番外編 その1(リンシャ視点)
近頃、エリックを守る仕事が暇になってるネ。
リンシャの故郷、レン皇国に居たときは暇になるなんて考えたことなかったアル。
周りにいる人、大体が敵だったからネ。毎日が殴り合いの日々ヨ。
エリックも同じだと思ったけど、違ったネ。
エリック、ヨハンもレイアも信じてる。リンシャのことも信じてると言ってくれたヨ。
それは、リンシャが故郷に居たとき凄く欲しかったモノだったアル。
「リンシャ殿、レイア殿からサンドイッチを頂いた」
「謝謝ッ! ありがと、ヨハン! 後でレイアにお礼いうヨ」
「うむ。それがよかろう」
今日はレイアが山道の入口に結界張るから、それを見てるエリックを見守ってるアル。
ヨハンからサンドイッチを受け取って口に運ぶ。
血の味がしない食事もこっちに来てから当たり前になったネ。
「リンシャ殿も変わられたな」
「リンシャ、変わった……?」
「うむ。以前は近寄りがたい殺気のようなものがあったし、あわや一般人を傷付けてしまいそうになる危うさがあった。その時と比べると随分穏やかになられている」
ヨハン、リンシャのこと変わったと言ってる。
でも、ヨハンの方が変わってるヨ。褌とかいう変な下着付けてるし。
喋り方も独特だし。キャラクターが渋滞してるネ。
「エリック殿下もすれ違う人を全員殴り飛ばすのはどうかと、思っておられただろうし――」
「怪しい奴、見つけたネ」
「ぐぎゃああああああああッッッ!」
あっ!? 怪しい奴見つけたから、気付いたら殴ってたアル。
小柄な白髪の男、変な形のリュックサック背負ってたし悪者に決まっているヨ。
んっ? ヨハン、何か言ってたか?
「リンシャ殿~~! 言ってる側から! 一般人に手を出してはならぬとあれ程――!」
「死なないように手加減したから大丈夫ヨ」
「ちっとも大丈夫ではありませぬ~! リンシャ殿、あの人、泡吹いて倒れてるではありませんか!?」
ヨハンがリンシャの耳元で怒鳴り散らすネ。
信頼してくれて大丈夫ヨ。リンシャ、どうやったら死なないように殴り飛ばせるか勉強したアル。
でも、泡吹いて倒れてるのおかしいネ……。
「とにかく、怪我の治療を……。――っ!?」
「ほう。男の方もただの愚図ではなかったか」
小柄な白髪の男はリュックサックから真っ赤な棍棒を取り出して、ヨハンに殴りかかる。
ヨハンは当然、避けたけどネ。あんな攻撃、ヨハンなら簡単に捌けるアル。
「そ、某が暗殺者特有の殺気にまるで気付けなかった……?」
「当たり前だ。我の擬態術は完璧! 我がターゲットの横を過ぎ去りし時、赤雨が舞い……残るは血塗られた死体のみ……! そこの女、勘の良さは野生動物並みか……!?」
赤い棍棒をブンブン振り回してる白髪男はすっごく悪い気を送ってきてるネ。
リンシャ、そういうのは誰よりも分かるヨ。レン皇国にはそんな奴ばかりしか居なかったからネ。
「白髪、赤い棍棒……ま、まさか。お主はデルコット王国を恐怖に陥れた暗殺者――エルノーガ・ミックティンガー」
「ほう、我のこと知っておるのか? ターゲットを殺る前に見つかったのは初めてだ。しかし、見られたからには貴様らも生かしておくわけにはいかん!」
ヨハン、あの白髪のことエルノーガとか呼んでるネ。
デルコット王国はこの国の北側の国。あいつもリンシャと一緒で外国からわざわざ来た人みたいアル。
「リンシャ殿、あやつをエリック殿下に近付けるな!」
「今度は本気でぶっ飛ばしても良いってことネ!」
「ふはははは、愚か者め! このエルノーガ! 二度と油断はせん!」
エルノーガは赤い棍棒をグルグル振り回しながら、こっちに飛びかかって来たヨ。
獣よりも速く動くから一発殴るのを諦めて、後ろにジャンプして避けるネ。
「オルブラン流――虚雨!」
「ぬうううっ! 目にも止まらぬ剣技……! 見事なり! だが、ヌルい!」
ヨハン、いつもどおり見えない剣技でエルノーガって奴を斬るけど血塗れになってもあいつは突進してくるヨ。
リンシャも今度は本気で殴るネ。レン皇国に伝わる大地の力をぶっ倒す力に変える武術――名前は、忘れたアル!
「うおりゃあああああああっ!」
「ぬはははははっ! 非常に腰の入った良いパンチだ! 常人なら骨が粉々になって、二度とマトモに動くことは出来ぬだろう!」
リンシャの拳――棍棒で受け止められた?
こっちの国に来て初めて殴った人、吹き飛ばなかったネ。
こんなにビリビリする感覚も久しぶりアル。
ビリビリする感覚すると、死んじゃうかもしれないから注意しろって昔、先生に言われたヨ。
「まずは、女! 貴様からだ!」
拳が棍棒に弾かれて、リンシャの頭に振り下ろされる。
あれに当たったら痛そうネ。
取り敢えず、避けられないなら我慢するしかないアル……!
「リンシャ殿! オルブラン流――虎狼閃!」
「まだ、速く強くなるのか! ぬううう! 小癪な!」
「殴ってダメなら、蹴れって先生が言ってたネ!」
「うぶあっ――!」
ヨハンがエルノーガの肩を剣で貫いたから、あいつ、ちょっとよろけたヨ。
殴ってダメなら蹴るって教えられたどおり、リンシャはあいつの頭を蹴る。
今度はマトモに当たったから、吹っ飛んで行ったアル。
「おのれ! このエルノーガ・ミックティンガーが……! ターゲットに接近も出来ずに……!」
「オルブラン流……、奥義! 一鬼刀閃ッ!」
「もっと本気でぶん殴るアルよ!」
「ぬぐあああああああああッッッ!!」
相手が弱ったらトドメ。これ、レン皇国では常識アル。
リンシャとヨハンで同時にエルノーガを殴ったり、斬ったりしたら、流石のあいつも倒れて動かなくなったヨ。
ギリギリ生きてるから、厳重に縛って憲兵隊に引き渡したネ。
「まさかの大物確保だったね。あのエルノーガ・ミックティンガーを拘束出来るとは……。デルコット王国との外交カードになりそうだ。二人ともご苦労だった」
取り調べの情報というのを聞いてきたエリックがリンシャたちを褒めてくれたヨ。
エルノーガって、隣の国で有名な殺し屋だったんだって。
リンシャもヨハンも一対一だと危なかったかもしれないネ。
「で、エルノーガは一体誰に雇われたのか分かりましたか?」
「いや、本人も知らないみたいだった。闇のルートは複雑で何重にもダミー情報が散りばめられて真実にたどり着くことを阻んでいる。エルノーガも金さえ貰えれば依頼主は誰でも良かったみたいだしね」
「ベルクライン殿が捕まってから暗殺者も鳴りを潜めていたかと思いましたが、やはりまだ油断は出来ませぬな」
エリックとヨハンは難しい話をしてるけど、リンシャにはよく分からないネ。
とにかく、悪い気を放ってる奴は片っ端からぶっ飛ばしていくアルよ――。




