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6-6.友人だから(佐和視点)

お待たせ致しましたー






 *・*・*(佐和(さわ)視点)










 はじめは、本当に興味本位に過ぎなかった。


 少々苦労して入学出来た大学の入学式の時。


 いやに、不穏な気配を感じたのが最初。


 佐和は、どこだと気配を探ったら。少し後ろの列にその対象がいた。


 黒く、昏く。とても不気味な気配を持っている女の子。


 本人はまったく気づいていないのか、靄に包まれながらも真剣に学長の挨拶を聞いていた。


 あれはまずい。


 あれは危険だ。


 だが、常人でなくとも。不用意に近いてはいけない。


 だから、遠巻きに。個人的に可能な範囲で除霊を行ったが。一族でも傍流の傍流である佐和の力では、弱い雨を降らすくらいに等しい。


 それだけ、彼女に巣食う悪霊のようなものは離れなかった。


 それが、二年目の春になって。同じゼミ生になり、自己紹介の時の席が近くて、話すきっかけが出来た。不穏な気配は相変わらず祓っても祓っても酷くなる一方だったが。


 ついに、夏に突入してから。彼女の自宅でラップ現象やなんらかの被害が出てきたそうだ。


 佐和だけで解決出来れば良かったが、原因が万乗(ばんじょう)(みのり)に巣食う悪霊か何かは強大だ。そんな雑魚霊程度の事態だけではないと思った。


 だから、ゼミの教授が紹介出来る強力な術師を、せめて頼るだけしか言えなかったのだ。


 佐和は現代社会の術師の中では、まあまあ出来る方でも。結局はそれだけの存在。


 常人が受け入れにくい言葉遣いで、敢えて周囲を寄せ付けにくいようにしていたのに。穫は佐和を厭うことなく受け入れてくれた。


 そんな友達を放っておくことが出来ない。


 だから。事態が丸く収まりそうになっても。依頼料などないに等しい契約方法で、大学内にいるときの護衛を提案したのだ。



「ほ〜? おっき過ぎるマンションだねえ?」



 そして今。


 穫が達川(たちかわ)笑也(えみや)に佐和を会わせようとしてくれたので、講義が終わってから一緒に来たのだ。


 達川族の異名は、佐和でも聞き慣れていたが。金の使い所が常人とは違うようだ。だが、穫をいきなりでも住まわせる懐の広さは持ち合わせているらしい。


 学内で瞬時に噂になる容姿も気になったが。この目で確かめたかった。


 界隈で名の馳せた、神を降ろすことが出来るイタコの一族でも特異中の特異。『男でイタコ』が出来る相手が。


 とりあえず、一階のフロアに入ると穫を呼んだフロアスタッフが受付に立っていた。



「おかえり〜、穫ちゃん?」

「ただいまです。あ、(たくみ)さん。彼女は大学の友達なんですが」

「お?」

琴波(ことは)佐和(さわ)です」

「おお? 六条(ろくじょう)巧言いますー。随分とボーイッシュな女の子やね?」

「ふふ。あなたの関西弁といい勝負でしょう?」

「こりゃ、一本取られたわ」



 彼も、何かある。


 六条は、京都なら市民にも点在しているので術師かどうかはわからないが。穫が気を許しているのなら、関係者だろう。


 とにかく、本題は達川笑也なので。穫について行って目的の彼の家までエレベーターで移動した。



「んー。何もなければいいけど」

「どう言うことだい?」

「あのね。笑也さんの家でハウスキーパーになった理由があるんだけど」

「うん?」

「神様がインスタント食品とかが大好きで。しょっちゅう家の中をゴミ屋敷にしちゃうからなんだよね?」

「ああ。昔からの供物に飽き飽きしている神仏は多いだろう」



 その捉え方を出来るのは術師でもごく一部だが。


 なるほど、家政婦にした理由がよくわかった。


 そして、到着してからインターホンを鳴らしても笑也が出て来ないので。


 穫がスペアキーで開けたら、想像以上に部屋が荒れるに荒れていたのだった。



「あっちゃー……」

「これは……僕の想像以上だ。これを君が一人で片付けるのかい?」

「うん。だから、別でお給料も出るんだけど。今朝から羅衣鬼(らいき)君にお願いすることにしたの」

「?」



 穫が羅衣鬼を顕現させてから、羅衣鬼はゴミの前で大きく口を開けた。



「いっただきまーす!」



 と言って、某ゲームのキャラクターのようにゴミを口に吸い込んでいき。ものの数分で部屋のゴミは彼によって片付けられたが。


 穫と一緒にリビングに行くと、ラグマットの上で寝こけていた一人の男性がいた。彼が、達川笑也本人なのだろう。



「笑也さん、ただいまです」

「あ……穫ちゃん。おかえり〜」



 声はまずまず。


 よれた髪越しに見えた、容姿も学内で聞いた噂以上。


 佐和に気づくと、こてんと可愛らしく首を傾げた。



「顔を合わせるのは、はじめまして。琴波佐和と言えばおわかりでしょうか?」

「! 琴波……? え、なんで穫ちゃんと一緒に?」

「大学で同級生なんですよ、僕と万乗氏は」

「知らないうちに、助けてくれてたんです」



 とりあえず、茶を淹れてくると穫が席を外し。


 佐和は真正面から、笑也と向き合うことになった。



「……君がいたから。穫ちゃんが僕のとこに来れたんだね?」

「偶然の偶然が起きた事象でしょう。けれども、達川氏が対処してくれているのなら、僕の出番はほとんどないに等しい」



 しかし、友人としては守りたいと告げれば。


 笑也は唇を弧に描いたのだった。

次回はまた明日〜

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