第7話
……
………っ
あれっ、温か……い…?
……
「……んっ」
もふもふしている?
柔らかい?
「……んんっ?」
目を覚ました私の目の前には、もふもふで柔らかな、金色の毛あった。
私はその金色の毛に包まれて眠っていた。
「ここは……どこ?」
天国なのかな?
あの森は天国に続いていたの?
毛並みの良いもふもふに顔を埋めると、そのもふもふはもぞもぞと動いた。
「んっ…お前、気づいたのか…」
「わあっ、毛玉が喋った。喋る毛玉?」
その毛玉は私の前で、動き声を上げた。
「おい、違う。よく見てみろ」
「……見てみろ?」
喋る毛玉の言う通りに、よく見ると、頭にふさふさの耳らしき元が見えた。
それに大きな口に牙?
立派な鬣。
上半身に服は着ていなく、私を包み込む金色の毛が、もふもふしていた。
お尻には私に毛玉と呼ばれて、少し機嫌を損ねたのか、大きく揺れる尻尾があった。
「あれっ、あなたライオンさん…みたい?」
「みたいじゃない、俺はライオンだ」
どういうわけか私は、金色のもふもふをした、大きなライオンさんの腕の中で、優しく抱きしめられて眠っていた。
手を伸ばして触ると、柔らかい、もふもふだった。
もふもふから顔を上げて、彼の顔を覗くと、私を見つめる優しい琥珀色の目。
でも、大きな口はちょっと、拗ねたのか、とんがっていた。
「ふふっ、ライオンさんだね」
「ふん、わかったか」
「うん、わかった」
「なら、いい……あっ。お前には言わないと、いけないことがあったんだ」
そう言うと彼は次に眉をひそめ、困った顔を覗かせた。
「…なぁに?」
「あのさ…あの……」
「なんでしょう?」
今度は言いにくそうに口を開いた。
「悪い。お前の服を…その…上手く脱がせれなくてな…破ってしまった……すまん」
「服を破って、すまん?」
いきなり私に謝った彼は部屋の隅を指を指した。
その指先を見ると真っ黒に汚れたワンピースが、ビリビリに破けた状態で置いてあった。
「あっ…私のワンピース」
「お前を見つけるのが後、少し遅かったら……いいや…お前の体が思った以上に冷たくて、焦ったんだ…それで破ってしまった」
体が冷たかった?
そうだよね。
寒空の下、薄手のワンピース一枚で、木の下で寝ていたのだもの。
私はあのまま……でも、よかった。
「そのまま、ほって置いても…よかったのに……そしたら私は……」
眠れたのに…。
忘れる事が出来たはず。
この苦しみが終わったはず。
それら全てから逃げて、終わってしまえば、彼の事を忘れてしまえた。
ギリっと…何かを噛む音を聞いた。
「バカか!そっ、そんなこと言わないでくれ。どれだけ…どれだけ俺が必死にお前を…助けたと思っているんだ」
「ひゃっ」
彼がばっと叫び起き、私の肩を掴み、私をベッドに押し付けた。
「痛っ…」
「お前は……なんて事を言うんだ…何が…目が覚めなくてもいいだと、そんな事を言うんじゃねぇ」
鼻にシワを寄せ「グルルル」と低い声で鳴いて、私に牙を見せた。
その時に、しっかり見えた彼の顔。
怒っているのに何処か悲しそう。
眉をひそめ、いまにも泣きそうな、悲しい目をしていた。
「…バカな事を…言うなよ」
彼の目からぽたっと私の頬に涙が落ちた。
その涙を見て胸が締め付けられた。
ああっ、私は見ず知らずの、彼を傷つけてしまった。
私の目から涙が溢れ出す。
「ああっ…ごっ…ごめん…なさい、ごめんなさい……でも、私…は……」
2人のことを思い出すと、胸が潰れそうなくらいに苦しくて、涙が溢れるの……。
「胸が痛いの、苦しいの…涙が、止まらない……ああっ……」
泣きじゃくり出した私。
彼は押し付けていた手を取り、私の背中に回し、胸に抱きしめてくれた。
温かい胸の中で、優しい声が降ってくる。
「…怒鳴ったりして悪かった。大丈夫だ、いいだけ泣けよ。俺が抱きしめてやる…だから、好きなだけ泣けばいい」
「うっ、ううっ……ああっ……ライオンさん、ありがとう」
彼に抱きついて泣いた。
泣いてもリオン君は戻らない。
何も変わらない事も知っている。
でも、この苦しさを全部、出してしまいたかった。
温かい彼の腕の中で私は泣きじゃくった。
「ごめんね…ライオンさん…ありがとう…うっ……ありがとう」
「ああ…わかってる」
彼のたてがみに手を伸ばし、抱きついて頬に擦り寄った。
私の涙で濡れた。
立派なたてがみを、彼は気にすることなく、彼は黙って優しく私を抱きしめてくれた。
「…ありがとう…ライオンさん」
「うん」
たくさん泣いて……全て出し尽くしたのか涙は止まると…。
私の体から力が抜け落ちた。
「…よかった。涙は止まったみたいだな」
優しく話すライオンさんの声は、私には届かなかった。
「…っ」
「ふふっ。なんだ……泣き疲れて寝てしまったか…ゆっくりとおやすみ」
私は彼の腕の中で眠りに落ちた。




