教会にて
ジルの言葉をヒントにかつて私が聖女になる試験を受けた教会に行けば何かが分かるかもしれないと思い――私は教会を調査することにしました。
ジルに毒魔法の素養があることは聖女の試験結果に記されていましたが、それを持ち出せる人物は限られています。
誰がどうやってベルクラインにそれを見せたのか、その痕跡が教会の記録などに残っていないか調べようと思ったのです。
それをエリックにも伝えたのですが――。
「ちょうど、父上が教会に来てほしいと。レイアに大事な話があるそうだ。何の話なのかは僕にも教えてくれなかったが」
こ、国王陛下が私に用事があるですって?
しかも、わざわざ教会に呼び出すという意図が分かりません。
私が教会を調べようとした事とは関係がないみたいですが。
「僕も共に行こうと言ったのだが、どうやら君にだけに話したいことらしくてね。護衛を何人か回そう。父上にもアルフレートやヨハンが付いているから大丈夫だと思うが……」
エリックも陛下が私だけに用事があり、しかも教会に呼び出そうとしていることに違和感があるみたいです。
これは、考えても答えは見つからなそうですね……。
とにかく約束の時間に教会に行ってみるとしましょう。
私を含む三人の聖女は教会に所属しています。
エルシャイド王都の外れにある、アエルテ教会は国内の教会を管理する大司教がおり、私はここで聖女の称号を頂きました。
教会の中に入ると陛下は誰もいない教壇を見つめていました。
もちろん、護衛の方たちはずらりと並んで待機していますが。
ヨハンは教会の外を警護しているみたいですね……。
「聖女レイア殿、よく来てくれたな。この教会の資料を調べたいと聞いておる。大司教に話をつけて、全て王宮に持ち出す許可をもらったところだ」
「お気遣い、感謝します。陛下」
私は国王陛下に頭を下げました。
どうやら、陛下も資料を洗うことに協力してくれるみたいです。
それなら思ったよりも犯人を特定することは早いかもしれません。
そして、陛下は私の顔を見つめながら思いもよらぬことを口にしました。
「ふむ。やはり、よく似ているな。母親に」
「……母親に似ていますか? しかし、私の母親は――」
「知っておる。実の母とは死別しておることは。リーゼロッテ・マルティス――お主の実の母親とワシは古くからの友人だったのだ」
「――っ!?」
母親に似ているという国王陛下の言葉に私はつい、義母であるエカチェリーナとは血が繋がっていないと告げようと口を開きます。
しかし、陛下は何と死別した実の母親であるリーゼロッテの名を声に出しました。
それも、母の旧姓をご存知で古くからの友人だったと仰せになられましたので、とても驚いています。
「……私は母に似ているのですね。物心つく前に亡くなってしまったので、私は母の顔を覚えていないのです」
「そっくりだったよ。魔法の素養も高くてな。聖女候補として期待されていた逸材だった。残念ながら病気がちになってしまい、聖女になることは出来なかったが……」
「母は聖女候補だったのですか? 知りませんでした。父はあまり母のことを話してくれませんでしたから」
昔を懐かしむように陛下は母のことを私に教えてくれます。
実母について子供の頃はよく父に尋ねたことがあったのですが、不機嫌になったので次第に何も聞かなくなりました。
そうでしたか。母も私と同じで聖女を――。
「実はワシは昔、リーゼロッテに命を救われたことがあってな。あれは、まだ王位を継ぐ前で、狩りを楽しもうと山に向かったときだった」
「母が陛下の命を……」
「突然、ワシの乗っていた馬が暴走しおって……崖から落下したことがあったのだが。全身を骨折したらしく、動くことが出来ずにワシは死を覚悟した。しかし、お主の母、リーゼロッテは直ぐ様、崖の下までワシを助けに飛び降りてな。強力な治癒魔法で応急処置をしてくれて、大事に至らずに済んだのだ」
どうやら母は陛下の命の恩人らしいです。
私は何も知らずに過ごしてきました。
母も私と同じで治癒魔法が得意だったのでしょうか。
それにしても、その話をどうして今されたのでしょう。
前にエリックと謁見したときでも――。
「出来れば、息子のいない時にこの話をしたかった。実はリーゼロッテは――」
そこまで陛下が話したとき、大きな爆発音が教会の至る所から響き渡りました。
こ、これは、まさか暗殺者が……。
一瞬で教会は火の海となり、護衛の方々も突然のことにパニックになっています。
とにかく、ここから陛下をお連れして脱出しませんと。
しかし嫌な予感がします。こんな規模の爆発を外の護衛に気付かれずに起こすなど、今までの暗殺者とは何かが違う……、そんな予感がしました――。