二人の公爵
ベルクライン公爵の爵位が剥奪された今現在、エルシャイド王国には大貴族と呼ばれる公爵たちが三人おります。
東西南北に大きな領地を持ち、特権を与えられている彼らにとって、陛下が特権廃止を公言されたことは痛手でしかありません。
反発することは目に見えていました。
その証拠に最も穏健派だと言われるジルベルト公爵ですら、エリックを通じて国王陛下に特権廃止を撤回させるように頼みに来たのですから。
二人の公爵――アルグリューン公爵とメルハイド公爵はどのようなアクションを見せるのでしょうか……。
「我がアルグリューン家は長くエルシャイド王家に仕えており、国王陛下には絶対の忠誠を誓っております。陛下が我らに与えて下さった特権の廃止を必要だと謳うのでしたら、全面的に従うことこそ真の臣下たる公爵家の使命かと存じます」
陛下に挨拶をされた後にエリックのもとを訪れたアルグリューン公爵は、穏やかな口調で国王陛下を全面的に支持するという姿勢を見せました。
恐らくは、エルシャイド王家と対立するつもりはないと主張されるためだと思います。
正直に申しまして意外でした。
アルグリューン派の役人は最も勢力が強いのですから。
特権廃止の痛手を最も被るのはアルグリューン家なのは間違いありません。
なのにも関わらず、国王陛下を全面的に支持すると公言されたのには何か別の意図があるのでしょうか――。
「アルグリューン公爵は僕よりもデールを買っていた。父上には熱心にデールを王太子にすべきだと進言していたんだ。でも、父とは幼い頃よりの友人だからね。特権が廃止されても父が国王である限りは安泰と考えたか、それとも――」
「国王、影でぶっ殺そうと考えてるかネ」
「リンシャさん、表現がストレート過ぎますよ」
第二王子であるデールこそが次期国王に相応しいとする動きの中で特に目立っていたのはアルグリューン公爵だったそうです。
旧友である国王陛下にストレートに進言されていたとは驚きですが。
となると、リンシャの言うとおり全面的に忠誠を誓うと言いつつ……後ろから刺してくる可能性は十分にありそうですね……。
「アルグリューン公爵の忠誠は嬉しいが、流石に鵜呑みにするわけにはいかないね。こうして疑ってばかりの自分が相変わらず嫌になるけど」
「確かに度を超えて疑い深いことは問題です。しかし、何もかもを鵜呑みにして素直に信じ過ぎることも美徳かもしれませんが、どこか信頼という言葉を安っぽくしてしまう気がします」
「レイア、そこまで僕に気を遣わないくても良いんだよ」
「私は私の思ったことを申し上げているだけですから」
アルグリューン公爵が殊勝な態度を取ることに関しても逆に怪しいとするエリックは自分の疑い深さに嫌気がすると自虐されていましたが、私はそうは思いません。
自己の見聞から正しいと思う情報を取捨選択して、自己の責任を以ってして信頼に値するかどうかを決定しているからこそ、“信頼”という言葉に価値が生まれるのだと私は思います。
だからこそ、私はエリックに信頼されて嬉しかったのですから――。
そして、残る最後の公爵。メルハイド公爵はというと――。
「殿下! どう考えても納得が行きませぬ! 国王陛下はエルシャイド王国の基盤を誰が支えてきたと思われているのでしょう!? 我ら公爵家を蔑ろにして、他の貴族連中と同列に並べることは我慢なりませぬ!」
明らかに怒鳴りこむというような態度で憤慨してやって来られたメルハイド公爵は話し合える状態ではないと見なされて国王陛下とは謁見出来なかったみたいです。
エリックは怒っていても構わないとしてメルハイド公爵を迎え入れ、話を聞くことにしました。
「ベルクラインの若造が粗相を犯したから何なのです!? 我らがヤツのとばっちりを受けるのはどう考えても納得いかんことでしょう!? とにかく私は許しません! 陛下と対立してでもこの馬鹿げた話を撤回してもらう所存です!」
物凄い剣幕でまくし立てながら、王家と対立することを明言されたメルハイド公爵。
彼は領地にかなり大きな税金を課しており、私腹を肥やしているとエリックから聞いたことがあります。
欲望に忠実で、失言が多かったとも。
完全に喧嘩腰ですし、これは注意すべき相手かもしれません。
「とはいえ、あの人は倹約主義というか守銭奴というか、お金にうるさいと有名なんだよ。そんな彼が暗殺者なんて金のかかる者を雇うかなって。もちろん、警戒はするけどね」
確かに本当に暗殺するつもりなら、不平不満を少しは隠しますよね。
あんなにストレートに不満をぶつけるタイプの方が暗殺を目論むかといえば、その可能性は少ないかもしれません。
「まぁ、二人とも父上が本気で特権廃止に動いていることを認知しただろう。ここからが正念場だね」
「ヨハンさんたちが陛下には付いていますから、そちらはお任せするとして――」
「僕らは情報収集かな。不穏分子の動きも掴みやすくなっているだろう」
さて、私たちも動きますよ。
まず最初は彼を洗ってみますか――。
何か怪しいアルグリューン公爵と、何か頭悪そうなメルハイド公爵でした。
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