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没1  作者: 零眼のメルト
14/16

再開、されど初対面

「それでは、受付で入場手続きを行ってからお入り下さい。」

「わかりました。ありがとうございます。」

僕達はその後受付に行った。入口には様々な人の写真が貼られていた。世界中心機関創設者や現所長のバウル=カーン、世界中心機関軍の各隊長達、その他色々な写真が飾られていた。

「ラクターン兄ちゃん、あれ見てよ。ビンセントさんの写真があるよ。」

僕がそこに目を向けると、世界中心機関軍第2番隊隊長の所に飾られていた。僕達は奥へ進み、入場手続きを済ませ、身元不明者の保護施設に向かった。例えはおかしいが、いわゆる世界がかりの迷子センターといったところか。

「こんにちは、連絡をして下さったラクターン様でよろしいでしょうか?」

「はい、そうです。」

僕は身分証明書を出した。一つ一つ詳しくチェックされている。流石世界を支える唯一の大黒柱と言ったところだ。

「お待たせ致しました。身分証明書はお返しします。」

受付の向こうの扉を開けて中に入った。控え室のような部屋だった。

「失礼します。お話よろしいでしょうか。」

受付の方が後ろから付いてきて、呼びかけた。僕達はうなづいた。

「先に申し上げておきますと、ここから先、とても精神的苦痛を感じることになると思います。事件や事故に巻き込まれ、身元不明になったり、保護者が居なくなったり、1人で生活出来ず迎えを待つ人がいます。その様な人の中には五体満足の方もいらっしゃいますが、殆どの方が大きな怪我を負っています。中には四肢欠損、顔面喪失、人の形を留めず辛うじて生きているという人もいらっしゃいます。事件ごとに身元不明者を分けていますが、その中から、あなたがたの探していらっしゃる方を見つけていただくことになります。私たちの方では、精神的、肉体的ダメージの大きい方からは名前は聞き出せず、このような形になります。もし仮に、ということがあるのでここで覚悟を決めてください。長く失礼しました。」

僕はより緊張した。もしもセイレナの右腕が無かったら、顔が真っ平らでのっぺらぼうだったら、もしも、本当に『死んで』しまっていたら………。悪い考えが巡ってくる。でも、僕は例えどんな形であれ、セイレナを連れに来たのだ。セイレナはセイレナだ。生きているだけで、彼女は僕の大切な人なんだ。

「大丈夫です。覚悟ならもう出来ています。」

「俺も出来ています。」

「わ、私も…。」

受付の方が一息ついた。

「わかりました、ご案内します。」


───────────────────


僕達は5分くらい歩いた。四肢の無いもの、全身に包帯を巻いたもの、気の抜けた顔で天を仰ぐもの、様々な人がいた。中にはかなり健康体の方もいたのだが、レイラが少し青ざめた顔で歩いている。

「レイラ、大丈夫か?」

レイラはこちらを見て、何回か頷いた。

「キメダ村消失事件被害者の部屋はここです。どうぞ中へお進み下さい。」

僕はドアに手をかざした。恐ろしい程に心臓が鼓動していた。ドアが開く。フワッと廊下とは違う空気が流れてきた。それは人の臓物の匂いや薬品の匂いではなく、心地よい花の香りだった。部屋を見回すと何人かがいて、おおよそ完治不可能な怪我を負った人物も明るい表情をしている。間違いない、彼女はここにいる。部屋を少し見回すと車椅子の男性に花冠を上げている少女がいた。僕は咄嗟に駆け寄った。

「セイレナ!」

彼女は振り向いた。やっぱりセイレナだ!僕は嬉しさのあまり泣き出しそうになった。

「セイレナ、無事だったんだな。帰ろう、僕達の家に。」

セイレナの表情は依然として晴れない。それどころか不安そうな表情さえ浮かべている。

「ごめんなさい、どなたでしょうか?」

僕はその瞬間頭が真っ白になった。セイレナが記憶を失っている。いや、彼女は本当にセイレナなのか?全く似た別人だったら……。

「セイレナ、ラクターン兄ちゃんだよ。覚えてないの?私はレイラだよ?」

セイレナはまだおどおどしている。

「ダメだ、セイレナ完全に記憶喪失になっちゃってるよ。兄ちゃん、大丈夫?」

大丈夫なわけない。今にも死んでしまいそうだ。

「すみません、つかぬ事をお聞きしますが、今日セイレナさんと共に帰られますよね?」

受付の方が質問してきた。

「……、もちろん。」

「そうですか。記憶喪失の場合はここに通ってもらうことになります。」

「……いつまで?」

「セイレナさんが記憶を取り戻すまでです。」

僕は体が勝手に動いた。気づいたら胸ぐらを掴み、叫んでいた。

「てめぇは僕をあの汚らわしい解体屋と一緒にするのか!?ふざけるな!今すぐにここでお前を」

急に体に何かをかけられた後、身動きが出来なくなった。受付は持ち上げられていたためドサッと落ちた。

「ラクターン兄ちゃん、ストップストップ」

ワタルが僕に呼びかけた。レイラは震えながら僕に能力をかけている。僕はあの受付に目をやった。見ると、顔右半分に違和感があった。欠けている。明らかに右目とその近辺が抉れている。もしかして、僕が……。

「大丈夫です、元からです。しかもこういう仕事ですし。」

立ち上がって顔の抉れている所を触っている。

「こうなるのが普通ですよ。自分の大切な人を迎えに来たのに、解体屋扱いされて怒らない人はいません。」

「ここにはいつから務めてるんです?」

「3年前からです。」

「その傷は…。」

「……2年前くらいでしょうか。」

僕はとてつもなく申し訳ない気持ちになった。感情に任せて動いてしまった。

「すみません。感情的になりすぎました。」

「いえ、大丈夫です。こういうのは慣れてるので。」

その後レイラとワタルも何も話さず気まずい空気になった。

「この施設の中に食堂があるのでそこでお話されると記憶を取り戻すきっかけになるかもしれませんし、どうですか?」


───────────────────


とても綺麗な食堂で床も光り輝いていた。とても軍隊が13もある場所には見えない。大きなガラス張りの窓からは周りの砂漠が見える。ここは砂漠の真ん中にある。見晴らしがよく、人が寄らないため周りからの侵入者をゼロにすることが出来るかららしい。僕はコーヒーとクッキーを持って机に座った。ワタルとレイラ、セイレナにそれぞれコーヒーとクッキーを渡した。まずセイレナにケーター団のこと、そこで彼女が何をしていたのか、自分は何者かをワタルとレイラの話も加えながら話した。結果は

「私ってそんな凄いところにいたのね。テレビでたまに見ます。」

という返事だけだった。もうセイレナの記憶は戻らないのだろうか。

「もし、宜しければ受け取ってください。ここでお会いしたのも何かの縁ですし。」

そう言ってセイレナは花を手のひらに3つ咲かせた。僕と天水兄弟は目を見合わせた。セイレナが持っていたのは青いペチュニアの花だった。セイレナが記憶をなくす前、新しく仲間になったり、知り合った相手にこの花を渡していたのだ。セイレナはまだ、記憶を完全に失った訳ではない。微かな希望が出てきた。その時、急にサイレンがなった。けたたましくなり、アナウンスが流れた。敵軍がこちらに進行してきている?僕は窓の方を見た。砂の中から人々が出てきていた。しかし異様であった。あの灼熱の砂の中から生身で出れるはずがない。しかも、全員10歳ほどの子どもの見た目をしている。幻覚なのか?まるで悪夢がそのまま現世に出てきてしまったような光景だった。

「ここは危険です。避難しましょう。」

受付の方が僕達に呼びかけた。その声をかき消すように外で砂を思い切り巻き上げる音が聞こえた。サソリの尾のようなものがこちらに向かって疾走している。瞬きする暇もなくそれはこちらまでたどり着き、尾から何かを射出した。その直後防衛壁が下から飛び出し、巨大で歪んだサソリのような甲殻類はバラバラになりながら宙を舞った。射出したものは真っ直ぐこちらに飛んできた。あれは………人!?窓ガラスが思い切り割れる。僕はセイレナと天水兄弟を庇った。とてつもない罵声が聞こえる。

「もう1人のォ!!!!!!わぁたしぃはぁ!!!!!!どぉこでぇすかぁァァぁぁぁー!!!!!!!!」

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