アンヌの最初の物語
あたしはアンヌ・アンデルセン。スラムの街に住んでいた。
真珠色の運河、素足の子供、ドラム缶ドラム……………
一昨日ママンが死んだ……………最初で最後のママンの休息。
小さな窓から手向けの花を一輪落とす。ママと同じ野に咲く名前のない花。
干された洗濯物の舞う風に乗って貧しい路地に花びらが散る。
崩れた煉瓦に灰色の漆喰
朽ちかけた黒塀と灰色の空
渦を巻く雲が光さえも灰色に変える
踏み潰された空き缶
ツバメですら巣を作らない
カラスでさえも餌を求めない
誰もいない空虚なベッドだけが置かれた部屋
パパはまだ知らない。
パパはランブリング・ギャンブリンマン(流れの賭博師)。
電柱を流れる電気みたいに流れ流れて。
そして今はK市の刑務所で看守や囚人相手にカードを切っているはず。
部屋にある唯一の写真はママンが大切にしていたパパのもの。
パパは片眼鏡をかけて形の良い髭をたくわえ、帽子を斜にかぶってにこりとも微笑んでくれない。
お友達はサイコロとカード、そしてお酒と煙草。
泣くのはきらいだ。
粗末な男の子のような服を着て、唯一の財産であるお気に入りのマフラーを巻いて。
いつものようにマッチを入れたバッグを持って階段を降りる。
街でマッチを売るために。