ちょっ、自分好みの令嬢に転生したら周りが騒がしいんですけど!
おはようございます、起きてください。
……え? 「お前は誰だ」ですか?
まあ、あなたの中のあなt……ちょっとなに言ってるかわからない? 失礼しました。
そうですねぇ…………「神を始めたラジオ」という、神様的な、私は神だー! 不滅だー! ……的な。そんなことは気にしなくていいですよ。
さてさて、そろそろ目を開けてみてはいかがでしょう? 何が見えますか?
……白くて丸いテーブル?
……テーブルから伸びてるパラソル?
……テーブルの上に置かれている紅茶に、小さく切り分けられたガトーショコラ?
……雲一つ無い青空?
……人だかり?
……観覧車?
……なるほどなるほど。そうですね。次は、あなたの体を見てみてください。下を向くと見えてくるでしょう? 白と薄い桃色の綺麗なドレスに、つやつやの両手。いいですねいいですね。
そうです。今日からあなたは、あなた好みの財閥ご令嬢として生まれ変わりました! おめでとうごさいます!
ちゃあんとあなたの好みに創造したんですよー。身長はどうですか? 高いですか? それとも低いですか? お胸はどうですか? 大きいですか? それとも小さいですか? 瞳の色、肌の色、その他もろもろのステータスはどうですか? どうです、見事に叶えているでしょう? 私のこと、褒めてくれてもいいんですよ? ……え、あ、そうですか……。
……おほん。
……もう、お気づきですか?
そうです、ここはとある遊園地のフードコートコーナーです。あなたはこれからここで……あれ、ちょっと、聞いてますかー?
「理子、いい加減にして!」
……ん? ……あー、向こうのテーブル席で二人の少女が喧嘩しているみたいですねー。……あのー、そっちばっかり見てないで、私の話を……。
「急にどうしたの柑奈、そんなにカリカリして」
「理子がそんな態度だからでしょ! せっかくアタシ達の子どもの名前を考えていたのに!」
「いやだって、まだデキてもいないんだし、そもそもそんな技術が確立されてないし、そんなにせかせかしなくてもいいんじゃって言っただけじゃん」
「アタシは早く二人でお互いの赤ちゃんを産みたいの! それがなに!? 『もー理奈でいいじゃん』って! 真面目に考えて!」
「えー」
あちゃー、片方テーブルを叩いて激おこですねぇ。……ささ、あちらは放っておいて、そろそろ本題に……って、おーい、聞いてますかー?
「はぁ、もうやっきりしちゃうわよ……」
「やっき……え、なにそれ」
おーい。
「……っていうか、せっかく遊園地に来たんだから、そんな調子じゃ困るんだけど」
「なに、アタシが悪いっていうの?」
「そんなこと一言も言ってない。ただそんな叶いそうもない夢の話をしたところで意味はないって言って……」
「あーもう知らない! もう別れる!」
「は!? なんで逆ギレするのさ!」
「逆ギレしてるのはそっちでしょ!」
「逆ギレなんてしてないって!」
……はぁ。……もう、いいですよ。……それじゃ、とりあえずそこの紅茶を飲んでくださいよ。
……はい、ごくっとどうぞ。
……さあ、そして。
あなたは死にます。
どうです、苦しいですか? そうですよね、苦しいですよね!
いわゆる青酸カリというやつです。いかがですか猛毒のお味は?
喉が弾けてる? 胃がスパークリングしてる? ……ほぉほぉ、いいですねー。……あの、そんなハァハァされても困ります。発情期の動物じゃないんですから。
あーあードレスに紅茶こぼしちゃった。いーけないんだーいけないんだー。
……あれ、もしかして吐いちゃいますか? ちょっと、もう口の端から変なもの溢れてるじゃないですかやだー。
…………あなた、ノリが悪すぎです。もう飽きちゃいました。私の話も真面目に聞いてくれないし。神様は気まぐれなのです。
……あれ、聞こえてますか? もしもし、もしもーし。
……あちゃー死んじゃったみたいですねー。だめですよー腐っても財閥のご令嬢が白目向いて喉を掴んで紅茶吐き出して倒れるなんて、だらしないですよぉー!
……ふん。
……さ、元の体に戻るといいですよ。
それじゃ、バイバイでーす。