第2話
余り眠れず18歳の朝を迎えた。
昨日貰ったパンを、取り敢えずお腹に収めた。
予定も無く、することも無い。
日中は椅子に座り、ぼーっと時計を眺めていた。
柱に掛けた時計がボーンボーンと鳴り、お昼前を報告する。
「今頃…2人で教会で式を挙げていたのに、大切な日に用事だなんて…」
でも…その用事が終わったら、来てくれるかも知れない。
髪を整え、お化粧を済ませて待ってる。
しかし…リオン君はお昼を過ぎても、家に来ることはなかった。
夕方になり薄暗くなった頃、外でカタンと音がして、何気なしに窓の外を見ると、家の前を行ったり来たりと、ウロウロする彼がいた。
「リオン君?」
用事が終わって会いにきてくれたの?
いてもたってもいられなくなり、お気に入りのワンピースに着替え、彼がいる家の外に出る。
「リオン君!」
「ティー…」
家の外にいきなり現れた私を見て、驚いた表情をした。
今日は用事があると言っていたはずなのに、彼はシワシワのアイロンのかかっていないシャツに、穴の開いたズボン姿だった。
家の明かりで見えた彼の表情は、顔色が悪く、目が充血していた。
「何かあったの、リオン君?」
私が彼に近づこうとすると、一歩下がり唇を噛み手を握りしめる。
近付こうとすれば彼が離れる。
こうしたやりとりが続く。
リオン君は一呼吸置くと話し出した。
「ティーに言わなくちゃいけない、話があるんだ」
「話?」
なに?と聞こうとしたけど、彼は早口で、先に話し出した。
「ごめん、ティー……君との婚約に結婚を無しにさせてもらう」
「えっ…結婚を無しにする?」
思っても見なかったリオン君の告白。
さっきまで彼に会えて嬉しい気持ちが、一気に消え去り、頭が真っ白になり彼に詰め寄った。
「どうして、リオン君?婚約と結婚を無しにするって、どういう事なの?私リオン君に何かした?」
握りしめている彼の手を掴み、私より高い身長の彼を見上げて聞いたけど、彼は辛そうに私から顔を晒した。
「ごめん…ティーの他に好きな人が……出来たんだ」
……私のほかに好きな人が出来た?
「リオン君、それは本当なの?」
「…ごめん」
彼の表情を見てすぐにわかった。
あっ、これは嘘じゃないんだと…。
小さい頃から一緒にいたんだもの、両親を無くした私の側に寄り添い、一緒にいてくれたリオン君。
将来、結婚しようねと笑って約束してくれたリオン君。
「なんで、どうして?今日…本当は私と結婚するはずなのに…好きな人が出来たからなの?だから今日式を辞めようって言ったの…そんなの酷いよ。今日言うなんて……だったらもっと早く言ってくれればいいじゃない?なんでいまなの、今日なの?酷いよリオン君」
「……ティー、ごめん」
「ごめんで済むと思う?一年前に私の家の前でプロポーズをしたくせに…何が他に好きな人よ、馬鹿にしないで!!」
私は震える手で思いっきり、彼の胸を叩いた。でも、彼の口から出るのは、ただ「ごめん」の一言。
「全部…俺が悪いんだ…ティー、ごめん」
「何が悪いの、はっきり言いってよ!!」
といくら詰め寄っても、私の目を見ないで、ただ、目を伏せるリオン君。
「ティー、本当にごめん」
リオン君は私を押しのけ私を遠ざけた、私達の間に距離が出来る。
「ごめん…ちゃんと慰謝料は払うから、なかった事にしてくれ」
彼はもう一度「ごめん」と言って私から、逃げるように去って行った。