21-5.達川家に③
お待たせ致しましたー
言うまでもなく、今やってきた男性は。
「はじめまして、お嬢さん。笑也の父で、明良と言います」
「は、はは、初めまして!! 万乗穫、です!」
「ふふ、そっくりでしょう? 穫さん」
「は、はい!!」
珠緒が楽しそうに言うのに、穫はまだガチガチだ。このような美形の家族に囲まれるなんて初めてだから、緊張しないわけがない。
明良は穫を見ると、笑也そっくりの笑顔でニコニコと微笑んでいた。
「いやー、笑也にはもったいないくらい可愛らしいお嬢さんじゃないか。玄関で話すのも疲れるだろう? お茶菓子は用意してあるから、ささ、穫さんも上がって」
「お……お邪魔、します」
一応手土産を用意しようとしたのだが、大丈夫だからと笑也に言われたので何も持ってきていない。
とりあえず、玄関で話し続けてもいけないから達川の家に上がらせていただき、珠緒達の案内で客間に行くことになった。
二階建てらしいが、平家のような造りが立派でよく管理されているのがわかった。中庭もあり、笑也が言っていた業者が手入れしたとわかるくらい素晴らしい風合い。
思わず見惚れそうになったが、珠緒達と話すのが目的なので笑也に手を引かれながらついていく。
「狭いですけど、どうぞ?」
この感覚は親子でも同じなのか。
どう見ても、六畳以上ある畳の敷き具合に、立派な卓があって座布団も座り心地が良さそうな感じである。
障子には庭を眺めやすいようにガラス窓と組み合わせていた。
「し……失礼、します」
とりあえず座ることになり、穫は笑也に導かれるままに彼の隣に腰掛けた。
「足は遠慮なく崩していいよ?」
「今日は私達だけだもの?」
「だって、穫ちゃん?」
「お……お気遣いありがとうございます……」
立ち仕事ならいざ知らず、正座は本当に慣れていないので有り難かった。すぐに、崩してから座ると、廊下側から誰かがやって来る足音がした。
「奥様、旦那様。お茶とお菓子をお持ちしました」
旅館の仲居さんのような佇まいの初老の女性が、人数分のお茶とお菓子を持ってきてくれた。お茶は、抹茶とかではなくて普通の煎茶のようで安心出来た。一般家庭でしか育っていない穫が、茶道のような作法を会得しているわけがない。
あの呪怨のせいで、習い事とかも出来なかったのもある。
「ありがとう、イネさん」
笑也が彼女をそう呼んだので、インターフォンで対応してくれた女性だとわかった。
穫の前にお茶を出してくれた時に目が合うと、優しそうな微笑みを見せてくれた。多分だが、歓迎されているのだろう。
「さ、穫さん? イネの手作りお菓子は絶品なの。是非召し上がって?」
イネが去ってから珠緒がそう言うので、穫はお菓子に釘付けになってしまった。
煎茶に合わせたのか、上生菓子にしか見えない可愛らしい花型の和菓子が、あのイネの手で作られたとは最初信じられなかったが。
笑也からも、さあ、と言われたので専用の竹楊枝で切り分けてみた。
赤色の餡子のような部分はとても柔らかく、力を入れずとも楊枝が通り。中は上質なこし餡。花びらひとつを切り分けるようにしてから、口に運ぶ。
予想通りのこし餡の食感だったが、市販品どころか専門店に負けないくらいの仕上がりだった。珠緒達の前でなかったら、もっともっとと食べ進めていただろう。
お茶も、煎茶どころか玉露の上質なものではと思うくらい飲みやすくて、甘かった。
「ふふ。穫ちゃん気に入った?」
「はい。とっても美味しいです!」
「良かったわ。イネにもあとで伝えておくわ」
「お願いします!」
「で、穫さん。少し聞きたいんだが」
明良が身を乗り出す勢いで、穫に問いかけてきた。
「はい?」
「笑也のどこが気に入ったんだい?」
「父さん」
「いいじゃないか? いずれ嫁に来てくれるんだろ?」
「え!?」
「あらあら。穫さんにはまだ言っていなかったの?」
【こいつヘタレだもの?】
「……エミ」
「エミさん!?」
とっくにいただろうが、タイミングを伺っていたのか。
エミが、穫の後ろからニョキっという具合に出て来たら、穫の頭に柔らかな胸を載せて穫を大層慌てさせたのだった。
次回は土曜日〜




