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【WEB版】悲劇のヒロインぶる妹のせいで婚約破棄したのですが、何故か正義感の強い王太子に絡まれるようになりました【コミックス4巻発売中!】  作者: 冬月光輝
第一章と第二章の間のお話

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氷菓の誘い

この話から、地の文の書き方を変えています。

書籍版は、全部こんな感じに書き換えています!

よろしくお願いいたします!


「レイア、“あいすくりいむ”なるものを知っているか?」


 この日は特に暑い日だった。

 国王陛下との謁見の翌日の夕方、いつものようにエリック殿下の執務室で護衛の業務をしていると唐突に彼は私に質問をする。


(珍しいわね。殿下がこのようなものに興味を持たれるなど思わなかった)


 超がつくほどの真面目で、いつも自らの正義を貫くために勤しんでいるエリック殿下。


 そんな彼の口からまさか、アイスクリームというワードが飛び出すとは……。


「今、王都で流行っている菓子の名前ですよ。氷のように冷たくて甘く、独特の舌触りが評判でして」


「氷のように冷たい菓子だと? 僕はてっきり秘密裏に開発されている兵器か何かの名前かと思っていた」


「発想が怖いですよ、殿下。そんな物騒なものの名前が行列のできる店の前で囁かれていたとしたら、大貴族の特権廃止以前にするべきことがあるのではありませんか?」


 まさかエリック殿下の生真面目と浮世離れしたところがこんなところで出てしまうとは思わなかった。


 庶民的なレストランで食事をするくらいはしていたけど、基本的に頭の中には国家の安寧と彼を狙う黒幕たちの陰謀ばかりになっていて、発想が可哀想なことになっているようだ。


(アイスクリームか。リンシャさんが美味しかったって言っていたな。私も食べてみたいって思っていたのよね)


「では、食べに行くか? あいすくりいむとやらを」


「えっ? わ、私、何か言っていましたか?」


「いや、表情に出ていただけだが。ジェイド・ベルクラインを騙したときは見事だったが、君は案外ポーカーフェイスが苦手だな」


 しまった。また顔に出ていたのか。

 殿下に物欲しそうな顔を見られたのは恥ずかしい。


 リンシャさんがとても美味しかったと自慢したから、ちょっと食べてみたいなと思っていたのだ。


『口の中でサラリと溶けてまるで雪みたいだったアル』


 そんなことを言われたら食べてみたいと思うのが人情。


 だけど私は最近までジェイド・ベルクラインの陰謀を阻止すべく頑張っていた。とても王都で行列ができる店に食べに行く余裕などなかったのである。


(顔に出てしまったのは恥ずかしいけど、ここで否定する意味はないわ)


「殿下、私はアイスクリームが食べたいです。本当に一緒に買いに行ってもよいのですか?」


 意を決して、私は正直に心のうちの欲望を告白して殿下の言及を肯定した。


「もちろんだ。秘密の兵器でなかったのは残念だが、たまには国民の流行について知っておくのも悪くはあるまい」


 エリック殿下らしい返答である。

 それにしても殿下が私を外出に誘うなどどういう風の吹きまわしだろうか。


 ジルの挙動を探るために一緒に尾行したり、ジェイド・ベルクラインを嵌めるための道具を作るために外出したり、ということはあったけど、こんなことは初めてである。


 ということで、執務を早めに切り上げた殿下と共に私は馬車に乗り込んだ。


「ところで気になったのだが、氷のように冷たい菓子などどうやって作るのだ?」


 馬車に揺られながらエリック殿下は普通の質問をされる。


 それはみんなが気にするところだろう。冷たい菓子などなかったのだから。


「菓子職人が冷却魔法を使うみたいですよ」


「へぇ、それは凄いな。魔法を菓子作りに活かしているのか」


「なんでも氷属性の威力を高める指輪があるらしく、それを手に入れてから強力な冷気を放出して尚かつ自在に操ることが可能になったみたいです」


「ほう。そんな魔道具があるとは知らなかった」


 冷気を自在に操り、菓子作りに活かす。そんな菓子職人など今までいなかった。


 私も魔法で結界を張ったり、癒やしたり、色んなことをしていますが、その応用方法には感服している。


 今の話はほとんどがリンシャさんからの受け売りだが、彼女の話を聞いて私はその菓子職人の魔法にも興味が惹かれるようになったのだ。


 そんな話をしていると馬車は噂のアイスクリーム屋に着いた。


(ああ、やっぱり行列が凄いわ。エリック殿下が身分を明かせば優遇はしてもらえるだろうけど)


「なるほど、あの列の一番後ろに並べば良いんだな?」


「仰るとおりです。殿下」


 こういうところがエリック殿下の殿下らしいところだ。


 曲がったことが大嫌いな彼が王太子という身分を利用して優遇されようとは思わないだろう。


「本当に不器用な方ですね……」


「んっ? 何か言ったか?」


「いいえ、何も」


 行列の最後尾に並ぶ私と殿下。こうして並び立つということにもすっかり慣れてしまった。


 待つ時間は長いが、殿下と一緒なら退屈とは無縁だ。


 初夏の日差しのもと、私たちは氷菓を求めて時がすぎるのを待った。

 

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