戦闘狂とめんどくさがり屋Ⅳ
何故か続く短編シリーズ。
前回: https://ncode.syosetu.com/n3528gb/
一回: https://ncode.syosetu.com/n2784gb/
ヴェルディ曰く、クソ侍。
彼は自身の故郷ヤマト国、に近く位置する永仙国に来ていた。
と言うのも、今回は禁忌武具と呼ばれるものがヤマトから盗み出されたとのことで態々やって来たと言うのだ。
ヴェルディが禁忌武具ということで永仙国に来国しようとしたが、ミズキはそれを阻止した。
何よりも、今回その禁忌武具を盗み出した相手は強者を求めるとあってヴェルディが来るというのは予想できていた。ただ、これはミズキの故郷の問題であり、それにヴェルディが介入するのをよしとしなかった。
と言うのもあるが、一度、禁忌武具の使い手と死合ってみたいと言う、戦闘に対する狂気が、欲望が出てきたからだ。
永仙国の北方に位置するニクスとの侵略戦争でその猛威は既に振るわれていた。永仙国の剣士、楊梓豪がその禁忌武具と呼ばれる妖刀を持っているらしい。
ただ、今回の件に関してはヴェルディはミズキが負けて、死んだら、自分が何とかすると許可をした。
彼がなぜ禁忌武具に関しては乗り気であるのかと尋ねると、他ではどうにもならないと言うのと、いつも自分に回ってくるもので、先んじて行なっているそうなのだ。
流石に最強ということもあり、禁忌武具が相手でも勝つことができるというのは、おかしな事なのだそうだ。
「それにしても、楊梓豪の場所まで遠いな」
ミズキはそう呟いた。
どうにも永仙国には仙人思想というものがあるらしく、道への理解を深め、その体を捨てる事で高尚なる精神へと転換するそうなのだ。
そして、楊もその例に漏れず仙人になることを目標とする人間であったと言うだけの話だ。
長い山。その頂を目指してミズキは歩いていく。ただ、だんだんと空気が薄くなる。どうにも仙人が高いところで修行するのはその宇宙に手を伸ばし、一体となるためだとか。
その考えを聞くと、どこか梵我一如という言葉を思い返してしまう。
こんな事はどうでも良いのだ。
「はあ、はあ」
雲よりも高い山の頂に、楊梓豪は座していた。胡座をかくような、座禅を組むような姿勢で彼の正面には盗まれたと言われていた妖刀がある。
「汝の名は?」
低い声が背中を向けたままにそう尋ねてくる。
「拙者はミズキ・カワナカ。ヤマト出身の侍だ」
そう答えると、ゆるりと楊は振り向いた。そして、ミズキは感じ取る。目の前の男の強さと偉大さを。
仙人思想ではそれを気と言う。それがヤマトとは別の言葉ではあるが同質のものというのは確かに理解した。
「ほう、我に挑むか。武士」
「拙者は武士などと高尚なものではない。ただの侍、人斬りだ」
「そうか。ただ敬意を表そう、人斬りミズキ」
そう告げて、妖刀を手にしながら楊は静かに立ち上がる。その瞬間から、戦いは始まっていた。
カチャリと、音がした。
鞘から刀がぬけた音だ。ミズキも同時に抜刀する。
ただ、ミズキは錯覚したのだ。自身の胴が真二つに斬られると。
胴斬りのように妖刀が横に振られたという訳でもない。ただ、ミズキは自分が死んでいないと理解する。
身体もしかと繋がっている。えも知れぬ違和感と気色の悪さにブワリと冷や汗が滲み出る。
「ほう、死なぬか」
楊はそう言葉を漏らした。
楊がこの刀を抜いたのは三度。一度目は盗み出す時に、追跡を払うため。二度目は言わずもがな、ニクスとの戦争にて。
そして、今三度目が抜かれたのだ。
「ほう、汝。中々に強いようだな」
そして楊は理解していた。
彼の持つこの妖刀は一つ、異質な力があった。敵対者の選別だ。弱きものはこの刀を見ただけで殺される。
強きものだけが、この刀と戦うことが出来る。
そして、ミズキはニタリと笑う。
「そろそろ始めようか……!」
我慢ならなかった。
もう興奮を抑えられなかった。これほどまでの死のイメージをミズキは感じたことがなかった。これはきっとヴェルディと切り結んでも得られないだろう。
何せ、彼は依頼以外にやる気を見せない。
ミズキは摺り足で楊に接近する。その勢いのままに袈裟斬りを放つ。
楊はそれに合わせて刀を横に振るう。
その瞬間に刀の差を理解する。ミズキは流すようにして、後ろに飛んだ。
刀がぶつかる直前に感じ取ったのは、まともに合わせたら、ミズキの刀が折られ、胴体も上と下に切り分けられるということだ。
それに対して吊り上がる口を、ミズキはどうにかして誤魔化す。終わるまでは楽しんではいけないと、ミズキは心を律した。
刀をぶつけぬ様に、ミズキは仕掛けては下がり、仕掛けられては避けて下がりを繰り返す。
ただ、スパリと何かが切れる様な感覚がした。
ミズキの身体から真っ赤な液体が吹き出した。
「所詮はこの程度か」
見えていなかった。ミズキにはその剣撃が見えなかった。ただ、笑う。
「クカ、クカカカカカカカカカっ!」
その体は血に染まって行くが、それでもそこに立ち続ける。倒れる事はない。
刀に差はあれど、担い手に差はなし。それがミズキの見解だった。
もし、ヴェルディがいればこう言ったであろう。
『クソ侍の方が上だ』
と。
ヴェルディは禁忌武具を恐ろしく思うことがあっても人に大差はないと考えていた。そんな中に現れた、強さを認めるミズキだ。
ヴェルディに認められるミズキは弱いわけがない。最近では魔王をも打倒したのだ。
ただ、ミズキはヴェルディではない。ただの業物で、楊とその妖刀を打倒する事は不可能。それは既にわかっていた。
だがーー。
ミズキは傷を負った身体で楊に斬り込む。
楊はそれを迎撃するために脳天に向けて突きを放つ。
「温いーー」
そんな言葉を吐きながらもミズキは攻撃を右側に避け、素早く、楊の左肩を縦に斬る。
楊は痛みに顔を歪めるが、すぐに横に腕を振るおうとした。
しかし、一瞬の隙に右腕の肘を切り裂かれ思わず楊は刀を落としてしまう。
そして、負けを理解する。
「……我の負けだ」
膝をつき両手を上げようとするも、楊の右腕は上がらない。
「その妖刀は持って行くと良い」
楊はそれだけを告げた。
ただ、忘れていたのだ。
ミズキは人斬りだ。侍だ。死合えば殺す。降伏の体を為した楊のことを、首を差し出したのだと、遠慮も、躊躇もなく切り落とした。
「妖刀、か」
打倒したというのに、終わって仕舞えばこんなものと、若干の冷めを感じていた。
鞘と妖刀を拾い、その鞘に妖刀を収めようとした。
妖刀を手にした瞬間に理解した。
この刀は敵を選ぶ。
強きものに挑ませる。挑戦者を望む刀。
「あの一撃は鋭かった……」
それを思い出しながら、ミズキはぞくりとするような恐ろしい笑みを浮かべる。
そして、タイミングを見計らった様に、ヴェルディがやってきた。
「さて、ご苦労さん。妖刀はオレが返しとく。まあ、傷は塞いでやるよ」
そう言って、ヴェルディはヒールの魔法を唱え、ミズキの傷を塞いで何処かに行ってしまった。
「……ふむ、ヴェルディ殿にはまだ届かんな」
そう言って悔しそうに笑いながら、ミズキは貧血で気絶した。
ヴェルディはヤマト国に入国する。
「よ、イズモ。クソ侍が妖刀を取り返してくれたぞ」
鳥居のをくぐり抜けた場所で、ヴェルディは依頼主を見つけた。
天狐と呼ばれる神通力を操る相当に強い存在なのだそうだ。
「して、クソ侍とやらは来とらんがのう?」
「今回は結構無茶してたからな」
千里眼でその様子を見ていたのだが、本来であればヴェルディ以外には不可能なのだがよくもまあできたものだ、と称賛する。
「今度からはあいつにも頼んでくれ。メンドイ……」
ヴェルディがそういうとイズモは横に首を振った。
「成らぬな」
「まあ、だよなあ」
ヴェルディ程に圧倒的でなければ、禁忌武具の回収で死んでしまう可能性もある。流石にそれは看過できないのだそうだ。
「にしたって、管理が杜撰すぎるだろ」
どうして、禁忌武具が盗まれる様な事態になるのか、一度、世界の上層部に問い質したいものだ。
「仕方あるまい。盗みに協力するものもおるのだからの」
まあ世の中、金だ。とイズモが言うと、確かに、とヴェルディも納得してしまう。
結局、ヴェルディは休めない。
本当、短編でやってしまってすみません。