10-2.兆し
お待たせ致しましたー
*・*・*
巧から、翌日にとんでもない話題をふられたのだ。
「万乗の本家さんが……?」
「おう。穫ちゃんに会いたいらしいわ」
「……穏やかじゃなさそうだけど」
今は笑也の部屋で、穫は巧から話を聞いている。大学は今日休講日だったので、午後には書店のバイトに行く予定ではあるが。
「おばあちゃんのことじゃ……ないですよね?」
今は良好な状態でいる祖母の願いを、つっぱねたことへの謝罪ではないだろう。
そこまでお人好しなら、今の穫の状態には繋がらないから。
「どう言うつもりで、穫ちゃんに会いたいと言い出したかはわからないけど。僕らは穫ちゃんの味方だからね?」
「せや」
「……ありがとうございます」
巧の口利きで、会うのは週末になるらしいが。
出来れば、佐和にも来てもらいたかったので、バイトに行く前に通話をしたら。
『穫の願いだ。いいとも! 僕も、万乗の当主がどんな奴か是非拝んでみたかったからねぇ?』
「佐和ちゃん、怒ってる?」
『ふふん。そう聞こえるかい?』
上機嫌でいるようで、実は結構怒っている。佐和とはまだ半年程度の友達でも、何となくわかるのだ。
時間などを伝えてからバイトに向かい、夕方まではいつも通りに仕事をこなした。笑也の方のハウスキーパーも、羅衣鬼はいてくれるお陰でゴミ問題は解決している。
あとは本当に家政婦っぽい仕事をするだけ。なのに、バイト代が出るだなんてありがたい。家の方も、家賃や光熱費は笑也が持ってくれているのだ。
依頼人の安全確保。
まだ学生である穫に、高額な負担を負わせたくないから。
本当に、佐和と教授のお陰で、いい人に出会えた。
バイトが終わったら、夕飯は何にしようとウキウキしながら考えてしまうくらい。
二人きりじゃないのに、なんだか新婚のような気分になってしまった。穫はこれまでのことがあり、告白されても全部蹴ってたので恋愛経験など無いに等しい。
だから、少し特殊ではあってもこの生活を楽しんでいたから、気づけた。
達川笑也を、少しずつそういう対象。つまりは、好きになっているのかもしれないと言うことに。
道端で、そんな結論に至った時。
正面にいた誰かとぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!?」
「……いえ、こちらも不注意でした」
ぶつかったのは女性で、しかも穫より少し背の高い人物だった。
綺麗な黒髪は腰まであり。
白い肌に、よく似合う薄紫の夏物のワンピース。
脚も長くて、折れてしまいそうに細く。
特に顔立ちは、エミには劣るが人間の中では最上級に綺麗だった。まつげも長く豊かで、目も大きい。
芸能人並みの美人が目の前にいて、穫は口をぽかんと開けてしまった。
「?」
「あ、すみません! お怪我は?」
「いいえ、大丈夫です。それでは」
「は、はい」
軽く会釈しながらも笑顔を向けてくれた女性は、そのまま穫の前から去って行った。
【穫、あれは……】
まだぽーっとしてた穫に、咲夜が話しかけてきたのだが。すぐに、なんでもないと黙ってしまった。
【穫〜? 笑也が好きなのか〜?】
と、今度は羅衣鬼が話しかけてきた。
『ま、まだ、確定じゃないけど……!』
【そんな焦ってんなら、好きなんじゃねーの?】
【こら、羅衣鬼。穫を困らせるんじゃない】
【けど、咲夜ー】
【穫の幸せは穫が決めることだ。私達がどうこう言うべきじゃない】
『……ありがとう、咲夜』
初恋かもしれない、笑也。
あの人と釣り合うだなんて、到底思えないが。
穫のために、いろんな人との縁を繋いでくれた人のことを。今は、大切にしたいと思うのだった。
次回はまた明日〜




