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【WEB版】悲劇のヒロインぶる妹のせいで婚約破棄したのですが、何故か正義感の強い王太子に絡まれるようになりました【コミックス4巻発売中!】  作者: 冬月光輝
第2章『不屈の聖女と義を貫く王太子』

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利用する者、される者

「エルノーガ・ミックティンガーは遅刻してきた……ですか? エルノーガというのは、先日、ヨハンさんとリンシャさんが拘束した暗殺者ですよね」


 エルノーガ・ミックティンガー――北の隣国、デルコット王国で何人もの要人暗殺に関わったとされる名の知れた暗殺者。

 雇い主は本人ですら分からず、捜査中とのことでしたが――。


「ジェイド・ベルクラインが供述したんだ。あの男を雇ったのは自分だと、ね。……本来、エルノーガこそがベルクラインの切り札だったそうだ。君と僕、二人を同時に仕留めるための。だが、約束のときになってもヤツは現れなかった。そんなときに、ジル・ウェストリアの毒魔法の適性の高さを示す資料が手に入った」


 ベルクラインが拘束された数日後に現れたエルノーガでしたが、依頼主はまさかのベルクラインその人でした。

 そして、それがジルを使った暗殺計画が実行されたこととも繋がっているとは……。


 不穏分子の動きについての情報をベルクラインなら握っている可能性が高いと見て、彼に探りを入れることを進言しましたが、ここに来てそんな事実が浮き彫りになるなんて思いもしませんでした……。



「レイア、少し歩こうか」


「散歩ですか? 私は構いませんが……」


 そこまで話をして、エリックは私を執務室の外に連れ出しました。

 王宮の中庭でも歩かれるのでしょうか? 確かに、ちょうど夕焼けが美しく気温も涼しいので少し歩くのも気分転換になりそうです。



「知らない間に随分と巻き込んでしまったね。本来、聖女である君がここまで内政のゴタゴタに関与するなんて……あってはならないことは理解してるんだ」


「巻き込まれたなんて思っていませんよ。寧ろ、誇らしく思っています。エリック様が自らの義を貫くためのお手伝いが出来ていることが」


「ありがとう。君に甘えていることは分かっているんだ。だけど、もう少しだけ我儘に付き合ってほしい。最近、分かったんだ。僕が我儘を言えるのはレイアだけだ……」


「エリック様……」


 彼の性格上、自分のせいで私を巻き込んだのなら、と突き放しそうではあったのですが、そうされなかった――一緒に付いて来てほしいと仰せになってくれた。

 私にだけ我儘を言うことが出来ると述べたエリックの瞳は夕焼けの光が反射して熱を帯びているように見えます。


「嬉しいです。最初に会話をした時は妹を虐める悪い聖女だと仰っていたエリック様が、まさか私に我儘を仰る日が来るとは思いませんでしたから」


「おいおい、根に持っているのかい?」


「勿論ですよ。あの日、エリック様は私のことをご自分の目で見極めると言われました。その答え合わせを待っていました」


 フィリップに婚約破棄を告げられた日、エリックにいきなり絡まれて……私もついムッとした反応をしてしまいました。

 それでも、彼は私を見て人となりを判断すると仰って……今日まで共に過ごしていたのです。


 信じてくれると言って頂けただけで嬉しかったのですが――。


「我儘が言えるのは私だけだと仰ってもらえて、自意識過剰なのかもしれませんがエリック様にとって特別な存在になれた気がしたのです」


「レイア、僕は――」


「ですから、早くエリック様の憂いを解消したいと思っています。そのためにもエルノーガと話してみましょう。ベルクラインさんの話を聞けば、有益な情報を思い出すかもしれません」


「…………そ、そうだね。まずはそっちを事情聴取するか。流石はレイア、いつも冷静な判断をしてくれる」


 エリックが私を特別だと思って下さっている。

 ごめんなさい。その感情の答え合わせをわざと避けてしまいました。

 今、この状況でそれを聞いてしまうと、冷静さを失われて足を引っ張るかもしれませんから――。


 リラックス目的で散歩をしたつもりが、胸の高鳴りのせいでそれどころでは無くなってしまいました。


 それをどうにか誤魔化しつつ、私はエリックと共にエルノーガが閉じ込められている独房へと向かいます。


 真実に近づくために――。




「エリック・エルシャイドか。我の暗殺対象がまた何か用事か?」


「君の雇い主が判明した。ジェイド・ベルクライン、この国の元公爵だ。この名前に聞き覚えは?」


 両手両足を拘束されながらもエルノーガは私たちを挑発するかのごとく殺気を撒き散らしていました。

 エリックはそれでも構わず彼に質問を投げかけます。


「知らんな。我も敗北した以上は貴様の部下への敬意を払い、知っていることくらいは教えてやるつもりだが、残念だったな」


 ベルクラインがこの男を雇うにあたって、何重にもダミー情報を流して足取りを掴めないようにしていることは分かっています。

 ですから、この答えは想定内。問題はここからです。


「エルノーガさん、あなたの雇い主であるベルクラインさんはあなたが遅刻してきたと言っていました。遅刻してきたことに何か事情はあるのでしょうか?」


「……お主が聖女とやらか。やたらと強い護衛という。死合うことが出来ぬのが残念であった」


「質問に答えてください」


「我が遅刻しただと? 不本意だな。依頼主の事情により計画を遅らせるようにと指示が出たから従ったまでだ」


 なるほど。エルノーガは何者かの指示によって遅刻してきたというわけですか。

 とするならば、浮かび上がる事実は一つです。

 ベルクラインの暗殺計画は何者かによって妨害されていた――しかしながら、エルノーガが送り込まれたという事実から察するに黒幕はエリック自体も消そうと考えています。


「ベルクライン派も敵を作っていたからね。彼も彼で国を変えようとしていたのだから、アルグリューン公爵もメルハイド公爵も疎んじていたのは確かだし」


「しかしながら、邪魔をするのでしたらベルクラインさんが暗殺者を送り込んだ証拠を密告するだけで良いのでは?」


「ベルクラインもベルクラインで、自らの痕跡を完全に消していたんだ。客観的な証拠は簡単に見つからないさ。だが、エルノーガへの依頼内容を間接的に変化させるくらいの妨害は出来たようだ」


 つまり、ベルクラインがジルを使って失敗したのは、何者かの妨害の結果ということ。

 もしかしたら、ジル自体を彼の刺客にすることさえも仕組まれたことなのかもしれません。


 ジルに一度会って、話を聞いてみましょう――。

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