本当の親の手がかり
「天使様が「きさま」はどうなの」
腹を抱えて思い出し笑いを繰り返す浩人。
「いきなり、あんなことするから」
ぼくの顔の温度はまだ冷めそうにない。
赤子をベッドにそっと寝かせる。
小さく弱々しい手に触れてみれば、ぎゅっと掴まれた。
暖かい。
こうしていると、少しは落ち着いてきた。
「今日のご飯は?」
「今日はねー」
浩人はもう手際よく調理に取り掛かっていた。
包丁の小気味よい音が響く。
浩人のご飯を食べるととても元気になる。味もぼく好みだし、実家のお抱えコックも料理がうまいが、あれとはまた違う。
なんだかとっても元気になるのだ。
浩人が料理をしている時、ぼくは周りをちょろちょろと動き回るくらいしかやることがない。
「もう出来るよ」
「わかった!ご飯よそうぞ」
お米は浩人が朝準備してくれる。
タイマー機能とかいうのでいつも丁度良く食べ時になる。
ぼくの係は、ご飯をよそい箸を出し皿を用意する係だ。
二人で向かい合い、いただきます、と言うことももう当たり前となった。
ゆらゆらと湯気を立てるおかずに期待が高まる。
「ちょっとシオン、また羽根が」
浩人の手料理が美味しくて、ついつい羽根を散らしてしまう。
「分かりやすいね」
「いつも、おいしい」
嬉しそうにする浩人。ぼくもご飯がおいしくて嬉しい。
ベッドの中の赤子も目を覚まし、心なしか嬉しそうに手足をぱたぱたさせている。
「そういえば、課題は明日までだろう」
「あぁ」
「分かりそう?」
「まったく」
言われて、ご飯を口に運びながら再度考えてみる。
「しかし手がかりがなぁ」
「本当の親の手がかりねえ」
片手で頭を抱える悩ましいぼくとは正反対に、なぜか試すような目の浩人。
「まさか、浩人は分かったのか」
「んー、どうかな?」
どうかな、とは言っても浩人のこういう表情は自信があるときに見る顔だ。
「ひ、ヒントはっ」
「ヒントかー、そうねぇ」
浩人は顎に手を当て少しの間思慮する。
それ、女の子の前でやったらみんな倒れちゃうから絶対やめてね。
「シオンとその子、とても似てると思わない?」
「ぼくは唯一無二の存在だぞ」
「話聞く気ある?」
「すまん」
おかずを一品取り下げられそうになった。危ない。
「髪の毛の色、赤ちゃんも綺麗な金色だね。シオンの瞳の色は随分珍しいけど、似ているね。二人の匂いも、どことなく似ている」
「に、におい」
「あんまりオレが教えてもね」
合ってるかも分からないし、と言いつつきっとぼくの課題にどこまで口出ししていいか迷っているのだろう。
「いったいどこの子どもなんだ」
「シオンの知らないとこの子どもなら、こんなにノーヒントで問題になるわけないでしょ?」
ぼくの、知っている子ども?
関係のある人間ということか?
「髪や目の色、そして匂いまで似ている……血族か?」
ぼくの新しい弟とか?
いや、流石にそれは。こないだ母様に会ったときなにも言っていなかったぞ。
いや、
「姉様!姉様じゃん!」
何故気が付かなかったのか。
アルがあの日、姉様婚礼挙げたとか言ってたし、ぼくに会いたがっているとも。そのための口実か?
なんにせよ、何故気が付かなかったんだ。
浩人は小さく拍手をしている。
好きなだけ褒め称えていいぞ!
ぼくは意気揚々とおかずを口に詰め込んだ。これでやっと、ご飯のことだけ考えられる。