにエリック殿下は顔も良いし、なんせ王太子様だからな。公爵家の跡取りくらいじゃ、君には安いっていうことか」
「そ、そんなこと一言も申していないではありませんか……! お姉様のことも勝手に誤解されてましたし……あんまりですわ! ぐすっ……」
フィリップ様は勝手にこちらの心の中を想像してわたくしをまた嫌な女に仕立て上げようとします。
どうして、そんなに酷いことが言えるのでしょう。
お優しいフィリップ様はどこに行ってしまわれたのでしょうか……。
「ええい! 面倒くさい! じゃあ、お望みどおり君との婚約は無かったことにしてやるよ! 君と比べればレイアの方が何倍も良い女だった! 聖女になるくらい有能で、妹も虐めて無かったのだからな! やはり、レイアと結婚する!」
怒りの形相でわたくしを急に捨てると言い出したフィリップ様。
今まで殿方にこんなにも暴言を浴びせられたことがありませんでしたので、怖くて堪りませんでした……。
えっ? ほ、本当にわたくしのことをお捨てになりますの?
そ、そんな……。フィリップ様にまで見捨てられたらわたくしは、わたくしは――。
どうしてこんなにも神様はわたくしに意地悪をされるのでしょう?
フィリップ様がわたくしの前から居なくなり、ただ、ただ、惨めな気持ちだけが残りました――。
こんなのって、酷すぎます――。