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神様に嫌われていますの(ジル視点)

 レイアお姉様は本当に意地が悪い方です。

 先日、わたくしを馬鹿にするためにわざわざ出戻りをしてきたフリをして家を訪れたとき、お姉様の本性を確信しました。

 お姉様はわたくしのことがお嫌いで今までもわざと嫌がらせを続けていた、と。

 信じていましたのに……レイアお姉様に限ってそんなことはないと、お母様にも常々大丈夫だと気丈に振る舞ってきましたのに。


 こんなのって酷すぎますわ――。


 そして間もなく、レイアお姉様がエリック様から寵愛を受けられているというお話が耳に届きました。

 わたくしの憧れの人に婚約破棄された傷心を利用して近付いて、計算高くエリック様の心を奪うなんて――どんな悪女もお姉様の手際には舌を巻くでしょう。

 

 神様に嫌われるとこのような仕打ちを受けるのですね。

 わたくしもレイアお姉様のように神様に愛されて、何でも手に入るような人生を少しでも歩みたかったです――。



「……ル、ジル、おい、ジルよ。聞いているのか?」


「……あれ? フィリップ様……、何か仰せになりましたか?」


 今日はお父様に頼まれて婚約者であるフィリップ様と会食しております。

 フィリップ様が、何故かいつものように優しい感じではありませんでしたので楽しくありませんでした。

 今も何かを話していたみたいですが、険しい顔つきになっていて怖いですし、こんな方の話など聞きたくありません。


「ジル、そういうの良くないと思うぞ。俺だって我慢してるんだから」


「が、我慢ですかぁ? フィリップ様は何を我慢されているのですかぁ?」

 

 フィリップ様は何かを我慢していると口にします。

 彼が何を我慢しているのか、わたくしにはさっぱり見当がつきません。

 公爵家の嫡男ですし、何一つ不自由なく恵まれた方だと思っておりましたから。


「そりゃあ、お前と婚約してることに決まってるだろ? お前もそうだ。俺と婚約してることに不満だから俺の話を聞かない」


「そ、そんなぁ。わたくし、そんなこと一言も申しておりませんの。それに、わたくしと我慢して婚約しているなんて酷すぎますわぁ。ぐすん……」


「そうやって、すぐに泣く……。泣きたいのは俺だってのに。くそっ……!」


 わたくしと嫌々婚約しているとフィリップ様に断言されて、悲しくなって涙が出てきました。

 前までは泣いていても優しく話を聞いてくださる方でしたのに、人が変わられたように悪態をつかれるフィリップ様。

 一体、何の恨みがわたくしにあるのでしょうか。


 わたくし、ずっとエリック様ではなくてフィリップ様の婚約者になった悲しみを口にしないように我慢し続けていましたのに――。


「なぁ、もしかしてさ。お前、声に出さなきゃセーフとか思ってる? 俺の顔を見るたびに溜息、エリック殿下の話題が出るたびに溜息。常に俺が話してるときは空返事ばかりの上の空――。どんなに鈍感でも気付くぞ。お前が俺との婚約を嫌がってるって」


 畳み掛けるように怖いことをフィリップ様は仰っていました。

 わたくしの心の中を勝手に想像してあたかも事実のように話すのです。

 まるで、わたくしが性悪な女で常に不満を顔に出しているような――。

 フィリップ様が怖いです。こんなに怖い方とお父様の命令で結婚しなくてはならないなんて……。  

 神様、わたくしが何か悪いことをしましたか? わたくしは普通の幸せが欲しいだけですの。


「ったく、本当に最悪だ。父上にはジルと結婚をすることでエリック殿下に誠意を見せろとか言われて、家を継ぐ条件みたくされたし。こいつがこんな面倒な女だと知ってれば俺も素直にレイアと結婚して幸せになれたものを」


「フィリップ様が勝手にお姉様と別れておきながら、それは酷いですわ。ぐすっ、ぐすっ……、何でわたくしだけこんな目に遭わなくては。お姉様……、何故、お姉様だけ幸せになりますの……?」


 フィリップ様の悪態が止まりません。

 勝手に婚約破棄されて、わたくしに求婚して、別れて、頼み込んでもう一度婚約したにも関わらず、あまりにもな言動です。


「ま、お前はエリック殿下に近付かなくて正解だけどな。殿下はずっと暗殺者共に命を狙われているし、腕利きの聖女のレイアならまだしも、お前なんか危険なだけだし」


「暗殺者に狙われて……?」


 知りませんでしたわ。エリック様が暗殺者に狙われていたなんて……。

 だから、お姉様が護衛を……? では、レイアお姉様にもしものことがあるかもしれないと――。


 いけませんわ。わたくし、思ってはいけないことを思ってしまいました――。


「とにかくお互い親の顔を立てるために我慢してるんだ。子供も作らなきゃならないんだし、お前も少しは――」


「…………」

 

 フィリップ様――いつの間にか、わたくしのこと「お前」って呼んでいませんか? やはり乱暴な呼び方をされると悲しくなってしまいますぅ。

 それに、こんな方と子供を作らなきゃならないなんて――汚らわしいですし、素直に子供を愛せる自信がありません……。

 

 なんてわたくしは不幸の星の下に生まれたのでしょう。


「おい! 聞いてるのか!? 流石にお前の父親の伯爵殿に苦情を言うぞ!」


「ひぃぃぃぃっ! 大きな声は止めてくださいまし……!」


 涙が止まりません。

 何で、わたくしばかり酷い目に……。

 神様、これは試練なのですよね? 乗り越えれば、本当に良いことはありますか?


 ううっ……、吐き気がするほど気持ち悪くなってきましたわぁ――。

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