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【WEB版】悲劇のヒロインぶる妹のせいで婚約破棄したのですが、何故か正義感の強い王太子に絡まれるようになりました【コミックス4巻発売中!】  作者: 冬月光輝
第一章と第二章の間のお話

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事情聴取

「エリック殿下、憲兵隊長殿に取り調べの許可を取ってまいりました」

「ヨハン、ご苦労だった。それでは話を聞かせてもらいにいくとしよう」


 あれから憲兵隊が駆けつけて、店内にいた客たちや従業員は皆取り調べを受けることとなった。

 最も疑わしき容疑者とされているのはアイスクリーム屋の店主。氷魔法を利用してこの商売を始めたという男性だ。


 エリック殿下は彼の話が聞きたいとして、憲兵隊長に許可を取ったのである。


(アルマー男爵はアイスクリームを食べた直後に苦しみだしたらしい。それを作った張本人だから疑われて然るべきだけど、そんな単純な話じゃない気がするわ)


 店主がアイスクリームに毒を盛るのは簡単だろう。

 でも、自分の店で客に出すというやり方で人を殺そうとするのはあまりにもリスクが高い。


 絶対に疑われるに決まっている上に店の評判まで落ちる。

 こんな選択をする理由が分からないのだ。


「レイア、君もおそらく僕と同じ疑問を持っているだろう。だからこそ僕は店主と話がしたいんだ」

「……そうですね。本人の口から聞いたほうが早いですね」


 ここでわからないことを想像しても仕方がない。

 私はエリック殿下に促されて、彼とともに取調室に入った。



「まさか王太子様が私などの店に来られるとは思いませんでしたよ」

「良いと評判なのだからおかしなことではないだろう? 平民だけでなく貴族たちもよく来店していると聞いた」


 青白い顔をした長い黒髪の青年。年齢は私と変わらぬ十八歳だと聞いた。

 アイスクリーム屋の店主はその虚ろな瞳をこちらに向ける。

 どうも生気を感じない。接客業には向いてなさそうだと失礼なことを思ってしまった。


「良い評判ですか……。それも今日で終わりですよ。毒入りアイスクリームが出てくる店なんて誰が足を運ぶんですか? おまけに店主の私はその事件の容疑者だときている」


 自嘲気味に笑いながら、店主はアイスクリーム屋の評判が落ちたので商売はできないと嘆く。

 そもそも自分が容疑者なのだから商売再開は無理だと思っているようだ。


(どうも無罪を諦めているように見えるわ。普通は自己弁護するものだと思っていたけど、そんな様子も見えない)


 どちらなのだろう。犯人だから諦めているのか、それとも憲兵隊たちの捜査能力を信じられないのか。

 どのみち、彼はもう再起できないと思っているらしい。


「君の容疑が晴れれば、商売は問題あるまい」

「王太子様、お言葉ですが一度下がった評判というのは簡単には回復しません」

「そうかな? 僕はそうは思わない。あのアイスクリームという甘味は君にしかできないものだからね」


 エリック殿下は、いえ私も商売というものがどういうものなのかを知らない。

 だから本当に彼が言うとおり、たとえ彼の容疑が晴れたとしても商売が上手くいかない可能性はある。


 しかし、あのアイスクリームの味は見事だった。唯一無二と言ってよいほどだ。

 エリック殿下が問題ないと口にするのも頷ける。


(とはいえ、それも彼が無実だった場合よね。毒を盛ったのが彼ならば商売どころか死罪すらあり得る)


 そう。今の彼は最有力容疑者だ。

 私は彼が犯人ということには懐疑的だけど、だからといって無実だという証拠もない。

 エリック殿下はそのあたりをどう考えているのだろうか。


「王太子様にそう仰っていただけて光栄ですが、そんな大層なものではありませんよ。氷魔法さえ使えれば誰でも真似ができますので」

「ふーん。そうなのか? レイア」


 明らかにそれは謙遜だと私は思った。

 そもそも魔法を使える者は少ない。少しでも使える者は平民であろうとそれなりに重用されるのだ。

 その事実一つを取っても、魔法を利用して菓子を作るなどということは誰にでもできることではない。それに――。


「アイスクリームを生成する際に使用される冷却魔法はかなり高度なものだとお見受けしました。少なくとも私では真似ができません」


 あのサラッとした舌触り。そして持ち帰りもできるように作られた冷却石の存在。

 彼が料理の腕とももに魔法の技量が高いのは間違いない。


「だそうだ。レイア・ウェストリアの名は知っているだろう? 聖女として活躍している彼女ですら君の真似はできないと言っている」

「聖女様もご謙遜をなさる」

「謙遜しているのは君だろう?」


 自身の能力を過小評価しているのか、殿下の仰るとおり謙遜しているのか、それとも……。

 どうやら店主は魔法の実力があるとは認められたくないみたいだ。


「殿下の仰りたいことがわかりません。私の魔法の話が今回の事件になにか関係があるのでしょうか?」

「……関係ならある」

「――っ!?」


 アイスクリーム屋の店主は高度な魔法の使い手である。

 このことが事件に関係があるというのはどういうことだろう。


 エリック殿下の深い海のような青い瞳はすべてを見通しているようで、店主も緊張感のある表情を見せた。


「ヨハン、彼の父親について教えてくれ」

「はっ! 容疑者である彼の名はナッシュ・ホフマン。アイスクリーム屋の店主とのことですが、父親のゲイツ・ホフマンは魔法研究の第一人者として王立学院にいくつも論文を提出しております」


 アイスクリーム屋の店主があのゲイツ・ホフマンの息子? ゲイツ・ホフマンといえばこの国でも三指に入るほどの魔法研究者。 

 半年ほど前に亡くなったと聞いている。彼の遺した功績は大きく、そのニュースは国中に報じられたからだ。


(なるほど、魔法研究者の息子なら高度な魔法が使えても不思議じゃないわね)


 アイスクリーム屋の店主、ナッシュという名前と言ったか。

 彼が頑なに自分の魔法の実力について謙遜していたのは父親について知られたくなかったから?

 なぜなのかわからないけど、そうとしか思えなかった。


「父のことはどうでもいいでしょう?」

「ふぅ、ナッシュ・ホフマン。僕の部下の調査能力をナメないでくれ。君は君の父上の研究成果である致死毒魔法デスポイズン――禁術について記入された文献をジェイド・ベルクラインに売ったね? アルマー男爵のとりなしで」

「……はぁ、そこまで調べられているとは。お手上げですね」


 両手を上げて諦めたような声を出すナッシュ。

 ヨハンさんがこの短期間でそこまで調べ上げていたとは思わなかったから、私も驚いた。

 おそらくベルクラインについて調査していたからだとは思うが、それでもすごい。


 しかし、これでナッシュとアルマー男爵、そしてベルクラインが繋がってしまった。

 彼について都合が悪い事実を知っているからアルマー男爵を殺そうとしたという動機まで見える。


「アイスクリーム屋の資金の一部もそのお金から出ているんだろう?」

「ええ、そのとおりです。ベルクライン公爵……、いえ今は公爵でなくなったんでしたっけ。あの人は危険な術式を平和のために漏洩を阻止するためと仰っていた。私は騙されたのです」


 今度はナッシュはベルクラインに騙されたという。

 うーん。それが事実だとしたら彼を咎めるのは酷かな、と思った。


(この違和感はなんだろう。この人はまだなにか隠しているような気がするわ)


「禁術についての情報をベルクラインに売ったことを知られたくなかったからアルマー男爵を殺そうとしたのか、それとも……」

「やはり王太子様も私のことをお疑いに?」

「いや、決めつけてはいないさ。先入観で決めつけるのは止めたんだ。僕も痛い目を見たからね」


 チラッと私を見てエリック殿下は頷く。

 どうやら以前に決めつけで私を糾弾したことを思い出したみたいだ。


(そうね。どんなに疑わしくても証拠もなく決めつけは良くないわ。これがベルクラインの仲間、もしくは別の何者かの陰謀に繋がる可能性もあるのだから)


 エリック殿下は短慮なことはしない。あのときの過ちを悔いて反省している。

 そんなことはとっくにわかっていたが、私はそれが誇らしかった。


「では私を無実だとお思いですか?」

「いや、悪いが僕はそこまで簡単に人を信じない。それに君はなにかまだ隠しているだろう? なにかを庇っているのか、自らが不利になるからなのか知らないが、すべて話してくれるとありがたいんだが」

「……なんのことを仰っているのかわかりません」


 彼はここまで来てまだ何かしらを隠しているという殿下。

 殺人未遂の疑いをかけられて、なお誰かを庇うなど考えられないから、普通に考えると不利になりそうな事実を隠していると考えられる。

 しかし殿下はそれも断定しなかった。それもよくわからない。


「憲兵隊からの報告では、君は葉巻を吸うんだって?」

「ええ、嗜む程度ですが」

「捕まる直前、葉巻に火を付けようとして帳簿を燃やしたと聞いているが事実か?」

「殺人未遂が起こったので動揺したんですよ」


 帳簿が燃えた? タイミングとしてはなんらかを隠蔽しようとしたとしか見えない。

 ベルクラインから金を受け取ったことを隠そうとしたのだろうか……。


「禁術の文献、それだけでアイスクリーム屋の開店資金には足りない。それはアルマー男爵の供述から裏付けが取れている」

「…………」

「君の父上は魔法研究に没頭するあまり借金も多く、財産はほとんどなかったらしいじゃないか。……ヨハン、開店資金の出処を探るんだ。何かわかるかもしれない」

「はっ!」


 エリック殿下はヨハンさんにお金の動きを探れと命令した。

 そこに何か隠された事実があると読んでいるみたいだ。

 アイスクリーム屋の店主、ナッシュは黙秘を貫いている。


(せっかく殿下と外出したのにとんだことになってしまったわ)


 少しだけ残念な気持ちになりながらも、殿下の真剣さに当てられて私も真実を探る手助けをしようと決めたのだった。

更新が遅れてしまって申し訳ありません!

ついに来月、第2巻が出ます!

遅れてしまった理由にも関係するのですが

実は2巻の内容がWEBの第2章を全部没にして、すべて書き換えてしまおうという話になりまして……。

というわけで、2巻はアイスクリーム屋絡みの1.5章から始まって、8割ほどは書き下ろしとなります。

WEBとはまた違うストーリーを是非ともよろしくお願いします!

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