表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/7

子どもに妬くな


夕陽の朱がさらさらの細い髪に差し、世界はオレンジ色に染まっていく。

日中より涼しくなった風が、頬に心地よい。


放課後、信二はまたみっちゃん先生に絡み始めたので保健室に置いてきた。

「あいつら仲良いんだな」

「そーだな」


腕のなかでまだ赤子は寝ている。

起こさないよう、ぼく達はずっとヒソヒソ声で話している。

一日抱いていると、流石に腕も疲れてくる。赤ちゃんって重いんだな。


「シオン、オレにも抱っこさせて」

浩人はばっと腕を広げてハグのポーズを取った。

「気を付けろよ」

なるべく振動が少なく済むようそっと浩人に抱かせた。


ぼくの腕が疲れてること気付いたのか?いや、まさか。


「本当に大人しいな」

「え、あぁうん」

他の赤子がどんなもんなぼくには分からない。

「普通はもっと騒がしいのか?」

「騒がしいというか、んー。元気いっぱいって感じだな。赤ちゃん見た事ねーの?」

「うん、初めて見た」


元気いっぱいって感じ?この赤子は元気がないのか?顔色は良さそうだが。


「この子は大人しい子なんだろ。いっぱい寝て、お腹いっぱいで、今は満足してるから静かなんだよ。きっと」

「そっか、良かった」

もたげた不安がすっと消えた。胸をなでおろす。


「お腹いっぱいってことは」浩人がひょいと顔を覗き込んできた。「愛が、足りてるんだな」

「なっ」


それは、そうなんだろうけど、ぼくは、けして、愛情が爆発なんて、そんな!

「顔、赤くなってるの?」

「夕陽の色だよ、ばか」


そっか、と浩人は再び赤子に目線を下ろす。

すごく幸せな顔で見つめている。

人間は赤子を見ると、みんなあのような顔になる。赤子というのはすごい生き物だな。


でも、浩人は。いつだってぼくしか見ていない、って顔して見つめてくるくせに。なんだそのとろとろの顔は。なんなんだ。


自然な足取りでいつものスーパーへ向かう。

そして自然な流れでおばちゃん達に絡まれるぼく達。

こうなると、分かっていたぞ。


「あらぁ!赤ちゃんじゃないの!」

「やだぁ〜、かぁわいいわねえ」

「絵から出てきたみたいねぇ」

「シオン君にそぉっくりじゃない!」

「なぁに?浩人君パパみたいな顔して〜」


パパとか言われて嬉しそうな浩人を横目に、ふと将来誰かの旦那様になり、パパになる浩人を想像した。

想像の中でまでへらへらすんな。


おばちゃんの勢いは本当にすごいな。やっと買い物を終えた。

歩くたびに新しいおばちゃんが湧いてきて買い物どころではなかった。


「浩人、お前そんなに子どもほしいのか」

「あれ、産む気になったの?」

「んなわけないだろ」

茶化された気がして、むっとした返事を返す。

ぼくは何に機嫌悪くしているんだ?


「こーんなに可愛いのに。シオンはひどいでちゅねー」

浩人は気持ち悪い言葉遣いで、赤子の頬にキスをした。

「な、おまっ!返せ」


浩人の腕から赤子を半ば奪い去る。頬を拭いた。

「なにしてるんだ、きったないな!」


「シオンは本当わかりやすいなー」

「なんだと」

浩人はくつくつと、笑いを隠そうともしない。何がおかしいんだよ。

随分機嫌良さげだな。


「子どもに妬くなよ」

「や、妬いてるわけ!にやにやすんな!」

「あーはいはい」


浩人はぼくの頭をぽんぽんと撫でる。触れたそこがどこかくすぐったい。


「こっちおいで」

「は、」

ふと頬に生暖かい感覚。柔らかくてしっとりとした恋しい温度。


「ひ、浩人!赤子の前できさまっ」

何をされたのか気付いた瞬間、首から上に体温が集中してくるのが自分でも分かった。

「それも、夕陽の色?」


満足げに笑みを浮かべて、戸に鍵を挿す浩人。

部屋に入れば、夕陽の色とは言えないじゃないか。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ