28-1.穫の拒否
お待たせ致しましたー
*・*・*
そんな約束、した覚えがない。
唯一、覚えがあるはずの羅衣鬼ですら、先日口にしていなかった。
けれど、薬指に浮かんだ蛇の模様に似た指輪のようなものは、八岐大蛇の尾の言葉を体現しているようであった。
だが、それがわかったところで穫の心は変わらない。
「……覚えていないわ。私にさっき何をしたの!?」
「えー? ほんと〜? これついさっき施したものじゃないよ?」
「だからって……昔の私が言ったにしても勝手なことしないで!? さっきも言ったけど、私はあの人のものよ!!」
笑也以外の男性との付き合いだなんて御免だ。絶対そんなのは嫌だと口にしても、この尾は何も言おうとしない。
むしろ、人間の子供のように膨れっ面になるだけ。伝説上の化け物だというのに、随分と子供っぽい一面しか見ていない。
しかし、羅衣鬼に聞いた時もだが今も穫は彼を思い出せない。外見が違うせいもあるだろうが。
「なんでさー? 穫って意外に薄情者なんだね?」
「……そう言われるかもしれないけど。ダメなものはダメ!! 私はもう他の人のものなんだから!」
「人間を捨てれば、永久に生きられるのに?」
「そんなの要らない!」
「うそー?」
嘘じゃない。
望む生き方を持つ人間もいるだろうが、穫は笑也と共に過ごしていく方を望むだけ。
たしかに、死は怖いかもしれない。
けれど、人間であるからこそ精一杯生きたい。笑也と出会い、付き合うようになってそんな考え方を持つことが出来た。
もちろん、佐和や巧達のお陰もある。
だからこそ、穫は生涯を人間として生きたいのだ。
「こんな……の!?」
霊力を測定したばかりの穫に、十束剣である咲夜もいない今、出来ることは限られている。
だが、何も出来ないわけではない。動けないかどうか、力を込めてみる。すると、先程は感じなかった自分をがんじがらめにしていた縄のような痛みを感じた。
それを引きちぎる勢いで、穫は腕を中心に力を込めた。
「!? あーあ、ほどけちゃった?」
尾が残念がりながら言うように、穫を拘束していた縄のようなものは千切れた。なら、あとは逃げるだけだと思ったが、ここが何処だかわからないままだ。
以前のように、エミに佐和が迎えに来てくれた時とは違う。
けれど、笑也や斎の目の前でこの尾に連れ去られたのだ。きっと迎えが来ると信じて。
(咲夜……咲夜、羅衣鬼君!?)
念じてみて、彼らを影から呼んでみても応じない。
このままでは、穫は笑也の元に帰れない。
「ふふ。十束達には、ちょっとだけ遊んでもらってるんだー?」
だから来ないよ、と尾が穫の後ろから囁いた途端。
穫の意識はまた暗い何処かへ沈んでいくのを感じた。
次回は木曜日〜




