お姉様、さようなら(ジル視点)
うふふふふ、今日という日をわたくし……ずっと待っていましたの。
頭が良くて、格好良くて、そして何より、わたくしのことを誰よりも想ってくださるジェイド様。
今日のことが上手くいけば、ベルクライン家にわたくしを迎え入れると約束して頂けてわたくしは胸がいっぱいになりました。
よく分かりませんが、ジェイド様はレイアお姉様を邪魔に思っているみたいで……わたくしが聖女であることが理想だったと仰せになってくれました。
お姉様よりも頑張っているわたくしが聖女として相応しいとも……。
ですから、ジェイド様の為に、聖女になる為に、お邪魔虫のお姉様には消えてもらいます。
フィリップ様が婚約者お披露目パーティーを開くと言い出したときは嫌でした。
だって、わたくしは身も心もジェイド様のモノですし。
大きな声を出したり、怒ったりする意地悪なフィリップ様の婚約者としてパーティーなどしたくありません。
でも――。
「婚約者のお披露目か! そいつはいい! フィリップくんも粋なことをするじゃないか! いや、どうやって君とレイアを接触させるか悩んでいたんだよ!」
ジェイド様はその話を聞くと喜んでくれました。
レイアお姉様を殺すのに相応しい日が出来たと。
パーティー会場なら自然にお姉様が口にする飲食物に毒を仕込むことが出来るから都合が良いのだと仰っていました。
パーティーの料理も飲み物も全て毒味されているはずで、毒でお姉様が亡くなっても原因は分からないと判断されるか、用意したジルベルト家の責任になるから好都合なのだそうです。
「エリック殿下、こちらのワインはジルベルト家が今日のために仕入れた至高の逸品です。どうぞご賞味あれ――」
フィリップ様がエリック様とお姉様にワインを勧めています。
ジェイド様……、頷きながらフィリップ様に近付いていますね。
分かりました。今がチャンスなのですね……。
「やぁ、フィリップくん。私もワインには目が無いんだ。どうか一杯頂けないかね」
「ベルクライン公爵……。どうぞ、どうぞ、召し上がって下さい」
ジェイド様にレイアお姉様たちの視線が向かった瞬間にわたくしはお姉様のグラスに触れました。打ち合わせどおりです。
致死毒魔法――一瞬でも時間があれば十分。レイアお姉様のワインはひと口飲めば、二〜三分後には死んでしまわれる毒水になってしまいましたの。
本当は一瞬で殺せるくらい強力な毒を出すことが理想だったらしいのですが、ちょっと触れるだけではこれが限界でした。
うふふふふ、レイアお姉様……わたくしはお姉様の代わりに幸せになって差し上げますから、恨まないで下さいね……。
「ジル、あなたもワインをご所望なのですか?」
「はい。フィリップ様ぁ……、わたくしにもワインを頂けませんでしょうかぁ」
間抜けなレイアお姉様はわたくしの存在に今さら気付いて、ワインを飲むかどうかを尋ねます。
お姉様、いつもそうやって上から目線ですから、大事なことに気付きませんの。
わたくしのことをもっと愛して、妹の欲しい物を何でも奪っていくような卑怯な性格でなければ長生き出来ましたのに。
「ふむ。ジルも飲むのか。よかろう」
フィリップ様はわたくしにもワインを注いで下さいました。
飲みますとも、ワインを飲んでお姉様が死んだとき……わたくしたちも危険だったという演出とやらをしなくては、とジェイド様も仰ってましたし。
「それでは、早速頂かせて貰うよ。……へぇ、流石はジルベルト家御用達のワインだな。美味しいよ、フィリップくん」
「美味しいですわ。お姉様もお飲みになって下さいな」
「…………そうですね。私も頂きます」
お姉様はわたくしに促されるままに毒入りワインに間抜けにも口をつけます。
うふふふふふふ、お馬鹿なお姉様。本当にお馬鹿ですわね……!
これで終わりですの! ジェイド様! わたくし、やりました!
あの、レイアお姉様に! 何をしても勝つことが出来なかったお姉様に!
遂に勝つことが出来ましたわ……!
――お姉様、さようなら。わたくし、これから楽しい人生を堪能させて頂きます。
やっと、わたくしが主役になれた気分です――。
「とても美味しいです。……フィリップ様、こんなにも素敵なワインを頂いてしまったのでお返しにもなりませんが、一つ芸事をお見せしましょう」
「芸事……? 珍しいな、レイアがそんなことをするなんて。せっかくだし、見せてもらおう」
ふふふふふふ、芸事? お姉様、急ぎませんと、そんなことは出来ませんわよ。
だって、お姉様は死んでしまわれるのですから。
「ここに赤色のボールと黒色のボールがあります。フィリップ様は赤色のボールを握っていてください」
「赤色のボールを、だな。わかった……」
「次に私の黒色のボールを見てください」
「あ、あれ? 一瞬で色が赤色に変わったぞ。どういうことだ?」
「フィリップ様、手を開いて赤色のボールだったものをご覧になってもらえますか?」
何を死ぬ前になさっていますの? お姉様……。
ふーん。フィリップ様の赤色のボールが黒色になってますわね。
流石はお姉様です。こういう小手先芸が得意で、それで聖女になったのでしたわね。
もう、死んじゃいますけど。うふふふふ。
「すごいな。どうやったんだ?」
「簡単です。転移魔法を使いました。フィリップ様が認識するよりも早くボールを入れ替えたのです」
「へぇ〜〜。アポートか! 全然気付かなかった! びっくりしたぞ! なんせ、こうやって握っていても入れ替えに気付かないのだからな!」
はいはい。凄いですわね、レイアお姉様は。
お亡くなりになることが惜しい存在ですわ。
アポートなんて高等魔法が出来ることが自慢なんでしょうけど、そういう自慢するクセのせいで死ぬのですから要らない力でしたね……。
「成功して良かったです。実は気付かれないかどうか不安でしたので、一度練習をしたのですよ」
「練習……?」
「はい。練習として入れ替えてみたのです。グラスにワインが注がれた後に、私のワイングラスとベルクライン公爵のワイングラスを――」
「「――っ!?」」
「オエエエエエエエエエエエエエエエエエエエッッッ!」
お姉様の発言の後――。
ジェイドは顔面蒼白となり、その場で下品な音を立てながら何かを口から吐き出そうとしました。
……何をされていますの? せっかくの端正なお顔が台無しですわ……。




