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竜騎士団の日常

 竜騎士団専用の修練場の中央でシシィリィアとシャルは向かい合っていた。互いに愛用の武器である長槍と大刀を構え、静かににらみ合う。


「いつでもどうぞ」

「その余裕、叩き潰すからっ!」


 涼し気に構えるシャルに、シシリィアはちょっとカチンと来ていた。宣言と共に大地を蹴り、勢いをつけて下段からえぐるように長槍を突き出す。


 模擬戦用の武器で刃は潰しているものの、勢い良く当たれば大怪我間違いなしだ。しかし躊躇ちゅうちょや遠慮は欠片もせず、全力で突きを繰り出す。


 一方のシャルは一切慌てることもなく、シシィリィアの槍を叩き落すように大刀を振り下ろす。

 だが勿論シシリィアもこのくらいは元から織り込み済みだ。素早く槍を手放すと懐に飛び込み、シャルの顎目掛けて蹴りを放つ。


「おっと」

「うわぁっ!」

「あ……」


 少し驚いた様子でシシィリィアの蹴りを払い除けたシャルだったが、うっかり力加減を誤っていた。勢いよくシシィリィアの小柄な体は吹っ飛び、ドガッという激しい音とともに修練場の壁へと激突する。


「シシィっ!?」

「団長~!!」

「副長またやったよ……」


 模擬戦を見物していたイルヴァや他の竜騎士たちが口々に声を上げ、シシリィアが吹き飛ばされた先へと集まる。


 シシリィアがぶつかった激しさを物語るように、石で作られた壁には大きくヒビが入り、一部は崩れ落ちている。しかしそんな惨状のなか、小さく呻きを上げつつも立ち上がったシシリィアは割とピンピンしていた。


「いったぁ~……」

「シシィ、怪我は? 頭は打っていないかしら」

「イルヴァ。大丈夫、打ったのは背中だから。多分ちょっとあざになってるかなぁ?」

「あの勢いでぶつかってちょっとの痣って、団長ハンパないっすわ~」

「俺なら多分立ち上がれねぇ気がする」

「それはお前、鍛え方足りないんじゃね?」


 口々に好き勝手なことを言っている竜騎士たちは、ほぼシシリィアのことを心配していなかった。こんな状況は、竜騎士団ではよくある光景なのだ。

 しかしシシリィアの守護竜であるイルヴァには、そう安々と許せるものではない。


 一先ずシシリィアの無事を確認すると、苛立ちを隠しもせずシャルへと詰め寄る。


「シャル。いくらシシィが私との契約で色々強化されてるからってやりすぎじゃないかしら?」

「申し訳ありません。俺のミスです」

「力加減を誤るだなんて、未熟だわ。ああ、もっとシシィに守護を掛けなきゃダメかしら」

「ちょっとイルヴァ……」


 頬に手を当てて悩むイルヴァに、シシリィアは苦笑を零す。


 シシリィアはイルヴァとの契約のおかげで、身体能力や筋力といった部分が強化されている。だからこそ、小柄なシシリィアでも長槍を扱えているのだ。

 それに加え、過保護なイルヴァは何かと理由を付けては様々な守護をシシリィアに授けていた。


 日常的に与えられる守護のおかげで、先ほどのように盛大に石壁へぶつかっても軽傷で済むのだった。


「シシィ様。申し訳ありません」

「模擬戦なんだからそんなに謝らないでよ。私が弱いから吹っ飛ばされたわけだし」

「しかし」

「そんなに気にするなら、今度は魔法有りの模擬戦をやろうよ」

「それは……」

「団長、魔法使えない副長にその条件は酷いですよ」

「でもさ、シャルに勝つにはやっぱ魔法は必要でしょ」


 苦笑して声を掛ける竜騎士に、シシリィアは頬を膨らませる。

 鬼人族は種族的に魔法を使えないことは有名だ。そのおかげで脳筋種族、と言われることも多い種族だった。


 そんな相手との模擬戦に魔法を使わせろ、と言うのはただのハンデの要求に等しい。しかし毎回シャルとの模擬戦では吹っ飛ばされてばかりいて、ハンデが欲しくなるのだ。


「でも団長、魔法有りってなると色々派手にぶっ放しますよね?」

「これ以上修練場壊す気っすか~?」

「ええ、本当に。シシリィア様、これ以上修練場を破壊する気でしょうか?」


 半笑いな竜騎士の言葉に同意する声は、凍える程冷たいものだった。

 その冷たい声に、修練場に居た者は全てギクリと固まる。


「……ランティシュエーヌさん。いつの間に?」

「先程からです。また、派手に壊しましたね、シシリィア様?」

「あはははは……」


 姉に向けるのとは正反対な冷え切った視線を向ける美麗な妖精に、シシリィアは乾いた笑いを返すことしかできない。


 妖精族であるランティシュエーヌは、守護を与えているフィリスフィア以外には基本塩対応ではある。しかし結構な頻度で問題を起こしている竜騎士団に対しては、特に対応が冷たいのだ。


 ビクビクしながら見上げると、冷え切った若葉色の瞳がシシリィアを見据えていた。


「竜騎士団は、どのくらい経費を使っているかご存じですか?」

「えっと、確か第一騎士団と同じくらい、だったはず」

「ええ、そうです。ただし、第一騎士団は竜騎士団の10倍以上の規模です」

「う……」

「竜の維持費も含まれるとはいえ、この規模でそれ程の経費が掛かっている理由はお分かりですか?」

「あちこちの修繕費、です……」

「ええ。お分かりに()なっているようで、よかったです」


 欠片も良く思っていなそうな冷たい声で頷いたランティシュエーヌは、小さく首を傾げてなにやら考えている様子だ。


 サラリと流れた淡い金色の髪の毛と皺ひとつない藍色の長衣が、埃っぽい修練場にはなんとも場違いだ。そんな関係ないことを考えていると、ランティシュエーヌから恐ろしい提案を落とされる。


「そんなに血の気が余っているのでしたら、もっと過酷な任務を申し付けましょうか」

「それはっ……!」

「ひぇっ……」


 ランティシュエーヌはフィリスフィアの補佐として政務を手伝っているのだ。勿論、竜騎士団へ任務を命じる権限も持っている。

 そして妖精族は自身が守護を与えている人間以外には、基本的に興味はないのだ。


 そんなランティシュエーヌが言う過酷な任務とは、どれ程ヤバイ物か想像するのも恐ろしい。


 竜騎士団員揃ってブルブル震えていると、呆れたようにランティシュエーヌはため息を吐く。


「そんなに怯えるくらいなら、もっと注意するように」

「はい……」

「……期待はしないでおきましょう。さて、いい加減本題に入りましょうか」

「ランティシュエーヌ殿がわざわざいらっしゃるということは、急ぎの任務でしょうか?」

「そうですね。明日には向かって頂きたいです。詳しくはこちらの書類に」


 いち早く怯えから立ち直ったシャルが聞けば、ランティシュエーヌは数枚の書類を手に頷く。


「南方にある、トュルムの森周辺で魔獣が異常に増えているようです。魔獣の退治と原因の調査をお願いします」

「トュルムの森周辺だと、大きな街もないからすぐに派遣できる兵力も近くに居ないか。了解。人選はこちらで決めていいの?」

「ええ。直近で竜騎士団にお願いしなくてはいけない任務は特にないので、総力で当たっても構いませんよ」

「それはないけど。何があるか分からないから、大目に投入するよ」


 先程までとは打って変わって、任務についてとなればシシリィアはランティシュエーヌと対等に話し合う。

 王女だからこその団長ではあるが、決してお飾りではないのだ。


 そしていくつかの確認や情報共有を終え、修練場を去ろうとしたランティシュエーヌは、ふと思い出したかのように足を止める。


「そういえば。先日の西門の結界の件ですが」

「ユリア姉様が調査してた件?」

「ええ。どうやら何かしらの妖精が関わっているようです」

「妖精が人間の国にちょっかい出してくるなんて、珍しいね」

「ええ……」


 妖精の多くは妖精界という、この世界とは別の世界に暮らしている。ランティシュエーヌのように人間に守護を与え、そして共に過ごしている方が稀なのだ。

 そんな妖精がこの国に何の用だろうか。


 むむむ、と唸るシシリィアにランティシュエーヌはさらに声を掛ける。


「念のため、シシリィア様もお気をつけください」

「え……、うん。ありがとう」

「ええ。では失礼します」


 さらりと礼をして去っていくランティシュエーヌを、シシリィアたちは驚きの眼差しで見送った。


「妖精が守護を与えていない人間に忠告を与えるだなんて。私のシシィに何かする気かしら」

「ちょっと、イルヴァ!」

「しかし、珍しいですね。ランティシュエーヌ殿がフィリスフィア様以外を気に掛けるなど」

「ね。ビックリしちゃった……」


 そう言い合うシシリィアたちがランティシュエーヌの忠告の意味を知るのは、大分後になってからだった。

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