わたくし、愛に生きますの(ジル視点)
思えばわたくしの人生は不運の連続でした。
わたくしが欲しいものをレイアお姉様に全部持っていかれる運命。
わたくしは何度、自分の運命を呪ったのか分かりません。
少しだけ先に生まれただけで、こんなにも待遇が違うのかと……神様は意地悪だと嘆きました。
しかし、あの御方が現れてからわたくしの人生は急に色めきます。
あの御方とはベルクライン公爵。
ベルクライン家の家督を若くして継いだ彼は社交界でもトップを争うくらいの人気で、わたくしたち令嬢にとって憧れの的でした。
フィリップ様との会食の後に偶然ベルクライン公爵……いえ、ジェイド様と出会ったあの日、わたくしの心はポカポカと温かくなったのです。
そう、わたくしは真実の愛を見つけ……本当の幸せを見つけたのでした。
「こうして夜にしか会えないのが歯がゆいね。早くジルと一緒になりたいよ」
「ああ、ジェイド様ぁ。ジルも同じ気持ちですわ。ジェイド様と同じ道を歩ける日を待ち遠しく想っていますの」
ジェイド様は夜空の下でわたくしを抱きしめながら耳元で愛を囁いて下さいます。
家の人間に隠れて、夜中に逢引をする――なんてロマンティックなのでしょう。
ジェイド様の温かさに包まれてわたくしは確かな幸せを感じていました。
「ところで、ジル。前に話していたアレだけど……どうかな?」
「ええ、何度か練習して使えるようになりましたわ。致死毒魔法を……。禁術だと聞いていましたので、もっと難しいと思ったのですが」
「おお……! 流石はジルだ。素晴らしい……! 簡単に覚えられたのは君が才能豊かな聖女だからだよ!」
「んんっ……、ジェイド様ぁ……」
ジェイド様はわたくしをもう一度抱きしめて、そして唇に軽く口づけされます。
ああ、良かった。ジェイド様の願いどおり、禁術と言われている致死毒魔法を覚えて――。
ベルクライン家に伝わる秘術らしいのですが、わたくしをいつか家族として迎え入れる前に覚えて欲しかったらしいのです。
――それは、もちろん。わたくしたちの未来のためです。
わたくしとジェイド様が一緒になるにはあまりにも障害が多い。
婚約者のフィリップ様や口うるさい母と家のことしか考えてない父。それにわたくしの欲しいものを全部かすめとるレイアお姉様。
必要とあらば、邪魔者を消してしまう。そんな力がわたくしたちの真実の愛の為には必要なのだとジェイド様は教えてくださいました。
「大丈夫だよ。私の言うとおりに術を使えば良い。そうすれば、君は聖女になれるし……私の妻になれる」
「ああ、ジェイド様の妻に……。わたくし、早くあなたの妻になりたいですわ」
「うん。私もそう願っている。だから、もっと術を上手く使えるように訓練してくれ。誰にも見つからずに、迅速に毒を仕込めるように」
ジェイド様は軽く頭を撫でながら、わたくしにもっと上手く術が使えるように訓練するように命じました。
もちろんですわ。ジェイド様に喜んでもらえるようにジルは全力で頑張ります。
ジェイド様はレイアお姉様よりもわたくしが聖女に相応しいと仰ってくれました。
レイアお姉様が居なくなれば、確実にわたくしが聖女になる……とも。
努力することが楽しいですわ。
愛する人の為に頑張るという行為がこんなにも自分に活力を与えてくれるなんて――。
「じゃあ、くれぐれも誰にも気付かれないように頼むよ。もしも、気付かれたら……この関係が壊れちゃうからね」
「わ、分かっておりますわ。誰にも気付かれないように注意します」
月明かりに照らされたジェイド様の表情は真剣そのものでした。
そこまで、わたくしと一緒になることを本気で考えて下さるなんて――。
「うん。信じてるよ。でも、気を付けてね。君がヘマすると君を消さなきゃならなくなるから」
「ジェイド様……?」
一瞬だけ、ジェイド様は恐ろしく冷たい目をされました。
全てを射殺すような、そんな凍てついた視線をわたくしに送ったような気がしたのです。
「ふふ、ごめん。ごめん。ちょっと驚かせちゃったよね。ジルのことが好き過ぎて、どうしても君と同じ時を過ごしたくて……厳しいことを言ってしまったよ。許してくれるかな?」
「は、はい……! 全然気になどしていませんわ。わたくしもジェイド様と同じ未来を歩みたいと願っておりますから……! そのためには何でも致します」
何を小さなことを気にしていたのでしょう。
お優しいジェイド様が、厳しいことを言うのはわたくしの為に決まっているではありませんか。
ああ、ジェイド様。わたくし、あなたに全てを捧げますわ――。




