第3話
何が慰謝料なの?
私の頬に溢れた涙がつたう。
「バカ。リオンのバカ!」
走り去る彼の背中に叫んでも、振り向きませず、彼は去って行った。
「こんなのって酷すぎるよ」
夕暮れ時…彼の背中が見えなくなっても、私は呆然と立ち尽くす。
「ティーちゃん、大丈夫?」
「隣の……おばちゃん」
私が大声をあげたから聞こえたんだ。
周りを見ると他のご近所さんも、外に出てきて、心配そうに私を見ていた。
全部聞かれたたんだ……こういう時って、小さな村は困っちゃうね。
私は涙を拭き笑った。
「おばちゃん。皆さん、うるさくしごめんなさい…大丈夫だから心配しないでね」
みんなに頭を下げ、それだけ言い。
これ以上、何か聞かれたりするのが嫌で、私は慌てて家に駆け込んだ。
また、しばらくは村で噂の的になるだろう。
去年のプローポーズの時も見られ、村中の噂の的になった。
その時は「おめでとう」と会う人に言われたけど…今度はどんな噂がたつのやら。
会う人みんなに、可愛そうだと言われる?
なんて惨めだ…。
そんな事を考えるのも嫌で、部屋に入るといつも見える位置にと、掛けていたワンピースに目が止まった。
去年のプロポーズの後、近くの町まで一緒に行って、選んで買った…真っ白なワンピース。
『似合ってる可愛い、ティーこれを着て僕の所においで』と笑顔で言ってくれた彼。
今日は全く逆のことを辛そうな顔で言った。
『婚約と結婚を無しにしてくれ』
『他に好きな人ができたんだ』
貴方の言葉を信じて、今日の日を、どれだけ楽しみにしていたと思うの?
「…酷いよ…酷すぎるよ、リオン君」
仲良く選んで買ったワンピース。
その時を思い出して、そっと、手を伸ばし触れた。
触った途端に、胸にズキっと、痛みが走った。
「…あっ……ああ…っ…」
絶望と悲しみ……ポタポタと頬をつたわり涙が服に、床に雨を降らす。
「私…リオン君に嫌われる様な事を……したの?」
止まらない涙。
呆然とワンピースを触り泣いていた。
誰かが…コンコンと玄関を叩いた。
誰にも会いたくなくて、居留守を使ったけど、何度もコンコンと、叩かれる玄関。
もしかして…リオン君が戻って来た?さっき言ったことは、嘘だよって言ってくれるの?
涙を拭き急いで扉を開けると、リオン君のお母さん、ミリおばさんが青い顔をして入り口に立っていた。
私を見ると詰め寄り両腕を掴む。ミリおばさんからはいつものパンの匂いがした。
「ティーちゃん……ごめんね、うちの子が…ごめん」
おばさんのこの表情で、これは嘘ではなく本当のことなんだと、再度、現実を突きつけられた…
「ミリおばさん…説明を、して下さい」
「何も言わなかったの?あの子訳も言わず、いきなりティーラちゃんに言ったんだ。でも、この話をすると辛くなるよ」
「これ以上、辛いことなんてないです。理由を知りたい…ただ、それだけです」
私の言葉にミリおばさんは頷き、ゆっくりと話し出した、彼の恋の相手は男爵家令嬢。
領主の1人娘で同い年の18歳。ふわふわピンクの髪に胸の大きなスタイルのいい子。
私とリオン君が一緒にいると、割り込んでくる、うるさい子。
『あんたは邪魔よ』
『リオンは私のことが好きなのよ』
『リオンは私と結婚するんだから』
『あんたみたいな貧乏人なんか、リオンは好きじゃないのよ』
いつも私をバカにして、除け者にしたセジールお嬢様。
リオン君はそんな、セジールお嬢様を好きに、なったの?