今日の夕刻、あなたと思い出のお茶会を
今日は、大好きなあの人と憎いあの子がお茶会に来る日。
絶対に成功させる。
そのためだけに何回も練習をしたのだから。
お茶会の5分前。
いつもこの時間にあの人は来る。
マナーやルールを守る、律儀な人だから。
少し自分にも他人にも厳しすぎるところはあるけど、そういう所も好きなところの1つだった。
初めてのデートで行ったお店のダージリン、この店の紅茶が香りが良くて好きなんだってよく言っていたわ。
あなたが好きって言ってくれた紅茶のシフォンケーキ、これはあのお店のダージリンを使って作ったの、気づいてくれた時とても嬉しかった。
付き合って一ヶ月記念にあなたと一緒に作ったチーズケーキ、一緒に作った方があなたも楽しいと思って一緒に作ったのよね、分量を間違えてしまって不格好にはなってしまったけれど、あなたと一緒に作ったというだけで私にはどんな宝石よりも価値があるものだった。
付き合って三ヶ月の時にお揃いで開けたピアス、ピアスは開ける時は確かにとても痛かったけれど、その痛みのおかげでもっと素敵な思い出になるような気がしていたの。
誕生日の日にプレゼントしてくれた髪飾り、とても似合うってあなたが恥ずかしそうに言ってくれたこと、今でも覚えているわ。
付き合って一年の時に買ってくれたワンピース、私には青が似合うって言って買ってくれたワンピース、今日はそれを着てあなたを殺す。
あなたは私が込めた想いを、今まで作ってきた思い出を、気づいてくれるのかしら。
ガチャリ
扉が開く音がした。
「ああ、いつも通り、きっちり5分前なのね」
++++++
あなたとあの子が一緒に来ていた、それだけではらわたが煮えくり返るほどの怒りが込み上げてくる。
私だって、このお茶会に来る途中であっただけなのかもしれないということは分かっている。
でも婚約者を置いて、目の前であの子に恋情の込もった瞳を向けるだなんて、そんなのマナー違反なんじゃないのかしら。
……もう、こんなことを考えて、自分の醜さに吐き気がすることもなくなるのね。
そう考えれば、一時の激情くらいなら我慢ができる。
ちゃんと、順番通りに食べてくれないと毒は効果を発揮しないから、いつもと同じ食べ方だと良いのだけれど。
今日は正式なお茶会というわけでもないから、いつも通りあなたと私のお茶会と同じ食べ方のはず。
シフォンケーキ、チーズケーキ、それからダージリン。
それが一番美味しいんだって、あなたは言っていたけれど、私にはよくわからなかった。
ああ、いつもと同じように食べてくれているみたいね。
良かった。
あの人が、血を吐いた。
あまり苦しみがないように、調べて買った毒のはずだけれど、苦しんでいるように見える
何故かしら。
まあ、もう良い。
あの子が何か言っているけれど、もう私には何も聞こえない。
だけど、一応言っておきたかったことがあるの。
「もう、何もかも遅いわ」
言えたかどうかは、わからなかった。
ああ、暗く暗くなっていく。
最期に、あなたと一緒にいることができて。
私、本当に嬉しかった。
あなたを殺した罪深い私と、私に嘘をついた罪深いあなたが、同じ場所に行けますように。
私はずっと願っているわ。
++++++
「ああ、確かにもう遅いのかもしれない」
「でも、それで良いんですよ」
「絶対に2人だけで逝かせたりしません」
「地獄で待っていてくださいね」
彼女は順番通りにケーキを食べた。
そして、彼女は紅茶を飲んだ。
そして彼女もあの2人と同じように倒れた。