神様に憎まれていますの(ジル視点)
人は誰でも幸せになる権利がある――昔読んだ絵本にはそう描いてありました。
わたくしも人並みに幸せになりたい。ただ、それだけの小さな願いの為に今日まで生きてきました。
――それなのに、ジェイド様との明るい未来を掴めると思っていましたのに、気付けばわたくしは暗くて冷たい檻の中に入れられています。
あんまりです。
わたくし、言われたように頑張りましたのに。
お姉様のワイングラスにちゃんと毒を入れましたのに。
ジェイド様は嘘つきです。わたくしはちっとも幸せにはなれませんでした。
それどころか、こんなにも寒い監獄に入れられて――硬いパンと少しの水しか与えられずに酷い目に遭っています。
憲兵さんたちも、怖い顔をして「泣いても無駄だぞ」って脅してきますし、何度も何度も同じ質問ばかり繰り返して頭がおかしくなりそうでした。
だって、ジェイド様がこの国のためにはレイアお姉様が聖女であることは有害だと仰るから――わたくしは、害虫であるお姉様を駆除しようとしただけですの。
国のために行動したのに、このように虐められるなんて理不尽、きっと神様にわたくしが憎まれているからですわ。
お母様もお父様も、どうしてわたくしを助けてくれませんのぉ?
寒いです、お腹もずっと空いています、汚いです、身体が痛いです、それにとっても、とっても惨めですわ……。
「ジル・ウェストリアですね。少しだけお話しさせて下さい」
「あ、あ、あなたはデール様……!?」
暗くて寒い監獄の中で、打ちひしがれていますと憲兵さんたちを引き連れて、この国の第二王子であるデール様が来られました。
ランタンの光に照らされたデール様は微笑んでおり、とても優しそうな印象を受けます。
もしかして、わたくしを助けに来てくださったのでは? いけませんわ。髪の毛もボサボサですし、服も汚いですし、どうしましょう……。
「なるほど、如何にも甘やかされて育てられたというような表情です。こんなのを、切り札にしようとは、ジェイドさんも焦っていたのかもしれません」
ジィーっとわたくしの顔をご覧になられて、デール様は何やら勝手に頷いております。
別にわたくしは甘やかされてなどいませんわ。失礼なことを言わないで下さいまし。
「レイアさんを殺害しようとしたのは、国のために行動したと主張しているそうですね?」
「仰るとおりですわ。レイアお姉様はジェイド様がこの国の為に殉ずるにあたって障害となる人物。わたくしは次期聖女として、身内として、駆除しようとしました」
いつもと同じ質問をデール様がされましたので、わたくしはいつもどおり答えました。
何度、説明してもわたくしが悪いように話をすり替えるので、毎回悔しくて涙が出てしまいますが、我慢して答えます……。
「国のために、ですか?」
「はい。わたくし、お国のためなら何でもすると、天に誓いましたの。それが聖女としての生き様だとジェイド様に教えられましたから」
「それは素晴らしいですね。国のために何でもするなんて、並大抵の覚悟では言えません」
「うふふ……」
わたくしには覚悟があります。
たとえ、肉親でも親愛なるお姉様であろうとも、国のためになるならば殺すという大いなる覚悟が。
その気概こそ、ジェイド様が理想の女性に求めるものだと仰って下さいましたので。
新たな聖女になる準備は万端でしたのに……。
「じゃあ、国のために今すぐ自害して下さい」
「えっ……?」
「いえ、ジルさんのように醜い害虫は死んだ方が国のためになると言っただけですよ。この国は極刑までに時間がかかりますし、お優しいレイアさんは極刑を望まないかもしれない。……ですから、お願いします。死んでください」
「そ、そんな……、ひ、酷いこと……」
今まで、こんなに酷いことを言われたことはありません。
わたくしのことを害虫だなんて。死んだ方が国のためになるだなんて……。
どうして、そんなに酷いことを口に出せるのでしょう。
「ぐすっ、ぐすっ……、死んだ方がいいなんて、酷すぎますわぁ……」
「ここに来て被害者ぶって泣くとは、やはり屑ですね。あなたのような屑のせいで……この国は混乱に飲み込まれようとしている」
ニコニコと微笑んでいるにも関わらず、デール様はわたくしに辛辣な言葉を浴びせてきます。
どうして、わたくしがここまで言われなくてはならないのでしょう。
「あなたは一度、地獄を見た方が良いですよ」
怖いセリフを残してデール様は去っていきました。
た、助けてくれませんの? では、何故ここに……。
神様、わたくしにばかり嫌がらせをするのは何故ですか――?




