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没1  作者: 零眼のメルト
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尚俊の故郷

静かな荒原鳴り響くのはバイクのエンジン音のみ。砂煙を巻き上げ、僕のバイクは疾走していた。今日は久しぶりに仲間に逢いにいく。僕がこうして殺し屋として働き、お金を稼いでいるのにも理由がある。この仕事自体が汚れた職業であるのは知っているが、彼らは皆、認めてくれている。僕はカーナビを見て、位置を確認した。切り立った崖が目の前にある。

「平和、安寧、秩序」

少し待つと崖の一部がドアの様に開いた。いつぶりだろう。もう2年も来ていなかったか。中に入ると1人の少女が飛びついてきた。

「おかえり、寂しかったよ、ラクターン兄ちゃん。」

「全く、レイラは寂しがり屋だからな。待ってたぜ、兄貴。」

「元気にしてたか、レイラ、ワタル。しっかり平和の役に立ててるみたいだな。」

2人は笑顔を見せた。普段使っている名前も実は偽名だ。久しぶりに本当の名前で呼ばれたものだから少し慣れない。ラクターン=キライア、それが僕の本当の名前だ。天水兄妹と今までの事や雑談をしながら通路を歩いていった。『大広間』と書かれたドアの前についた。変わらないこの空気、とても落ち着く。ドアが自動で開き明かりが漏れた。

「ラクターン、おかえりなさい!!!」

大きな歓声とクラッカーの音が聞こえた。パーティのハットを被った仲間たちが手を引き大広間に作られたステージの上に誘導した。ステージの上には身長3メートルはあるだろう大きな体格に機械によって強化された銀色の左腕を持つ、我らのリーダー、ラインハルト=ケーターがいらっしゃった。

「今ここに我らケーター団の誇りである、ラクターン=キライアが帰った。その帰還を祝福し、楽しもう。」

ラインハルトさんが僕にマイクを渡した。

「ただいま、僕のためにこんな盛大な会を開いてくれてありがとうございます。2年も間を開けてしまってすみません。今までの寂しさを全力の楽しさに変えましょう。」

辺りから拍手や歓声があがる。水が浮いてステージに階段状になったと思うと途端に凍った。その階段を天水兄妹が登って僕の側によった。ラインハルトさんにマイクを渡して、机にあるグラスをとった。

「それでは乾杯といきますか。我ら一人一人にある誇り、そして正義のために死んでいった仲間の意志を胸に我らの三つの聖なる言葉を叫び乾杯しよう。ではいくぞ!」

会場の全員が息を吸い込む

「平和!!!!安寧!!!!秩序!!!!」


───────────────────


僕は浴場から出て、頭を拭いていた。

「今日は楽しかったか。我が英雄よ。」

後ろを見るとラインハルトさんがいた。左腕は外していて、体に刻み込まれた古傷が見える。

「ええ、とても楽しめました。けど少し疲れました。」

「ハハハ、まあ相当嬉しかっただろうな。俺もとても嬉しい。こうしてまた話が出来ることも、笑い合うことが出来るのも。」

2人で笑いあった。その後、少しの沈黙が流れた。

「まあ、正義のために犠牲は出てしまう。誰が欠けても悲しいし、いつか誰もいなくならない世界になれば良いのにな。」

「セイレナ、彼女はどうなってしまったのですか。」

ラインハルトさんはため息をついた。

「キメダ村に滞在してた時に、ベヒタスの一味に襲撃された。後には何も残っていなかったそうだ。」

「あの人の皮を被った野獣はこの手で下しました。」

ラインハルトさんは驚いたようにこちらを見た。セイレナ、2年前に会った時はまだ小さくて泣き虫だった。花を作り出す能力を持っていて、皆を癒すのが得意だった。僕が殺し屋の仕事の時に捕虜として捕えられていたセイレナを救ったのが初めての出会いで、それから彼女は僕を兄のように慕い、僕は彼女を妹の様に可愛がった。

「ベヒタスを殺ってももうセイレナは帰ってこないのですよね。」

ラインハルトさんは慰めようと言葉を出そうとしているようだ。

「大丈夫です。きっと彼女は今も僕達を見守っています。確かに悲しいですが、彼女の死を無駄にしてはいけません。それでは先に行きますね。」

「ああ、今日はゆっくり休んで体を崩さないようにな。おやすみ。」

「おやすみなさい。」

僕が扉を開け、出ようとした時ラインハルトさんの声が聞こえた。

「明日、話したいことがある。朝、いつもの集会の後、俺の部屋に来てくれないか。」

「了解です。」

部屋に戻った僕は直ぐにベッドに横になった。セイレナの顔を思い浮かべると涙が出てくる。ああは言ったものの、悲しみから抜け出せない。悲しみの中、眠りについた。

大切な人を失くした尚俊、いや、ラクターン。ラインハルトの話したいこととは。次回へ続く

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