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祝いの舞踏会1

 その日、シシリィアは朝からむくれていた。父王の誕生祝いの舞踏会のために侍女たちに全身を磨かれている間も、ドレスを着付けられている間も、ずっと口はへの字になっていた。


「シシィ、もうすぐ舞踏会の時間よ。そろそろ可愛いお顔に戻さない?」

「イルヴァ……。そんな子供相手みたいな言い方しないでよ」

「あら。朝からずっとご機嫌斜めで侍女たちを心配させるなんて、お子様のすることじゃない」

「う……。ごめんなさい」

「ふふ、分かっているのなら良いのよ」


 鏡台の前に座ったシシリィアの髪の毛をセットしているイルヴァは、器用に金色の髪を編み込んでいく。

 邪魔だから、という王女らしからぬ理由でシシリィアの髪の毛は肩辺りで切ってしまっている。そのせいで結い上げたり出来ないのだが、部分的に編み込みをし、小さな淡い色の花飾りを飾っていく。最後に白金で作られた、まるでレース編みの様な木の葉モチーフの飾りを差し込み、イルヴァは満足げに笑う。


「完成。可愛いわ、シシィ」

「ありがとう。たまにはもっと大人っぽいのもいいんだけどね……」


 椅子から立ち上がり、シシリィアは鏡で自身のドレス姿を確認する。


 シシリィアが着ているのは秋らしい、淡いモスグリーンのドレスだ。

 上半身はシンプルなデザインだがドレスよりも更に淡い色のレース生地を重ね、所々に小さな白い宝石が縫い付けられている。シフォン生地のスカートは、生地をたっぷりと重ねてふんわりとしたシルエットが可愛らしい。

 腰にゆるく巻いたシルバーグレーのリボンは左腰辺りから長く垂らし、さらにリボンの結び目には白とオールドローズ色の花飾りを飾っている。


 色合いは全体的に落ち着いたものなのだが、シルエットや装飾品のおかげで少女っぽい、可愛い印象になっていた。

 シシリィアとしては18歳になり、成人も迎えたので大人っぽいドレス姿に憧れるのだが、衣装係にしれっと混じっているイルヴァの意向で可愛らしいものにされてしまうのだった。


「大人っぽいのは第一王女と第二王女の担当じゃない。シシィは可愛い担当で良いのよ」

「でも今日はユリア姉様は欠席じゃん」


 そう言ってシシリィアはまたむくれる。

 今日朝からシシリィアが不機嫌な理由は、第二王女であるユリアーナが今日の舞踏会を欠席するからである。


 求婚者が大挙してくる舞踏会を姉が回避したのが羨ましい、というのも理由の一つではある。しかしそれ以上に、一番求婚者が集う第二王女が不在にする、という余波で恐らく休む暇もなくなりそうだという予感から、憂鬱で仕方ないのだ。


「王都西門の結界に異常があったっていうから、魔術師団長のユリア姉様が行かなきゃいけないのは分かってるけどさ。なにも今日じゃなくてもって思っちゃうよね」

「ふふ。せっかくお料理が美味しい秋の舞踏会だものね」


 この王の誕生祝いの舞踏会で提供される料理は、毎年秋の味覚が盛り沢山なのだ。

 先日シシリィアたちが任務で買ってきた金華茸(きんかだけ)をはじめとしたキノコ類は勿論、カボチャや栗の料理や鹿肉などを使ったジビエ料理もこの時期特有だ。さらに葡萄やイチジク、林檎などを使ったデザートも欠かせない。


 シシリィアとしては、ダンスや社交なんかは放っておいて美味しい料理を満喫したいのが本音だ。とはいえ王女としての務めもある。今日の舞踏会では諦めるしかないだろう。

 悲しい予感にため息を吐くと、くすりと笑ったイルヴァがシシリィアの頬を撫でる。


「シシィのために、いくつかお料理を取っておいてもらうようにしているわ」

「本当!?」

「ええ。それに、一応予防策もとっているのよ」

「予防策……?」


 首を傾げるシシリィアに、イルヴァはにっこりと微笑んだ。そして部屋の扉の方へ声を掛ける。


「用意は終わったから、入って良いわ」

「失礼します」

「シャル?」


 部屋に入ってきたのは盛装のシャルだ。

 白いシャツに深いモスグリーンのクラヴァットを巻き、シルバーグレーのジレとフロックコートを着ている。さらにフロックコートの襟元には、シシリィアの髪飾りと同じような木の葉をモチーフとした金色のブローチが付けられていた。


 シシリィアの衣装と揃いという程ではないが、並んで立てば間違いなく合わせた雰囲気があるだろう。

 舞踏会の衣装を男女で揃えるのは、何かしら深い関係がある場合がほとんどだ。シシリィアとシャルは元々乳兄妹であるし、主従の関係でもある。

 とはいえ、普通そんな関係では衣装を揃えるようなことはない。もしかしたら二人は良い仲なのかも、といった憶測が一気に広がりそうだ。


「イルヴァ、予防策ってもしかしてこれ?」

「ええ。シャルにも悪い話ではないから、快く受けて貰えたの」

「鬼人族だろうと、俺を狙う令嬢方は意外と多いですからね……」


 そう言ってため息を吐くシャルは、普段は下ろしている前髪を全て後ろに撫でつけている。いつもは髪に隠している白い角をあえて見せ、鬼人族であることを強調しているのだ。


 長い白絹の髪は項辺りで一つに束ね、盛装姿をしたシャルはとても美しい貴公子だ。

 実際、侯爵家の次男であるし、王女とも親交の深い竜騎士なのだ。将来有望で、そして何よりも見目が良い。シャルが鬼人族であろうと、心を得たいと思う乙女は山のように居るのだ。


「それじゃあ、一緒に頑張って舞踏会乗り切ろうか」

「ええ。とはいえ、今回は近隣諸国からのお客様も来ていますから。俺ではあまり防波堤にはならないかもしれませんけどね」

「えええ! シャル、ずるいよ」

「できうる限りは一緒に居ますよ。さあ、お手を」

「もう……」


 柔らかい微笑みを浮かべて差し出されたシャルの右手に、シシリィアも手を重ねる。そしてシャルと共に、舞踏会の会場へと向かうのだった。

金華茸はポルチーニ茸とかのイメージです。

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