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うちの娘は悪くない

 義母であるエカチェリーナからの相談内容は夜中にベルクライン公爵と逢引をしていたというジルをエリックに間を取り持ってもらい、穏便に引き剥がすことでした。

 しかしながら、エリックは正義感に溢れる方なので浮気などを許すはずがありません。


 私はそのことをやんわりとエカチェリーナに伝えます。


「あなたがそんなに薄情だと思いませんでした。ジルのために動くことがそんなに嫌ですか?」


「いえ、決してそんなことを申している訳では――」


「ならば妹を助けてあげて下さい。たった一人の姉なのですから」


「私もそうしたいと思っております。しかし、もしもジルが浮気をしていたとしたらエリック様に伝えるのは逆効果なのです」


「それを何とか説得するのがあなたの仕事でしょう」


 いつの間にか下手に出ていたエカチェリーナはかなり高圧的になっていました。

 恐らく私が簡単に彼女の願いを受け入れて、この一件を解決するためにエリックを利用することを了承するというアテが外れたからでしょう。


 ジルを見捨てようとは思っていませんが、婚約者がいるのに他の男性と逢引するような事が簡単に許されて良いのかというと、エリックはもとより、私の倫理観と照らし合わせてもどうかと思ってしまいます。


 エカチェリーナはもっと自分の娘がしでかしたことを重く受け止めるべきでしょう。


「やはりジルをはっきりと問い詰めるべきでは? 表沙汰にならないように注意しつつ。その上でベルクライン家と秘密裏に話し合いをするとか……。そもそも、浮気をしたということが事実ならそれを叱責しないというのは――」


「そんなこと出来るはずないでしょう! あの子はあなたと違って繊細なんですよ! いきなり問い詰めたりしたら傷付いて自殺するかもしれません!」


 いや、そんなメンタルで浮気などするでしょうか? 夜中に家を抜け出すような真似をして。

 それに、結局この件を解決するためには両者の話し合いは必須です。

 仮にエリックの助力を頂けても浮気のことについては糾弾されることになるでしょう。


「エリック様が仮に間に入っても、ジルが当事者なのですから彼女が無傷でなんてことはあり得ませんよ」  


「いいえ、エリック殿下なら誰にもバレないようにベルクライン公爵に接触して上手くジルと別れるように説得出来るはずです。彼女が傷付かないように配慮しながら」


 どうやら想像以上に甘い考えみたいです。

 エカチェリーナは娘を溺愛するがゆえに、このような状況でもジルを一切傷付けずに解決したいと言っています。


 ――はっきり言ってそれは無理ですよ。絶対に不可能です。


 何だかバカバカしくなってきました。聖女だからとか、姉だからとか、そんな理由で自分のことを嫌っていた妹をどうにか救えないかと考えることが。

 

「ジルが当事者なのですから彼女を全く傷付けずになんてことは到底無理なことくらい分かりませんか? あの子のことを想うなら、少しは反省させませんと」


「あなたは鬼ですか? ジルは良い子なのです。きっと今回の過ちもベルクライン公爵が唆しただけで、純粋なあの子は何も分かっていないに決まっています」


 この人はいつもそうです。

 ジルは天使のような良い子だという前提がまずあって、それを信じて疑いません。

 あの子が間違ったことをするということは、即ち別の誰かが一方的に悪いと決めてかかるのです。

 ジルのあの性格はエカチェリーナが彼女を全肯定しており、世話係の使用人たちにもそれを強制していたからでした。


「浮気は一人では出来ません。あの子にも罪はあります。本当に母親としてジルを助けたいならば、あの子に反省させるべきです」


「何よ! ちょっと宮仕えになったからって! こっちが下手に出たらいい気になって! もういいです! あなたには頼りません!」


 叩きつけるようにお金をテーブルに投げて、エカチェリーナは怒りながら店を出ていきました。

 さて、本当にどうしたものでしょう。

 あの子がベルクライン公爵と浮気をしているなど聞いておいて知らぬふりは出来ませんし――。 


「ウェストリア夫人は随分と怒っていたね」


「はい。相談内容が相談内容でしたから。私としても譲れない部分がありましたので」


「へぇ、ちなみにどんな相談だったのかな?」  


「それは――。――っ!? え、エリック様!? どうしてここに!?」


 背後から自然な感じで話しかけてこられたエリックに普通に返事をして数瞬後、私は彼が店内にいることに驚きながら振り向きます。


「やぁ、レイア。暇だったから迎えに来たよ」

「リンシャ、このパンケーキというのを食べたいネ」

「ふむ。某はライスボールを所望しよう」


 エリックは平民の服装を身に着け変装し、同じく変装したリンシャとヨハンを引き連れて私の背後に立っていました。

 暇つぶし感覚で部下の修羅場に遊びに来ないで下さい……。


「で、夫人の相談内容は何だったのかな? あの夫人の性格上、君に相談というのは僕に何かを取り計らって欲しいことがあるから――と、読んでいるのだが」


 ――相変わらず、鋭い方でいらっしゃる。


 どうしますか。素直に話すべきか、それとも……。

 彼の美しい瞳に見つめられながら、私は思考の渦に飲み込まれてしまいました――。

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