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唐突な婚約破棄

※こちらはWEB版となっております。

書籍版は第一章を8万字ほど加筆し、第二章は完全に別ストーリーとなっており、書籍のみの番外編も収録しています。

コミカライズは書籍版に準拠した形になりますので、予めご了承ください。

 人間、誰しもが物語の主人公であるかのような振る舞いをした経験があると思います。

 その物語が喜劇なのか悲劇なのか、その人によって変わってきますが……。


 私の妹であるジルは特にそのような傾向が強い娘でした。

 自分は悲劇の中のヒロインだと信じて疑わぬような立ち居振る舞いを常に行っていたのです。

 どうせ自分など……と泣いて見せ、可憐な容姿も相まって周囲から同情を買うことがとても上手でした。


 だから、彼が急にこんなことを仰ったのだと思います――。


「レイア、婚約破棄の理由は分かっているな? お前が裏で妹のジルをイジメているとは思わなかった。聖女であることがそんなに偉いのか?」


 ある日のこと、ジルベルト公爵家の嫡男であるフィリップは私を呼び出して婚約破棄しようと口にしました。

 どうやら、彼は私が妹のジルを虐めていると思い込んでいるようです。


「ジルは涙ながらに語っていたよ。“姉さんが聖女として国に貢献をしていることを毎日ひけらかす”と。自分が聖女になれなかったことを嘲笑い、役立たずだと罵るように……。その上、姉であるお前の顔を見ると動悸が収まらぬようになってきた、とも言っていた」


 フィリップは私がジルを虐めていたという内容を語ります。

 確かに私は聖女になりましたし、ジルは能力が足らないとして聖女にはなれませんでした。

 しかし、だからといって私がジルにそんなことをひけらかすような真似をしたことはありません。

 聖女としての務めがどんなものなのか彼女にやたらと問われるので、それに答えたことはありますが……。

 きっとジルの頭の中ではそれも私の自慢話に変換されているのでしょうね。


 ジルの凄いところは事実を捻じ曲げて解釈して、あたかもそれが真実であるかのように迫真の演技で語るところです。  

 ですから、フィリップは実際に私がジルを虐めていると信じて疑わないのでしょう。  


「……私はジルを虐めてなどいません。聖女として神に誓ってそれは――」


「また聖女であることをひけらかす! お前は自分が優秀なことが大層自慢らしいが、優秀だから何をしても許されると思ったら大間違いだぞ! 聖女なら人格も聖女らしくあるように努力したらどうだ!?」


 私の言い分は聖女であることをひけらかしたとして封殺されました。

 何をしても許されるなど思ったこともありませんし、聖女であることを自慢したこともありません。

 しかしながら、ジルの言うことを鵜呑みにしているフィリップにとって私は既に憎悪の対象となっていました。


「では、言い方を変えましょう。私を信じてください。ジルの言い分だけを一方的に信じるのは――」


「お前はジルを嘘つき呼ばわりするのか! 今にも死にそうな声で、青ざめた表情で、涙をボロボロ零して訴えたのだぞ! お前は姉だろ!? 肉親なのに、どうしてそんな酷いことが出来るのか! 俺には理解できん!! ううっ……!」


 フィリップは涙を流しながら私にジルの不憫さを訴えます。

 何というか、我が妹のヒロイン気質は他人にまで伝染するのですね。

 彼もまた、ヒロインであるジルを守るヒーローとしての自分に酔ってしまっています。


「わかりました。信じて頂けないのなら結構です。――それでは、これから結界を張りに行きますので」


 私はこれから聖女としての務めを果たさなくてはなりません。

 王都の東の森から魔物が入らぬように結界を張らなくてはならないのです。

 この国、エルシャイド王国の王室から直接の依頼ですので遅れるわけにはいきません。


「お、おい! 婚約破棄だぞ! お前、受け入れるのが早くないか!? 薄情者!」


 婚約者の言い分を聞かぬ彼の方が薄情のような気がしますが、信頼関係が築けぬのなら婚姻しない方が良いと思いましたので未練はありません。  

 公爵家との縁談を壊したことは父に咎められるでしょうが、恐らくフィリップはジルにアプローチするでしょう。それは何となく分かります。  




 フィリップの屋敷の前で待たせておいた馬車に乗り、私は王都の東側にある森を目指しました。 

 聖女としての責務の中で結界を張ることは最も重要な務めなのです。




「なるほど、随分前に結界が破損した形跡があります。これは大規模に結界の術式を展開させなくては――」


 私は跪いて天に向かって祈ります。

 その祈りは神からの力を借りるきっかけとなり、それが光の魔力として体内に充実して結界術を形成するためのエネルギー源となるのです――。


 さて、そろそろ結界を――。


「君が聖女レイアかい?」


「――っ!?」


 いきなり背後から声をかけられて私は驚きながら振り返りました。

 あ、あなたは。この国の――。


「君が妹を虐めているという不届きな聖女なのかい?」


 声の主はエルシャイド王国の王太子殿下――エリック・エルシャイドでした。

 美しい銀髪と吸い込まれそうになるほど澄んだ琥珀色の瞳。

 一体、どうして王太子殿下が私に声をかけられたのでしょうか――。

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