第5話
近くの町まで歩き、そこから、どこに行くかわからない相乗りの荷車に乗った。
行く当てもなく、相乗り荷車を乗り継ぎ、乗り継いた。
変わっていく景色を、何気無しにぼーっと眺める。
私の事を誰も知らない、国へと…街へと行こう。
初めて宿にも泊まった。
泊まる宿も奮発した。
たくさん美味しい物も食べた。
いくつもの街や国を過ぎて行く。
国に入る為や、国境を越える為にも、お金がいる事をこの旅で知った。
それらの支払いや、宿代、相乗り荷車代。
有る程進んだ頃には、貰ったお金も、貯めたお金もお財布には残っていなかった。
「…資金もついたし、ここまでだね」
村を出てから1週間。
私の長い旅は終わった。
最後のお金を払い私は相乗り荷車を降りた。
村の荒れた道とは違い、一本の舗装された道を歩く。
その横には大きな小麦畑が見えた。
それを見ながらひたすら、まっすぐな道を歩いた。
夕暮れを迎え…日が傾いてくる。
「今日、何処かで寝る所を見つけないと」
もう、お金もないから野宿だけど
日が落ちて空がオレンジ色に輝く中を歩く、しばらく真っ直ぐに歩くと、大きな森を見つけた。
その、森の入り口には〈この森に入るな〉と書かれた看板が設置されていた。
辺りを見ても小麦畑の他に、家が一軒もみあたらなかった。
「ここでいいや、この森で夜を明かそう」
看板の横を通り抜け私はその森に足を踏み入れた。
ざわざわと私を拒むように木々を揺らす。
森に入った途端に闇が迫って来た。
入る前まで綺麗なオレンジ色に輝いていたのに、森に一歩入った途端に、闇に包まれ、薄暗くなった。
でも、私にはお金も行くところもない。
この大きな森の中を歩いて、寝る所を見つけよう。
中に進めば進むほど、周りの生い茂った木々が私に迫って来るようで怖かった。
怖くて…思わず声が出た。
「……リオン君」
彼の名前を呼んだ。
でも、その彼の名前を口にしただけで、胸がぎゅーっと潰れそうなくらいに痛い。
私の手はワンピースを掴んでいた。
行き場のない思いが溢れる。
昨日散々泣いたのに、まだ私の涙は、乾いていなかった。
「リオン君好きだったよ」
「私にはあなただけだった」
「もっと、一緒に笑いたかった」
「ば…か」
「裏切り者」
「リオン君なんて、大嫌い」
思いっきり声を上げて森の中で叫んだ…「大嫌い」と叫ぶと私の声が反響した。
木霊だ。
もう一度「大嫌い」と叫んでみた。
森の中を私の声が木霊する。
「ふふっ、はははっ……大嫌いか…嘘、まだ好きだよ」
そう簡単には忘れれない、あなたとの優しい思い出が、たくさんあるんだもの。
でも、リオン君は私を裏切り、セジールお嬢様と結婚をしてしまった。
残ったのは何も無い私1人だけ…。
その後は涙を拭き途方もなく森を歩いた。
歩いて真っ白だったワンピースは汚れた。
足元が暗く木の幹にヒールをとられ、つまずいたり、転んだりして黒く汚れていった。
歩いても歩いても、変わらない森の景色。
「…疲れちゃった」
歩きま割重くなった足。
どれくらい森の中を歩いたのかな?
森の中では、いまは何時なのかもわからない。
さっきは夕暮れで空がオレンジ色だった。
もう日が落ちて夜かもしれない、そう思うと風が冷たく肌寒く感じた。
自分の足元も暗くて見えない。
「…ここでいいや」
少し休むのに丁度良い大きな木を見つけ、私はそこに腰を下ろす。
座って空を見ても木で覆い隠されて、月も夜空は見えなかった。
真っ暗だ。
座った途端に疲れが出てくる。
歩き疲れだのだろう、瞼が重くなり私は眠りに落ちていく。
ここでいいやと諦めた「おやすみなさい……」私は眠る。
もう、目を覚まさなくてもいいかな…
このまま私は1人ここに眠る。