ある雪の日
これまでと作風を変えたため不安ですがよろしくお願いします。
雪は嫌いだ。茫漠と広がる白銀の世界は、まるで全て見ているぞと言わんばかりに様々な証拠を跡として残していく。
「――やっぱり学校には嘘の申告をしていたか。見てみなよ、『魔核』だ。彼女、この大きさからしてLevel2くらいはいってたんじゃないかな」
足元に倒れ伏す生徒だった女子の胸元に手を突っ込み、彼は濡れた右手に掴んだ紅い結晶を掲げて見せた。
魔核。今俺が欲して止まない物。これを手に入れるために俺は彼女を殺した。でもなぜだ。俺はいったいなぜこんなものを欲しているのか――――
「……最近、そうしてぼんやりしていることが多いね。今の君、路頭に迷った捨て犬みたいな顔をしているよ」
「俺は捨てられたんですかね」
「幸いにも命は拾えてるじゃないか」
彼は戦利品を値踏みするように空にかざすが、生憎の曇天に短く舌打ちする。
「あまり過去を振り返るものじゃないよ。後悔ならなおさら、ね。その選択が良かったか悪かったかなんて死ぬ前にならないと分からないものさ。僕たちに今あるのは現在と未来、過去なんて自分を縛る足枷にしかならない」
そういうものこそ真っ先に捨てるべきさ、と彼は言った。
流石は“この道の”先輩なだけはある。だが、俺はまだ彼のように割り切るには経験も浅く、また過去は身近にあった。それでも、俺は選んでしまい、行動してしまった。この選択に一体何人の命が関わったか最早数えることもできない。ならば、やり遂げるしかないのだ。俺は彼に右手を差し出した。
「約束通り、半分いただきますよ」
「別に君からネコババする気は毛頭ないよ。けれど――少し悠長にし過ぎたようだね」
それで俺も気づいた。雪に沈む複数の足音がすぐそこまで迫ってきていた。やはり雪のせいで痕跡を完全に消すのは無理だったか。それにしても考え事をしていたせいで俺は気づかなかったが、隣にいる彼は違うのだろう。
「うん、見つかってしまったのなら仕方がない、殲滅するしかないよね。おかげでお土産が増えそうだ」
「やむを得ない戦闘には付き合うって言いましたけど、好んで敵を作るのは感心しませんね」
「何を言っているんだい。僕たちはまさにそうじゃないか。『リンデクス』と何ら変わりない。人類の外敵じゃないか」
彼が魔力を熾し臨戦態勢に入る。俺も溜息のあとに魔力を熾した。鼻先を白い息が、全身からは淡く魔力発光が起きる。
敵の姿が見えた。見慣れた隊員服、『リンデクラウド』だ。見知った顔がいないことに多少安堵した俺は、一息に敵陣へと躍り込んだ。
やり遂げるしかないのだ。最後まで。
そのとき、脳裏に突然、懐かしい光景が浮かんだ。
あれは俺が――――僕がまだ幼かったときの光景だ。
五話まで我慢して読んでいただいて、続けて読むか判断していただければと思います。