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聖女と王太子

 聖女として国の依頼に基づき森に結界を張ろうとしていますと、この国の王太子であるエリックに話しかけられました。

 

 彼曰く、私が妹を虐めている聖女なのか、と。

 初対面の人間に対して随分な態度ではないですか。王太子と言えども最初からこのような態度で来られると些か不快な気分です。


「エリック殿下、お初お目にかかります。私が聖女レイア・ウェストリアでございます。妹を虐めているという事実は一切ございません」


 私は結界を張る作業を継続しつつエリック殿下に挨拶をします。

 もちろん、妹に対して虐めをしたという話は否定して。


「ふむ。友人のフィリップから君がジルという妹を随分と虐めて精神的に追い込んだと聞いていたが」


「フィリップ様にも同様に問いただされましたが、事実無根としか言えません。ジルの被害妄想としか」

 

「ま、虐める側というのは認識してないパターンも多いだろうし。君がそう思っているだけで、実際は違うかもしれない」


 エリック殿下の主張は間違ってはいないかもしれません。

 ジルは思い込みも激しい子なので本気で私が虐めていると信じ込んでいるかもしれませんし、悪意もないので彼女にとっては真実と変わらないのです。  

 ですからフィリップも彼女の言い分を信じますし、同情もします。

 こうなると、二人の間では私がジルを虐めたという話は事実となり共有され――どんなに弁解してもそれは虐めた側の理屈として扱われるでしょう。


「何と言われようと私はジルを貶めるようなことを口にしたことはありません。それに私の人間性を全くご存知ないにも関わらず、一方的に虐めたと決めつけるのは失礼だと思いますが」


 棘のある言い方をしてしまいました。

 冷静であったつもりでしたが、どうやら婚約破棄を言い渡されて少なからずストレスが溜まっていたみたいです。


 これでは、王太子殿下に喧嘩を売ったのも同然。

 私が妹を虐めた聖女だという話は王室の中でも認知されることになるでしょう。

 聖女でいられなくなるかもしれませんね……。


「それもそうだな。君の言うとおり僕が軽率だったよ。先の発言については謝罪しよう。決めつけるような言い回しをして悪かった」


 エリック殿下は私に素直に頭を下げました。

 一国の王太子がこんなにも早く非を認めて頭を下げられるなんて――。

 正直に申しまして、とても驚きました。 


「じゃあ、謝罪も済んだことだし……まずは君のことを知ることから始めるよ」


「……殿下?」


 頭を下げられた彼は今度は近くにある岩の上に座って私をジッと見つめます。

 ええーっと、その、そのままずっと私のことを観察するおつもりですか?

 それは、何というか。ユニークなことをされますね……。


 しかしながら――


「……聖光の短刀(セイントナイフ)――!」

 

 私はエリック殿下の背後から飛びかかろうとしたワーウルフに向かって光のナイフを放ちました。

 ワーウルフは破邪の魔力が込められたナイフによって絶命します。結界を張りながらでも、簡単な魔法くらいは使って自衛する程度は出来るのです。


 そう、ここは魔物の群生地である森の付近。本来、王太子殿下ともあろう方が踏み入れて良い場所ではありません。

 護衛の方もいるみたいですが、何故かエリック殿下に遠慮してと距離を取っていますし。


「エリック殿下、こちらから離れた方がよろしいですよ。お怪我をされてしまうと――。――っ!?」 


 その瞬間、エリック殿下は身に着けていた剣を抜いて岩の上からこちらに物凄いスピードで飛び出してきました。


「心配しなくても大丈夫だよ。僕は強いからね。一応、護衛はつけているけど」


 私の耳元で自らの強さを語るエリック殿下。

 振り返ると背後にいたエビルバットという巨大な蝙蝠の魔物が剣に串刺しにされていました。

 

 一国の王太子ということで、帝王学を徹底的に学んでいるということは聞いていましたが、剣術も一流だったとは。

 私が背後の魔物の気配に気が付いたのと、ほぼ同時に飛び出したことには驚きました。

 私は聖女として魔物を感知するスピードを鍛えていたのですが――。


「僕には敵が多いんだ。この国の中枢は腐っている。膿を出すために糾弾してたら、いつの間にか毎日のように暗殺者に狙われる始末さ」


「暗殺者に狙われる? 王太子であるエリック殿下が、ですか?」


「うん。今月はもう20人くらい捕まえたよ。雇っていた役人も死刑にしたけど。僕より人畜無害な弟のデールを次期国王にしたいって勢力が強くて面倒なことになっているんだよ」


 どこか他人事のようにエリック殿下は自らの正義感のせいで命を狙われていると告白します。

 それで、ここまで強くなったということ……でしょうか。護衛すら信用出来ないから……。



「君の聖女としての実力が申し分ないことは分かった。僕は勝手に見てるから、君はこちらを気にせずに結界を張る作業を続けるといい」


 再び岩の上に座って足を組みながらこちらをジッと見つめるエリック。

 誰かにこんなに見られながら結界を張るなんて、修行時代以来ですから少し緊張します。


 って、王太子殿下が何でこんなに変な絡み方をされているのですか――!

 気にしないなんて無理に決まっていますよ――。


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