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番外編(エリック視点の前日譚)

 僕には友人が少ない。そりゃあそうだ。敵が多いのだから。仲良くして巻き添えになりたい奇特な人など居ないだろう。

 フィリップはそんな僕の数少ない友人だ。


 フィリップの父親であるジルベルト公爵が父上の古くからの友人で、その繋がりで彼と幼馴染になったわけだが……。言ってしまえば、それほど幼少期に遡らないと人を信じることが出来ないのである。


 僕は毎日のように暗殺者に狙われてるし、周りの連中は敵だらけ。簡単に人を信じることなど出来ない。

 だから、フィリップのような古くからの友人は貴重だった。


「エリック殿下! 聞いてください! 聖女レイアは性悪女です!」


 ある日、そのフィリップが声を荒げて僕に聖女レイアが性格が悪いと告げた。珍しいこともあるものだ。


 この男がこんなにはっきりと人の悪口を言うなんて。少なくとも僕にはこういった告げ口のような真似をしたことはなかったから余程のことだと思った。


 なんせレイア・ウェストリアはフィリップの婚約者。しかも聖女である。


 この国にたったの三人しかいない聖女になるには教会が人格能力共に問題なしと判断されないとならない。


 そんなレイアをこれほど追い詰められたような表情で糾弾するなんて、そのレイアなる者が一体何をしたのか。僕はこの男から事情を聞くことにした。


「どうしたというのだ? 話が見えない。そのレイアが何をしたのか具体的に話せ」


 憤りながら喚くフィリップを宥めながら、僕は彼に具体的な話をするように促す。


 暗殺者がどこから狙ってくるのか分からないので基本的にパーティーなどには出席しない僕はレイアとは面識はほとんどない。今度、フィリップが共に挨拶に来ると言っていたが……。


 まぁ、聖女の任命式には出席したから顔は知っている。金髪で碧眼、何やら気の強そうなイメージだったな。


「こ、これは失礼致しました。殿下! レイアには妹がいることはご存知ですか!?」

「んっ? ああ、知っている……、と思う。多分」


 ふむ。レイアの妹か。式典にいたような、いなかったような。


 参ったな。こういう話は苦手なのだ。役人たちの名前なら末端まですべて頭に入っているのだが。


 貴族の令嬢たちの名前は覚えていない。パーティーなどに出席していたら覚えたのかもしれんが。


「レイアにはジルという妹がいるのですが、いやこれが非常に美しく可憐な女性でして」


 フィリップは僕が知らないと察して話を進めたな。そうか、ジルか。ジル・ウェストリアか。


 それがレイアの妹の名だというのだな。フィリップ曰く花のように美しい女性らしい。


「ジルは聖女になることをずっと夢見ていたんですよ! しかしながら、最終選考に残ったにも関わらず、レイアが聖女になってしまった!」


「仕方あるまい。聖女の椅子は一つしか空いてなかったのだからな」


「もちろん、ジルもそう言っておりました! 自分よりも優秀な姉のほうが聖女に相応しいと!」


「それを理解しているのなら、何も問題ないと思うが……」


 エージェ教の教典に基づいて聖女の人数は三人だと定められている。これだけは揺るがすことが出来ない。


 それ故に聖女という肩書は憧れの対象だと聞くし、なりたいと思う者も多いと聞く。


 ジルが夢破れてもレイアの能力を認めているならば、気の毒とは思えど問題なさそうな話に聞こえるが……。


「殿下、大切な話はここからです。ここからなんです。よろしいか?」


「いつになく顔を近付けて話をするな。僕は逃げも隠れもしない。聞いてやるから最後まで話せ」


「し、失礼しました。つい、熱くなってしまい……。聖女レイアはジルが聖女になりたかったことを知っておりながら、ことあるごとに自分が聖女であることをアピールするようになったのです。例えば――」


 フィリップから語られたのはジルが姉から精神的に追い詰められるほどの虐めを受けているという話だった。

 どうやら、ジルは聖女になれなかった悲しみをどうにか乗り越えようとしているのだが、レイアは彼女のコンプレックスを嘲笑い、心を破壊していったとのことらしい。


「涙ながらにレイアからの虐めを告白するジルは見ていられませんでした。ぐすっ……、ぐすん……、殿下、お分かりか! 健気なジルの不憫さを! ぐすっ、ぐすっ……」


 おいおい、お前が泣いてどうする。話しながら感極まって泣いてしまったフィリップを見て僕はいたたまれない気持ちになった。

 この男が泣いた顔は今まで見たことがなかったな。正直言って驚いたよ。


 しかしながら、教会は何をしているのだ。聖女に相応しいのかどうかという判断には能力的なことだけでなく人格的なことも十分に考慮するようにとなっているはずだ。


 少なくとも、妹の気持ちを知っておきながら、そのコンプレックスをしつこく嘲笑うような女が人格的に相応しいとは僕は思わない。

 フィリップの泣き顔を見て、僕の心は怒りに燃えていた。


 腐敗していたのは役人だけでなく、教会もであったか。

 また仕事が増えるのは致し方あるまい。敵が増えるのには慣れている。

 僕は自分の中の正義に嘘はつけない。そのレイア・ウェストリアに会ってみる必要がありそうだ。


「とにかくレイアとは婚約破棄します! 以前、ご挨拶に赴くと伝えておりましたので、報告しました!」


「んっ? ああ、好きにするといい。……フィリップ、その話には嘘偽りがないと誓えるか? 不当にレイアの悪行について虚偽を述べているということはないんだな?」


「無論です。エリック殿下が嘘がお嫌いなのは幼少の頃から承知しております。今まで一度も殿下には虚言を述べたことはございません」


「そうだったな。まぁ、一応、念の為だ。では僕は君との友情を信じるとしよう」


 こうして、僕はフィリップの話を聞いて、妹を虐めているという聖女レイアと会うことにした。

 幸い、聖女の務めに関しては王宮が教会を介して依頼を出すという方式を取っている。


 三人の聖女が日々活動はしているが、その中のレイアがどこで何をしているのかはちょっと調べれば分かるのだ。


 なるほど、明日は森に結界を張りに行っているのか。早速、会いに行くとしよう。

明日(10/25)はコミックス第1巻の発売日です!!

めちゃめちゃ面白くて、特にジルが素晴らしく個性的で魅力的なキャラになっているので、ぜひぜひご覧になってください!


よろしくお願いします!!

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