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竜騎士のお仕事2

 シャルことシャルライアは、フィルズ女侯爵と彼女に一目惚れして婿入りした鬼人の次男であり、兄弟で唯一父の特徴を継いで鬼人として生まれた。

 人間と鬼人や魔人といった他の人類種の間に出来た子供は、親のどちらかの種族になるものなのだ。


 そして鬼人は成長すれば怪力と頑強な肉体を誇るが、幼少期は病弱だ。そのため病魔から子供を隠す、といった意味で子供を本来の性別とは反対の性別で育てる風習がある。


 シャルもそんな鬼人の性質通り小さい頃は病弱だったため、女性風の名前を付けられ、さらにシシリィアと共に女の子として育てられていた。ちなみにシャルが男であることは国王夫妻も生まれた時から知っていたが、可愛いから何も問題ない、という剛毅なのかアホなのか分からない理由で、シシリィアと合わせて可愛がっていた。


 おかげでシャルにとって幼少期は黒歴史であり、女性風のフルネームを呼ぶ者や、自身を女性扱いする存在は葬るべき対象であった。


「ぶっ殺してやるよ、クズが!」

「は、そんな大振り当たらないぞ」


 普段の丁寧な口調は見る影もなく、柄悪く吠えて大刀を上段から振り落とす。しかしエルスタークは悠々と大刀を避け、楽しそうに長剣を抜いた。


 幸か不幸か、シシリィアたちが居たのはオルフレールの街の広場であり、周囲の人たちは争いの雰囲気を察してさっと逃げて行っていた。おかげで二人の周囲には争うだけのスペースが出来ていたのだ。


 剣と刀を打ち合っては距離を取る二人は、まるで剣舞を舞っているかのようだ。遠巻きに見物している人々も、次第に盛り上がり始めていた。

 しかしやっぱり戦闘力の高い二人だ。周囲の人たちは気付いていないようだが、彼らの足元の石畳が大変な状況になってきていた。


 シシリィアは大きくため息を吐くと、素早く魔力を練り始める。周囲を巻き込まず、しかしエルスタークとシャルを一撃で黙らせる必要があるのだ。


「いい加減にしなさい!」


 そう叫ぶと同時に、二人の頭上から大量の水を降らせた。


 通常であれば魔力を練り始めた辺りで気付くだろうが、頭に血が登っていたシャルはあっさりと水を被る。一方のエルスタークはシャルとの戦闘中でも余裕があったらしく、あっさりシシリィアの術の制御権を奪って水をシャルの方へ向けていた。

 おかげで二倍の水を被る羽目になったシャルは、ぐしょ濡れの状態でしばらく沈黙する。


 細い体にひたりと張り付いた服がなんだか色っぽく、見ていて気まずくなってきた。


「シャル、大丈夫?」

「…………失礼しました」


 そっと近づいて水分を飛ばしてやると、まだ少し湿っぽい前髪をかき上げてシャルはようやく顔を上げる。

 返事をした声は地を這うように低く、眉間にも皺が寄っていて機嫌はひどく悪そうだ。ちらりとエルスタークを鋭く見遣り、ぞんざいに問いかける。


「それで、そこの魔人は何しにここへ来たんですか? こんな遠い場所まで遊びに来たわけではないでしょう」

「はは。シシィに会いに来たのも嘘ではないんだがな」

「はいはい。で、エルスタークの本当の目的はなに?」

「相変わらずシシィはつれないな」

戯言ざれごとは良いですからさっさと吐いてください」


 相変わらずふざけた調子のエルスタークに、シャルの空気は氷のように凍てついたものになっていく。シシリィアも呆れた様子で見ていると、エルスタークは小さく肩を竦めてようやく口を開く。


「近頃この辺に岩亜竜ロックリザードが棲み付いたという情報を貰ったから、ちょっと狩ってきたところだ」

「……岩亜竜ロックリザードを一人で討伐したの?」

「まぁそうだな」


 岩亜竜ロックリザードと言えば2メートルは超える大型のトカゲのような魔獣で、表皮は岩のように固い。亜竜、と名付けられている通り、竜にも近い存在だ。

 ワイバーンのように飛んだりは出来ないため幾分討伐難易度は下がるが、通常の騎士で対応するならば数十人規模の部隊を用意する必要がある。


 それをこの男は一人で討伐したというのだ。

 圧倒的な実力を持っていることは知っていたが、やはりとてつもない強さのようだ。


「討伐は、ギルドの依頼ですか?」

「まぁ、そんなとこだな」


 ギルドとは、傭兵や冒険者といった国に属さない者が仕事を請け負うための組織だ。

 エルスタークがシャンフルード王国に仕えている訳ではないことは流石に調べて知っている。しかしシャルの追求にニヤリと笑って誤魔化すあたり、多分ギルドの依頼でもない。


 本当に、この男は何者なのだろうか。


 むむむ、と唸っているといつの間にかエルスタークに近付かれていた。そして顔を上げた途端、軽く頬に口付けを落とされる。


「なっ!?」

「貴様!」

「ははは。折角会えたから褒美として貰ってく。じゃあ、また近いうちに」


 シシリィアが気付いた時には既にエルスタークは離れており、すぐ様反応したシャルの攻撃からもあっさりと逃げていた。そして頬を押さえているシシリィアに艶やかな笑みを贈ると、勝手に去って行くのだった。


「何なの、あいつは……!」


 ちなみにこの後街の代表者から広場の石畳修復費用を請求され、シシリィアはもう一度同じセリフを叫ぶのだった。

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