共に未来を歩む
この国が変わろうとも、明日が来る限り私は聖女としての務めを休む気はありません。
私が居なくとも、偉大なる御二方が聖女としての務めを十分に果たして頂けるとは思えど……、手を休めるつもりはないのです。
ですから、私は今日も王都の郊外にある森に結界を張ります。魔物が治安を乱してはなりませんので。
「やぁ、レイア。今日もご苦労さま」
「エリック様、その辺りはまだ結界を――」
「張っていないみたいだね。問題ない」
書類の整理があるからと、遅れて王宮を出たエリックは壊れた結界をすり抜けて森から出たワーウルフを三体、いつものように剣を振るい切伏せました。
多くの暗殺者に狙われ続けて、達人と呼ばれるレベルまで自らの武力を高めたというエリック。
涼しい顔をして、私の近くの草むらに腰掛けました。
「君の妹のジル・ウェストリアの処遇だけどね――」
しばらく黙って私のことを見ていたエリックはジルの処遇について話を始めました。
ベルクラインについては、極刑がほとんど確定したという話は聞いていますが、ジルについては知りません。
意見を求められたときに私は極刑は望まないとはっきり申しましたが……。
「最初は死罪にすべきだという意見が強かったんだけどね。……最後には君の言い分が通った」
「そうですか。ジルは極刑を免れましたか……。エリック様の温情に感謝いたします」
「僕はほとんど何もしていないさ。素直に取り調べに応じるようになった事、結果的にアルグリューン拘束に一役買った事などは主張したが……君が妹を死なせたくないと希望を伝えたことが一番大きい」
良かった。本当に良かったと心から思いました。
問題の大きな子でしたが、やはり血を分けた妹が死罪になるのだけは避けたいと願っていましたから。
「辺境の修道院に行くそうだ。本人も神の元で自分を見つめ直したいと言っている」
「チャンスを頂けたということですね。自らの罪と向かい合うことで、反省をする。ありがたいお話です」
修道院ですか……。
元々、色恋が原因で騒動を起こした訳ですから、静かに自己を顧みるには丁度良い場所ですね。
あの子が本当に変われるのか分かりませんが、信じてみようと思います。
「……僕自身も負い目があったんだ。ベルクラインを拘束するために、君の妹が罪を犯すのを黙って見過ごしたしね」
「それなら私も同じです。ですが間違ったことをしたとは思っていません」
あのとき、ジルを先に拘束すれば確かに毒を盛るという行為を防ぐことが出来たのかもしれませんが、それだけです。
エリックに向けられた凶刃を防ぐ為に私は自らを囮にすること、ジルが毒魔法を使うまで待つことに何の躊躇いもありませんでした。
「相変わらず強いんだな。僕は時々不安になるよ。果たして自分の行いは正しいのかどうか……。今回は父も、沢山の兵士たちも、ヨハンまでも巻き込んでしまった……」
「ご安心ください。間違っていると感じれば、私がエリック様を止めます。たとえ、嫌われようとも……」
エリックは自らが歩む道が正しいのかどうか不安になると仰せになりましたので、私は彼の抑止力になると告げました。
もちろん、私が全部正しい選択かどうか判別出来ると思い上がっている訳ではありません。
ですが、見守っている人がいることを知っていれば、少しくらい安心出来ると思ったのです。
「はは、それは嬉しいな。レイアが見ていてくれるなら心強い」
「勿体ないお言葉です」
「「…………」」
それから、エリックは私が結界を張り終えるまで一言も発しませんでした。
何かをずっと、深く考え込むような仕草をされていましたので、とても気になってしまいます。
私、生意気なことを言ったのでしょうか?
いえ、それなら初めて会ったときの方が喧嘩腰だった気がします。
そんなことを考えていたとき、急にエリックは立ち上がり……、立ち上がったかと思えばハッとした表情をして跪きました――。
「…………僕と結婚してくれないか?」
「えっ? あ、はい。私でよろしいのでしたら」
あれ? あまりにも、唐突にプロポーズされてしまったので、特に何もせずに受け入れてしまいましたが――これって大変なことでは?
「ふむ。流石はレイアだ。いきなり求婚してみて驚くかと思っていたんだけど。即答してくれるとは」
驚く間もないくらいいきなりだったからですよ。
驚きが後から来るパターンです。
もちろん、嬉しいですし、心のどこかで待っていたという気持ちもあったからこそ、すぐに受け入れましたのですが……。
――この人となら、きっと私は自分らしく生きてゆくことが出来る。そう思いましたから。
「……そうですね。理由くらい聞いておけば良かったです。……私が聖女だから、とかですか?」
あまりにもシンプルなプロポーズでしたから、理由も添えて欲しいと私はエリックに要求します。
聖女であるとか、護衛としての能力を認めてくれたとか、そんな感じだとイメージしていたのですが――。
「り、理由か。あまり考えていなかったな。ただ、君が好きになったからとしか……」
「そ、それだけ、ですか?」
シンプルな求婚に加えて、シンプルな理由。
それでもエリックは真剣で、その気持ちは十分に伝わりました。
「おかしいか? いや、ずっと暗殺やら何やらに構っていて、縁談なども何も考えずに全部断っていたからな。こういう時、気の利いたことが言えないんだ」
気まずそうな顔をされているエリック。
これは、私のリアクションが悪いですね。
こういう時、ジルのように可愛らしい顔が出来れば良いのだと思ってしまいます。
「いえ、十分過ぎるほどエリック様の気持ちは伝わっております。とても嬉しいです。……ずっとあなたと共に未来を歩めることが」
「そうか……、良かった」
多分、私もエリックもぎこちなく笑っていたのだと思います。
およそ、スマートではありませんが私は幸せを確かに感じていました。
彼の唇の感触と共に――。
ここで第二章完結です。
ようやく、レイアが幸せへの第一歩を踏み出しました。
書籍、第一巻に関しましては
まずは第一章までのところを7.5万字ほど加筆しまして、地の文をすべて書き直すという作業に加えて番外編を3つほど追加したという欲張りセットになっています。
正直言いまして、ほとんど書き下ろしです(笑)
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