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月下の追跡

 ジルとベルクライン公爵の逢引の一件。

 これが何を目的としているのか、見極めるためにエリックはジルを尾行すると決断します。

 密偵を送ることを私は勧めたのですが、エリックは自らが確認すると言って聞きませんでした。 


「ベルクライン公爵とは決着をつけねばと思っていたんだ。あの二人の役人の一件は僕にとって中々悔しい体験だったからね」


 社交界では若き公爵として熱烈な人気があるジェイド・ベルクライン。

 そんな彼には邪魔者を容赦なく粛清する冷酷な一面もあるみたいです。


 エリックはそんなベルクライン公爵に因縁を感じているらしく、だからこそ自分が真っ先に真相を掴みたいと仰せになっていました。


「殿下はこうなっては、絶対に意見を曲げられぬ故、某とリンシャで留守を預かろう」


「エリック、ここに居る。外には決して出ていない。リンシャも覚えたネ」


 誰よりもエリックのことを知るヨハンはリンシャと共に執務室に残り、エリックが徹夜で仕事をしているとカモフラージュすると理解を示します。

 そして、私も妹が当事者ですからエリックについていくという結論を出し、彼に付いて王宮を抜け出しました。


 

 



「こうやって、夜に王宮を抜け出すなんて久しぶりだ」


「以前にもこのようなことをされた事があるのですか?」


「うん。ちょっと、喧嘩をする為にね」


「け、喧嘩……? エリック様が喧嘩って……」  

  

 私の実家の前でジルが家を抜け出すまで待っていた我々でしたが、エリックが喧嘩をするために王宮を抜け出したというエピソードを聞いて私は困惑します。

 正義感の塊だというイメージはありますが、誰かと喧嘩をするという感じではなかったので意外でした。


「あれほど、誰かとぶつかったことは無かったよ。でも、それから僕にも信念ってモノが生まれたんだ」


「信念……、ですか?」


「上っ面で取り繕っても何も分からない。人が分かり合う為には摩擦を恐れてはいけない。嫌われる覚悟でもぶつかっていこうってね」


 どうやら、その喧嘩とやらが今のエリックを形成する要因となったみたいです。

 自己の正義を曲げずにどんな相手にも正面からぶつかって行くという危うさ――それがエリックの信念ならば、私はあなたが壊れないように守り続けねばなりませんね……。


「しかし、都合よくジルが出てくるでしょうか? 義母(はは)の話では数日に一度程度らしいですが」


「分かってる。出てくるまで毎日待つさ。とにかく、一刻を争いそうなんだ。あの資料を読み返して自分なりに考えてみた結果……」


「資料を読み返した結果……? それはどういう――」


「……静かに。出てきたみたいだよ。君の妹、ジル・ウェストリアが」


 エリックは小声で私に注意をして、家の裏を見るように促します。

 本当に出てきました。暗がりで見えにくい部分もありますがあれは確かにジルです。 


「追うよ。……絶対に近付きすぎないこと。この距離は必ず保つようにしよう」


「承知しました……」


 私たちは一定の距離を保ちつつ、ジルを見失わぬように注意して彼女を尾行します。

 月明かりだけが光源ですが、私はたとえ暗闇の中でも人の気配を感知することが出来るので距離にさえ気を付ければ大丈夫です。

 

 こんな感じでジルを追っていますと、彼女は森の中に入っていきました。

 なるほど、この辺りは人気も特に少ないので深夜に逢引するにはうってつけです。

  

 ジルが何かに近付いています。あれは……馬車みたいですね……。  



「どうやら君の妹が合言葉か何かを言って、馬車の中からベルクライン公爵が出てきたみたいだね」


「そのようですね。ベルクライン公爵も警戒はするでしょうし」


 月明かりが差し込んでいてくれたおかげで、私たちはかろうじてジルとベルクライン公爵が抱き合っている姿を確認しました。

 

 こんなところで妹のラブシーンを見せられるとは仕方ない事とはいえ、些か心苦しいですね……。


「しかし、この距離だと何を話しているのか分かりません」


「そうなんだけど、思った以上に彼が周囲を警戒している。これ以上の接近は危険だ」


 エリックは見つかるリスクを避けるために会話が聞き取れる程、近くには寄らないという選択をしました。

 それは正しい判断だと思います。

 私たちが知っていることを彼らは知らない――このアドバンテージを失うのはどうにも痛すぎるからです。


 しばらく、私たちはいちゃつく彼らを見るだけの作業をすることになりました。


 しかし、三十分ほど経過したとき――。


「んっ? あれは子犬か……?」


「そして、容器に水を入れているみたいですね……」


 ベルクライン公爵は馬車に一度戻り、子犬を一匹出して座らせ、犬用の食器に水を入れました。

 何をするつもりでしょう……。


 観察を続けると、ジルはその水に触れます。

 

 ――そして、その水を子犬が飲むと間もなく……、子犬は倒れてしまいました。


「毒だな。君の妹は毒魔法術式(アークポイズン)の一種を使ったみたいだ。しかも即効性の――」


「じ、ジルが何故そんなことを――」


 私は嫌な想像をしていました。

 ベルクライン公爵が私を消そうとしているのならば、その方法が『これ』だと。


 妹のジルが私を毒殺しようとしている。

 そんなことを考えてしまったのです――。

 

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