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「やっぱりお前産めたんだ」と言われたのは今で10回目だ


お湯を張った浴槽に、静かに足を入れる。キラキラと揺らめく。

ぼくと同じように美しい髪をもつ金色の赤子の頭を抱え、ゆっくりと湯に浸かった。

赤子の体にそっと湯をかける。小さな生き物を風呂に入れるのはこんなに気を遣うことなのか。


アルの言っていたことを心の中で反諾する。

「3日間、きちんとお世話されてくださいね」

3日か。この赤子がぼくの今後を左右するかもしれない。3日で親の手がかりなんて掴めるものだろうか。


「はぁ。美しく光り輝くぼくがなぜ子守など」

深いため息とともに上を仰いだ。


目が合う。

通気口からぼくらを見守る浩人。

「気持ち悪いからやめろと、何度も言っているだろう」

「何かあったら困るから」

にこやかに言うな。お前に群がる女の子たちが悲しむぞ。


湯浴みを終え部屋に戻ると、いつも通り浩人が冷たい水を出してくれる。

「ありがと」

「いーえ」

自然な動作でぼくを甘やかす。


「ところで、その赤ちゃんなに食べんの?」

「天使の赤子が食べるのは、愛だ」僕はしぶしぶといった感じで答えた。

あまり浩人には言いたくなかった。


「愛を食べる?」

「あぁ」


愛を食べるというのは、誰かが他者を想い気持ちを昂ぶらせたときに発生する感情を栄養源として、育っていくということだ。

美しく純粋な愛をたくさん食べた天使の赤子は、美しく育ち、能力も高い。


「と、いうことだ」

「ふぅん。じゃあシオンはたくさんの愛情を食べて育ったんだな」

「まぁ、そうだな」

こいつも分かってきたじゃないか。そう。ぼくは高貴で美しい天才の天使なんだ。


「じゃあ赤ちゃんのためにも」

「ヒッ」

いきなり顔を近付けてきた浩人。思わず変な声を上げる。


「シオンとちゅーしたら、愛が爆発的に発生すると思うんだけど」

「言うと思った!」だから言いたくなかったんだよ!

「こ、子どもの前でなにすんだ、ばかっ!」


翌日。今ではすっかり日課になった通学。

こいつの家で世話になり始めてから、色々な力を駆使して浩人の通う学校にもついていくようになった。


「おい、浩人」

「痛い」浩人はわざとらしく頬をおさえる。

「浩人が子どもの前で、しようとするから」

「痛い」

そんな子犬のような目には騙されないぞ。


昨晩ビンタされたことを根に持っているのか、痛い、しか言わなくなった。なんだよ、ぼくは悪くないぞ。


それ以外にはいつもと何ら変わりない通学路。などということはなく。

キラキラの天使がキラキラの赤子を抱いて歩く様が素晴らしすぎて、鳥が集まるどころかぼくらの歩いた跡がエデンの園のようになってしまった。

人間界には刺激が強すぎるようだ。


今日の通学は、しかし平和だった。

いつも浩人に群がっている女性陣も、今日ばかりは天使の輝きに恐れをなしたのか寄ってこなかった。普段より10分も早く学校に到着した。


高校に到着する頃には、ぼくらのことが学校中で噂になっていた。

一体なぜこんなに広まっているのか。人間という生き物は知りたがりなのだ。


先程から色々なやつに話しかけられる。それはもう、知ってるやつから知らないやつまで。


ぼくらに話しかけてくる奴がまた一人。浩人の悪友、信二である。

信二はぼくら三人のことをじっと見比べると、先程から何度も聞いたアホなセリフ。

「やっぱりお前、産めたんだ」と言われたのは今で10回目だ。


そんなわけ、あってたまるか。



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