29-1.呪詛返し(エミ視点)
お待たせ致しましたー
*・*・*(エミ視点)
まったく、外道極まりない。
そう、エミは笑也の魂に重ねて顕現している状態なので。笑也の怒りが直に伝わってきている。
臓腑はない状態だが、腸が煮えくりかえりそうな勢いの怒りだ。たしかに、穫の唇を奪おうとしたのだから、怒りが沸騰して当然。
エミとて、気に入りの人間が望まない行為を受け入れさせようとされているのなら、怒りなど可愛い方。憤怒が、沸き上がりそうになった。
その穫は今、エミの腕の中ではなく弟神の月詠が抱えている状態だ。
「……乙女の純潔。唇とて、想い合う相手だからこそ許された行為よ!!」
地獄であろうと、手加減はしない。
須佐に草薙剣で抑えられている八岐大蛇の尾は、前よりも人間らしい容貌になってうめいていた。
「み……のり、は……僕の、だ!」
羅衣鬼の言っていたことが本当ならば、穫はこの愚か者と約束事をしてしまっただろうが。穫が選んだのは、笑也だ。間違っても、この愚か者の方ではない。
ここで、魂と本体を焼き尽くすまで消滅させることは簡単だが、穫に掛けた呪を解かねばまた蘇るだろう。尾の方は須佐に任せて、エミは月詠の方に近づく。
意識が落ちた穫は、月詠が揺すっても起きないようだ。
「姉上、無闇に起こさぬ方が良いかと」
「けーど。契約した証とかは取り除かなきゃ。……あった」
ご丁寧に、左の薬指。エンゲージリングのように、八岐大蛇の文様が蠢いていた。エミは自分の手を重ねて、神力を込めていく。
「……や、め……!」
尾が何かを叫ぼうとしても、総無視することにした。
「虚ろは虚ろ。解く糸のように解け。邪な、邪な気よ祓いたまえ!!」
エミが言霊を紡ぎながら神力を込めていくと、邪気が穫の指から溢れかえって膨れていく。それが少し上空に浮かんで、八岐大蛇の状態になるが。すぐに須佐が押さえたままの尾の方へと突き進んで行った。
「く、来るな!?」
そうして、須佐が巻き込まれる前に離れた途端。
八岐大蛇の幻影のような邪気の塊に、尾が食われてしまったのだ。臓物をむしゃぶる音と骨を砕く音に、穫が気絶したままで良かったとエミは心底思った。
「かけた呪が破れたら……かけた張本人に返っていく。これは基本よねえ?」
問題は、ここからだが。
尾を喰らい尽くした、八岐大蛇の幻影は実体化していき。やがて、伝え聞いたような大きさまで肥大化して、エミらの前に立ち塞がったのだ。
次回はまた明日〜




