一件落着
目の前で盛大に胃の中のワインを吐き出そうと必死なベルクライン公爵。
ジルはその様子を不思議そうに眺めています。
彼女は私の言ったことを理解していないみたいですが、ベルクライン公爵に通じたので良しとしましょう。
「オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ! た、助けてくれ! ジル! 解毒だ! 解毒魔法を早く!」
やはり、ジルに解毒魔法も教えていましたか。
解毒出来るのなら、取引としても利用出来ますものね……。
さっそく失言が飛び出てくれました。ありがたいです。
「ジェイド様ぁ、アンチポイズンですかぁ? でも、わたくしが毒を盛ったのはレイアお姉様のワインですよぉ」
「バカ! 空気読め! バカ女! それをアポートで僕のグラスと入れ替えたと言ってただろう! オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ!」
「あー、そういうことですかぁ。でもぉ、ジェイド様ぁ、バカ女だなんて酷いですぅ。グスン……」
「あああああああっ! 面倒くさい! オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッ! は、早く! アンチポイズンを!」
自白に次ぐ自白……!
毒を飲んで冷静さを失ったベルクライン公爵とこんな時でもマイペースなジルの相性は最悪でした。
ベルクライン公爵の失敗はジルのような性格の子を暗殺者などにしようとしたことです。
「ベルクライン公爵、今、レイアに毒を盛ったという話と聞き捨てならぬ会話をしていたが、これはどういうことだい?」
「はっ――!? エリック……、貴様……! 私を嵌めたなっ! ジル! アンチポイズンだ! 早くしろ!」
「グスン……! 大きな声は怖いですのぉ……!」
「ジルはこのとおりです。しかし、ここに万能霊薬があります。あなたの差し金でジルは私を暗殺しようとしたこと、兼ねてからエリック様に暗殺者を仕向けたことを認めれば、お渡ししましょう」
ジルは怒鳴られると泣き出し、萎縮して動けなくなるのですが、ベルクライン公爵はそれをご存知ないみたいです。
父はそれを知っているから、面倒くさがって彼女を叱ることを止めました……。
ですから、私はベルクライン公爵に助け船を出します。
万能霊薬――万病に効くという伝説の薬を持っていると。小瓶に入った液体を見せながら、自分の罪を認めるか問うたのです。
「え、エリクサーだと!? み、認める! 認めるよ! だから、早くそれを渡してくれ!」
「ご覧のとおりだ! 相次いだ、僕の暗殺未遂、そして、今日は聖女レイアをこのジェイド・ベルクラインは暗殺しようとした! 今日お集まりの皆には、この男が自供したという事実の証人となって欲しい!」
今までに数多くの刺客をエリックに送り出していたベルクライン公爵。
そして、彼は護衛である私にもその毒牙を向けようとしました。私の妹を誑かして――。
その全ての罪を……、パーティー会場に集まった多くの貴族たちの注目の中、彼は認めたのです。
「み、認めたぞ! 認めたから……! 早く、私にエリクサーを……!」
「どうぞ、お飲みになってください」
「んぐっ、んぐっ、んぐっ……、ぷはぁ。…………はぁ、はぁ、はぁ。わ、私は……何ということを――」
私は小瓶をベルクライン公爵に手渡しました。
彼は物凄い形相でそれを飲み干して、息を切らせます。
どうやら、ようやく冷静さを取り戻したみたいです……。
「ジェイド・ベルクラインよ、観念するがいい。君にはあの役人たちの件以来、ずっと疑念を持ち続けていたが、ようやく尻尾を見せたな」
「黙れ、偽善者! あいつらを殺したのはお前だろ!? あいつらには円滑に法整備を進める為に金を握らせただけだ! そのおかげで、助かる人間が数多くいたものを! お前の身勝手な正義が潰したのだ! だから、私も私の正義の為にお前を潰すことにした!」
ベルクライン公爵は自らの手駒として動いていた役人たちに、様々な困っている国民たちを救う為の法整備を早く制定するために金を握らせていたことを、エリックに糾弾された件について怒りの言葉を発しました。
どうやら、彼はあの事件がきっかけでエリックの命を狙うようになったらしいです。
「それがどうした? 君はその役人たちを守るどころか殺したじゃないか。あの事件の詳細をもう一度資料で確認したけど、自殺に使った毒薬の入手経路が不明だったんだよね。君、ジル・ウェストリアに使わせた毒魔法と同じモノの実験を彼らを使ってやらせたんじゃない?」
二人の役人が同日に自殺した手段はジルの使用した禁術、強力な毒魔法であると推理しました。
確かに役人たちも多少は魔法の心得があったみたいですし、ジルのように一瞬で発動させるのは無理だとしても、使うことだけならそこまで難しくないかもしれません。
「あいつらは私の理想の為なら喜んで死んだ! 私にこの国の未来を託したのだ! 最期まで私の役に立つことを誇りに思っていたさ! 畜生! お前がこの国の王太子じゃなければ……! 畜生!」
ベルクライン公爵は悔しそうに顔を歪ませながら、エリックに恨み節をぶつけます。
この方には、この方の信念があったのかもしれませんが、だからといって邪魔者を殺すというやり方だけはどうしても認められません。
こうして、四大貴族の一人であるベルクライン公爵が罪人として拘束されるという前代未聞の事件と共にフィリップの婚約者お披露目パーティーは幕を閉じました。
そして、私の妹のジルもまた監獄へと入れられることに――。
被害者であり、加害者でもある我がウェストリア家。
この事件は私の人生にとって大きな転機になりました――。
これで第一章は完結です。
次回は後日談的なこと(ジル関連のエピソード)から、新展開に突入です。
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