5-2.懐かしい友達
お待たせ致しましたー
公園に到着してから、端の端に移動して。咲夜はトイレで人間の姿になって出てきてもらった。誰かと一緒でないと不自然に思われるからだ。
で、雑鬼と咲夜が呼んだ一つ目の可愛らしい鬼は、ベンチの上でしょぼんとなっていた。
はたから見ると、穫に危害を加えるような妖怪ではないようだ。本屋ではいきなり抱きついてきたが、彼は穫を知っているらしい。
そして、穫も見覚えがあったのだ。
「えっと……雑鬼くん?」
「……ん?」
呼べば普通に返事をしてくれたので、穫は咲夜を彼の逆隣に座らせてから本題に移った。
「君は。私が保育園の頃、一緒に遊んでくれた『小鬼』くんかな?」
「覚えててくれたんだ!?」
「思い出すのは、ちょっと時間かかったけど」
何せ、十年以上もの昔だ。記憶が朧げでも無理はない。
けれど、その記憶でもなんとなく覚えていた。
実家の庭などで見つけたのがきっかけで、まるで本当の友達のように遊んでくれた、小さな小さな小鬼を。
それが、彼が今の穫に会いにきたのだから、嬉しくないわけがない。
けれど。
「不自然だな? 穫から離れて十年以上。何故、今になって穫の前に現れた?」
咲夜が言うのも最もだ。
小鬼は、小学生の途中からいきなり姿を見せなくなったから。
咲夜の問いかけに、小鬼はまたしゅんと目を細めた。
「……だんだん、俺のような弱い妖じゃ近づけなくなったんだ」
「え?」
「と言うと?」
「……穫の周りに、黒い靄が集まって来て。俺じゃ何にも出来ないし、戦うだなんて無理だから……穫から離れた」
遠くから見守ってはいたが、結局何も出来ずじまいで穫には生き霊や悪霊などが押しかけてきたりしたのを、ただ見ているしか出来なかった。
友達だと、友達だと思っていたからこそ、何か出来ないかとずっと悩んでいたそうだが。穫に靄以外の何かが取り憑いているのも見えてきた。
だから、憑き殺されることはなかったが良くなるわけでもなく。
大学二年になってからの一人暮らし先では、出来る範囲で手助けはしてみたものの、すべて失敗に終わり。
むしろ、穫に迷惑がかかる方向になってしまい、悪鬼などを引き寄せてしまった。
それが実は、あのラップ現象の一因だったそうだ。
「……けど、助けようとしてくれてたんだ?」
「! だって、弱い俺でも『友達』って言ってくれただろ? 穫が人間でも、俺は穫の友達だ!」
「うん。ありがとう」
ヨシヨシと撫でたら、何故か小鬼の頭がじゅっと音が立った。
「あちちち!?」
「ご、ごごご、ごめん!?」
「無理もない。今の穫は私、金剛刀の正式な所有者だ。たとえ弱かろうと、悪しき者を祓う力が必然的に共有されている。だから、拒絶反応が出てもおかしくはない」
「そんな……俺、穫に触れないの?」
しゅんとなる小鬼が可哀想だが、無理なのかもしれない。
穫は今、万乗の呪怨に付け狙われているからだ。
すると、咲夜がため息を吐いてから小鬼にぽんぽんと触れた。
「穫のためだ」
一瞬だけ光ると、表面上は小鬼に変化はない。
咲夜から触れてみろと言われて触ったら、小鬼はなんともなかった。
「!? 俺、穫に触ってもらえてる!?」
「特別だ。お前は穫のためを思って動いていたのなら、許可する」
「! うん……うん!」
そして、穫の名を叫んでから胸に飛び込んできた。もうあの嫌な音はしない。
「……ありがとう、咲夜」
「……穫の友なら、私の友にもなり得るからだ」
「そうだね?」
それは違いない、と穫は笑うのだった。
次回はまた明日〜




