アンヌの二番目の物語
星降る夜のクリスマス・イブ。
街はざわめき金や緑、そして真紅のデコレーション
ネオンサインが空へ投げキッス
てっぺんに星を飾った大きな樅の木にはイルミネーション
窓には蜜柑色の灯りが星のよう
子供達の笑い声は小鳥たちの舞いのように
足音は荒れた海の入りのように
街ゆく人々はささやかな祝いの夜に微笑みを浮かべる。
「イエス。今宵はクリスマス・イブ!」
弓矢を持った天使が飛び回り射抜くハートを探して叫ぶ。
年老いた禿頭のバーテンがシェイカーを振るパブ。
カクテルを飲むカップルの女は心に狐を宿す。
「マッチはいかが……………」
アンヌの声にすかさず男はライターの炎をかざす。
煌びやかな通りの裏側には罪深い悦楽を買う路地が続く。
「Maison d' Amour」と文字がアーチを描く額縁に縁取られた窓。
黒い下着で肌を晒した娼婦は煙管をくゆらせる。
「姐さん! 星よりきれいな炎の出るマッチよ」
「あればかえって邪魔なのさ……………ネ」
街は明るくとも底冷えする寒気は足元から這い上がる。
人々の歓声とざわめきは街灯の隙間にエコー。
街外れに灯る街灯は少女の影を長く引き延ばす。
みぞおちに巨大な木ねじを打ち込んだ、瞳を持たない青年は背中に十字架を貼り付けていた。
アンヌはかじかんだ掌の上に一箱のマッチを乗せて言う。
「ねえ、顔色がよくないわ。あんたにはオレンジ色のほのおが必要なのよ」
「Ce n'est pas Paix」
「ケッ………十字架なんか背負ってキザなやつ!」
クリスマス・イブの夜は更ける。
マッチ箱が一箱でも減ることはなかった。