模擬戦
ヨハンたちを受け入れないとするアルフレートに、実力を示すとしてエリックが直々に彼に対して試合を申し込みました。
アルフレートはそれを了承して修練場にて、訓練用の木刀をエリックに選ばせます。
エリックは手頃な大きさの木刀を選び、ヒュンと一振りして前傾姿勢気味になり中段に剣を構えました。
あれが、ヨハンの生家であるオルブラン家に代々伝わるオルブラン流剣術の基本姿勢です。
「殿下の腕がそこそこ立つということは聞き及んでおります。しかしながら、殿下は戦場で鍛えた剣というものをご存知ない」
アルフレートはエリックと同じ木刀を選び上段に構えました。
確か、彼は平民の出自で十年前のあの戦争で武勲を幾つも立てて騎士団長にまで昇進した叩き上げ――名家の生まれのヨハンとは対照的とも言えます。
だからこそ、ヨハンが認められないのかもしれません。
そして、エリックもそれを知っているからこそ、自らの手で――。
「それでは、殿下。どこからでもどうぞ……。怪我を恐れるなら、降参されることが賢明ですが……」
この場合――当たり前ですが仮にアルフレートがエリックを怪我させたとしても、彼を罪に問うことは出来ません。
エリックは公明正大な方ですから、大怪我を負っても文句一つ言わないでしょうが……。
アルフレートのあの殺気――間合いに飛び込めば必殺の一撃が待っているでしょう。
怪力無双と呼ばれた彼の技を受ければ木刀といえどもただでは済みません。
私のような魔法を使うタイプなら遠距離から仕掛けることは出来ますが、エリックはリーチで勝る相手にどう対応するのでしょうか……。
「どうしました? まさか、怖じ気――――っ!?」
「安易に瞬きをするな。戦場ではそんなことも教えて貰えないのか?」
「なっ――!?」
別段、アルフレートが油断していたようには見えませんでした。
瞬きをする、その瞬間――それを呼吸として読み取り、エリックは彼の制空権内に入り込みます。
そして、容赦なく喉元に木刀を突きつけようと腕を伸ばしました。
しかし、流石はアルフレート。並の兵士なら完全にスキを狙われ今ので終わりそうなものですが、彼は違います。
ギリギリのタイミングで自らの木刀でエリックの木刀を受け止め……そこから数度打ち合いました。
少しだけエリックが押されているところを見ると、やはりパワーではアルフレートが上回っているのでしょう。
「ふっ、オルブラン流など恐れるに足らず……ですな! 確かに、不意をつかれた事は認めましょう! しかし、私は二度とスキを見せません!」
「勘違いしては困るな。今から見せるのがオルブラン流剣術だ――。虚雨ッ!」
「ぬっ――!?」
オルブラン流剣術の基本技である虚雨――超スピードで、死角を集中的に狙い、刀身が消えたかと錯覚させる剣技です。
私からは見ることが出来ますが正面から技を受けるアルフレートには、まるで目にも映らぬ剣が襲いかかるように感じているでしょう。
「はぁ、はぁ、こ、これが、オルブラン流……」
「流石はアルフレートだ。意識の外からの攻撃にも反射的に防御姿勢を取って決定打を避けている」
「はぁ、はぁ、それくらいは出来ねば戦場で生き残れませんから――」
体勢を立て直し、剣を再び上段に構えるアルフレート。
見えない剣技のプレッシャーはかなりのものだったはずですが、それでも心は折れていないみたいです。
「このアルフレート! 気迫なら、誰にも負けません!」
剣の間合いではない位置から、アルフレートはブンと木刀を振り下ろします。
しかし、その凄まじい剛力から繰り出された突風にも似た風圧は反射的に防御姿勢を取ったエリックの足元をグラつかせて、体勢を崩すに至りました。
「勝機ッ!」
そのチャンスを見逃すものかと、アルフレートはエリックに向かって突進しました。
既に生意気な王太子を黙らせてやろうとしていた時の余裕は消え、強敵を倒す最後のチャンスだという必殺の気合を込めて本気で一本を取ろうとしております。
「オルブラン流、空蝉流し……」
「――っ!?」
アルフレートの木刀は空を切っていました。
そして、彼と背中合わせになっているエリックは背後から木刀をアルフレートの首元に突きつけています。
グラついて見せたのはエリックの演技――そのタイミングでアルフレートが飛び込む所までを予測して一撃を放った瞬間に身を翻して一瞬で背後に回ったということでしょう。
私の目で見た推測ですから当たっているかどうか分かりませんが……。
「ヨハンはもっと強いよ。僕の腕よりもずっと太くてパワーがあるからね。最初の虚雨で決着はついていた……」
「護衛する者が護衛対象よりも弱いはずがないということですか……」
「そういうこと。理解してくれてありがとう」
こうして、アルフレートは自らヨハンに非礼を侘びて、密に連携して共に国王陛下を守ろうと協力姿勢を取ることに決まりました。
少しだけ揉めてしまいましたが、本来彼らは純粋に国を想い国王を守ろうと懸命に努力している方々ですから、力を示せば受け入れてくれるのです。
こうなると、ジルベルト公爵以外の二人の大貴族の動きが気になりますが、どう動くのでしょうか――。




